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責任感じて今も飼えず 守れなかったペットの命石巻市築山 高橋京子さん

 石巻信用金庫鹿島台支店で支店長代理を務めていた高橋さん。揺れが収まると、付けたラジオから「大津波警報」「8㍍の津波」など想像もつかない情報が流れてきた。

 内陸の鹿島台で津波の心配をすることはなかったが、石巻市築山の自宅に残してきた愛犬リュウと愛猫ミケの安否が気になった。店内を片付け、翌日、再度集合することを確認後、自宅に向けて車を走らせた。

発災後を振り返る高橋さん

 時刻は午後4時ごろ。車中では「予報は8㍍と伝えられていたが、実際はどうなっているのか」「本当ならリュウやミケはダメかもしれない」などと考えた。鹿島台と南郷を結ぶ橋が割れて段差が生じていた。

 通行可能な道を探しながら石巻市の青葉地区周辺までたどり着くと、普段は見かけない水溜まりが。さらに車を進ませた中浦地区では、道路上に住宅が流されていた。津波を見た住民に「大街道方面には進めない」と伝えられた。すでに日が落ち、どこに道路の亀裂があるかもわからない。止む無く自宅に戻ることを断念し、そのまま駐車場で車中泊した。

 翌日、支店の同僚と偶然再会し、一度、鹿島台に戻った。数日後には、向陽支店の手伝いに訪れたが、自宅は水がひいていなかったため状況は確認できず。被災を免れたラーメン店の小上がりを使って寝泊まりした。

 同店には津波で通帳を流失したという被災者が訪れ、窓口業務は多忙を極めた。利用者から「私の目の前でお姑と子どもが流された」と被災体験を聞くことも珍しくなく「体に気を付けてくださいと気遣うことしかできなかった」と振り返る。

 自宅の被災状況を確認できたのもしばらく経ってから。「1・8㍍の津波で平屋の自宅は全壊。小屋に鎖でつないでいたリュウが死に、ミケの行方はわからなかった」。あれから11年が過ぎたが、今も新たにペットを飼うことはできない。

 「叔父の作った小屋で私の帰りを待つリュウとミケの姿が目に焼き付いている。大切な家族だった。責任を感じており、同じような災害が再び起きたらと考えると、新たに迎える気にはなれない」

愛犬リュウと愛猫ミケ

 あの日、自宅にいたらどうしていたか。「犬や猫を置いていけないと車に乗るのに手間取っていたかも。そして渋滞に巻き込まれて流されていたかも」と高橋さん。自宅を再建する過程で、20年ぶりに再開した知人の浩さん(64)と24年に結婚。「私が寂しくならないようにとリュウとミケが導いてくれた」と、感謝の念は尽きない。

 現在では大きな揺れで津波の可能性が考えられる際には、迅速な避難行動を夫婦で実践している。「まずは身を守ること。必要なものはある程度車に載せていることもあるが、何かを持ち出すよりもすぐに身を守ることを意識している。渋滞回避のため大通りに頼らない移動も考えることも大事かも」と備えた。【横井康彦】

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