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助け合うチームの作り方 コバルトーレ女川 阿部裕二監督のマネジメント術

新型コロナウイルスの感染が拡大する中で始まった本年度。新入社員を迎えた職場で新組織の運営を任されている人も多いのではないでしょうか?

会社の目標を達成するため、社員の意識を高め成果を上げていくことは、なかなか難しいもの。今回は、個性豊かな選手を率いるコバルトーレ女川・阿部裕二監督のチームマネジメントに注目。過去の試合を振り返りながら、会社の組織運営にも通じるチーム作りを紹介します。

【コバルトーレ】阿部裕二監督のチーム作り (88)

選手たちの練習を見守る阿部裕二監督(中央)

⚽全国大会で見せた力

全国に9つある地域リーグの王者らが集い日本フットボールリーグ(JFL)昇格をかけて争う全国地域サッカーチャンピオンズリーグ。2017年大会のコバルトーレの優勝を「奇跡の優勝」と呼ぶ声もありますが、阿部監督は奇跡とは思っておらず「練習の成果が出ただけだ」と話します。

この大会、阿部監督が最も印象に残っているのは決勝ラウンド第2節、関東覇者のVONDS市原FC=千葉県=との戦い。

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決勝ラウンド第2節 2017年11月25日 ゼットエーオリプリスタジアム

コバルトーレは前半21分、池田幸樹選手のゴールで先制。攻守が入れ替わる攻防が続く中、負ければ、つかみかけたJFL昇格が大きく遠ざかる試合でしたが、37分、直接フリーキックを決められて同点に追いつかれてしまいました。

この直後、阿部監督は具体的な対応策を指示しませんでしたが、ピッチ上の選手たちが自然と集まり、円陣を組みました。試合の流れや攻守のリズム、攻め込んだ時のリスクを肌で感じている選手たち自身が、勝つために戦略を話し合い始めたのです。

この時、円陣の中にいた池田選手は「チームは右サイドからの攻撃突破に危機感を持っていた」と振り返ります。

話し合った結果、同サイドの池田選手が引いたポジションを取り、対応に苦戦していた守備陣のフォローに入りました。
選手たちは「前半はリスクを追わず、このままで折り返そう」と決め、前半を1―1で折り返し、PK戦で勝利。この時、円陣を組み、単に気合を入れ直しただけじゃなく、指揮官の指示を待たず自分たち自身でチームを修正し、試合をコントロールする力を発揮したのです。

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池田選手が先制ゴールを決めてチームを勢いづけたが、この後にフリーキックを決められてしまう

全国の舞台でパスサッカーを見せたコバルトーレは「良い距離感のチーム」と評されました。

この距離感は個で勝てなくてもチームで勝つための戦術として、阿部監督が選手たちの頭と体に練習でたたき込んだ距離感なのです。

⚽良い距離にいれば仲間を助けられる

「仲間を助けるポジションを取れ」。練習中の阿部監督の口ぐせです。ポジションはゴールを奪い試合に勝つための役割でしかなく、攻守問わず、全てに仲間を助ける動きが求められます。

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仲間を助けることが、自分を助けてもらうことにもなります。
好循環が生まれればチームの一体感も高まり、優れた個人技を持つ選手を相手にチームで戦うことができます。

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⚽甘えをなくしてチームを強化

阿部監督は練習後も積極的に選手たちに話しかけコミュニケーションをとっています。選手たちを良く見てプレーの特徴や性格を把握することが指揮官の仕事だからです。

【コバルトーレ】阿部裕二監督のチーム作り (44)

ちょっとした短所や苦手なプレーには目をつぶり、最大限に長所を伸ばす事が短期的な結果を得るには効果的。失敗した時には、仲間のせいにすることなく、自分がどれだけ、仲間に合わせられるかを考えさせます。

そのためには、内省した上で自分を変えていく「自己分析力」が大切になります。また、本人さえ気が付かない「自分への甘えや弱さ」については、厳しく指摘しています。

⚽自主性の中で作られるチームの責任感

キャプテンの宮坂瑠選手はチームを「自由な大人たちの集まり」と表現しますが、チームはトレーニングや試合を重ねる度にコンセプトの「パスサッカー」を形にしています。

試合中、阿部監督は具体的な指示を出しません。また、選手たちの動きを制限する「ルール」はあまり作りません。

監督が「走れ」と指示しても次の瞬間には局面が変わっています。阿部監督は自分の行けるタイミングや相手との間合いを一番理解している選手自身が局面を判断するのがベストだと思っているからです。

【コバルトーレ】阿部裕二監督のチーム作り-(53)

選手たちの自由を奪うことは、考える力を奪うことにもなります。制限がかかれば、不満も溜まり、選手と監督間の信頼関係にも影響します。

阿部監督は楽しく自由にサッカーをできるように運営してきたことが、全国の舞台で選手たち自身が考え、戦略を話し合うチームに育ったと考えています。

サポーターから「頑張ってください」と声をかけられると、阿部監督は「ありがとうございます。ただ、頑張るのは選手たちですから」と笑顔でいつも応えます。ピッチでプレーする選手たちへ、伝えることは常に伝えているからこその言葉で「信頼している選手たちのプレーを見てほしい」といった意味が込められています。

【コバルトーレ】阿部裕二監督のチーム作り-(78)

練習中も、笑顔や掛け声が絶えません

JFL再昇格を目指し「助け合うチームづくり」をはじめて1年が経ちました。新戦力も加わり、さらなる手応えを胸にリーグ開幕へ臨みます。

(石森洋史)

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