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30年の空白ひしひしと 商業捕鯨再開から1年 消費拡大と人材確保課題

 IWC(国際捕鯨委員会)の脱退に伴い日本は昨年7月、31年ぶりに商業捕鯨を再開した。それから1年が過ぎ、捕鯨基地となっている石巻市鮎川浜を中心に新鮮な生の鯨肉が流通し、需要も増えている。観光資源である鯨の博物館「おしかホエールランド」の誘客と共に鯨食文化の普及が今後の課題。鯨肉になじみの薄い若い世代を含め、食育などを通じたアピールと消費拡大の鍵となる。【渡邊裕紀】

 昨年7月の商業捕鯨再開時は、クジラは餌を追って北海道沿岸に北上しており、三陸沖は今年4月が実質のスタート。同市鮎川浜の株式会社鮎川捕鯨(伊藤信之社長)は、北上を追いつつ7月まででミンククジラ16頭、ツチクジラ4頭を陸揚げした。伊藤社長は「しけなどで海の状況が悪く出漁できない日も続いた。本来ならもっと多くの頭数を陸揚げできたはず」と悔やむ。

 6月には同社が出荷したミンククジラ肉を食べた計34人が発熱などを訴え、県は食中毒と判断。5日間の営業停止処分とした。同社は半月、出漁を取りやめて原因調査と再発防止に全力を注いだ。こうした中でも地域からは「いつ販売を再開するのか」との声も寄せられ、社員は勇気付けられたという。

商業捕鯨再開から1年 捕鯨基地鮎川では

32年ぶりに鮎川港に陸揚げされたミンククジラ。地域は活気に沸いたが、消費拡大が課題

 新型コロナウイルスの影響などで価格は下がったが、鯨肉の需要は多くあった。伊藤社長は「まだまだ潜在的な需要はあると感じている。これから鯨肉のファンになる人を増やすことができれば、商業捕鯨の安定につながるはず」と話す。しかし拡大した需要に対応するには、今以上のマンパワーが必要。担い手確保と育成は避けられない課題だ。

若者になじみ薄く

 鮎川浜の観光交流物産施設で、すし店「黄金寿司」を営む古内勝治さん(76)は「普段から生の鯨肉を扱えるようになったのは本当にうれしい。地元の人も懐かしいとその味を楽しんでくれる」と胸を張る。
 同店では観光客も見据え、鯨肉を使ったランチも出す。古内さんは「正直、価格的に利益になるとは言い難いが、鯨食文化を広げるのに一役買えれば」と語り、〝捕鯨の町〟の再興を願っていた。

 昔から鯨食文化が根強い石巻市は、調査捕鯨に伴う副産物の頒布会から見られるように常に鯨肉に対して一定の需要があった。さらに観光で鮎川を訪れる人たちや復興工事の関係者からも手土産に喜ばれるようだ。

 商業捕鯨再開から丸1年が過ぎたが、長く食卓から遠のいていた鯨肉消費はすぐに戻らず、若い世代に対してはなじみも薄い。30年の空白がここにあった。観光で鮎川を訪れた仙台市の男性(40)は「ホエールランドが新しくなったので来た。鯨料理を食べに鮎川に来たことはない。釣りや観光ついでに食べる程度」と話していた。

 日本は調査捕鯨から商業捕鯨に舵を切ったが、政府が調査捕鯨と同様に補助金を出して支えており、事業として安定するには時間を要す。補助金は有限であり、それまでに業務の効率化と消費拡大を進め、利益を生む仕組みを作らなければ立ち行かない。荒波のように乗り越えなければならない課題は多い。


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