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超高齢社会を生きる 妻に先立たれた夫の1年 孤独防ぐ地域の居場所

 最愛の妻を病気で亡くして1年。蛯名勝蔵さん(85)は、東松島市矢本の自宅に一人で暮らす。「悲しんでいる姿は天国の妻が望んでいないはず」と自ら言い聞かせ、社会福祉活動に精を出すが、孤独感は拭えない。「世間とのつながりが薄れていくようで。新型コロナで孤独が社会問題化されているが、こっちは毎日がコロナ(孤独感)」。伴侶を亡くして一人で暮らす高齢者の境遇を代弁しているかのようだ。待ったなしの超高齢社会。地域に必要なものは何かを考えてみた。【外処健一】

「寂しいの一言」

 蛯名さんの妻照さん(81)は、平成24年にアルツハイマー型認知症を発症。記憶が失われていく中でも蛯名さんは寄り添い続け、照さんも笑顔を絶やさなかった。「夫婦二人三脚」。そんな言葉がお似合いだったが、5カ月間の入院を経て令和元年5月9日、照さんは旅立った。

 それから1年。新型コロナウイルスの影響がやや落ち着いた6月下旬、再び蛯名さんの家を訪ねた。照さんの墓は仙台市若林区にあり、一周忌は仙台市に住む長男夫婦、孫2人とともに営んだ。都内に住む長女は県外移動の自粛から断念した。

 「この1年は寂しいの一言。コロナの影響で家にいる日が多く心労がたまって電話相談もした。答えは見つからないが、話を聞いてもらうだけで心が楽になる日もあった。あすに希望が持てない日もある」。

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 朝夕、仏壇に手を合わせ、その日の予定と出来事を報告する。認知症家族会、男の介護教室、健康体操、終活セミナー。市内や石巻市で開かれる会合に積極的に顔を出す。高齢者同士の「老老介護」の経験を踏まえ、支援者側の立場で話すことも多い。

 会合などで誰かと関わっているときが救いだ。6月24日に河戸地区センターであった百歳体操にも蛯名さんの姿があった。参加者は22人、男性は6人。体操を主宰する民生委員の榎戸悦子さんは「女性は社交的だけど男性は逆。これでも6人は多い方。引きこもり気味な男性の対応が一番難しい。居場所づくりが大事ね」と話す。

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百歳体操で仲間と一緒に体を動かす蛯名さん

 行動力のある蛯名さんは引きこもりとは無縁だが、妻に先立たれた多くの男性は居場所に苦しむ。「二人三脚できた人ほど一人になると寂しさにおしつぶされる。酒やギャンブルに走るのも分かる」。蛯名さんも居場所を探す一人だった。

 介護教室では寄り添うことの大切さを説くが、家に帰れば寄り添う人もいない。日に3度の食事が寂しい。「長男夫婦と住むか、でも孫も学生で日中は誰もいない。だったら住み慣れた場所がいい」。そんなことも考える。体力と気力の衰えを感じるようになったという。

人生の最終コーナー

 新型コロナウイルスの影響で、春は外出することを控えた。趣味や教養講座も中止。人と接することが世間的に阻まれ、社会は「巣ごもり生活」を孤独と結び付けた。「自粛解除されても私の中の孤独は1年前からずっとある。今もこれからも続く。同じ境遇の人が集まれる場所がほしいなぁ」と望んだ。

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 蛯名さんが求める居場所は、設備や環境ではない。好きな時に訪れて囲碁や将棋を楽しみ、歌を歌い、お茶で一息入れる。食事も数人で楽しむ。週に1度の開催や地域に1カ所ではなく、近場で毎日開いている。男女とも気兼ねなく集まれるところだ。

 歳を重ねれば身寄りが少なくなり、悩みも増え、体も思うように動かなくなるのは当然のこと。老いることを恐れるのではなく、老いても楽しく暮らせる地域づくりが求められる。単なる場所に集う人たちが自分の存在を認められたとき、そこは本人にとっての「居場所」となるはず。

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 そういえば1年前は照さんの洋服をどうすべきか悩む蛯名さんがいた。「市内の介護施設で引き受けてもらうことになった。有効に使ってもらえればそれで十分。でも妻が気に入っていた数着はそばに置きたい」と話し、居間に案内された。

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「旅行は決まってこの服」。二人三脚で歩んだ日々を思い浮かべる

 数着の中から薄ピンク色のスーツを取り出す。「旅行の時は決まってこの服。これを着て数回クルクル回りながら喜んでいたな」と懐かしむ。「心豊かに生きていくことが妻への最高の供養と考える。住み慣れたこの地で一歩前に出て行動しないとね」。妻への感謝と孤独を背負い、〝人生の最終コーナー〟を回り出した。


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