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主人公に重ねる妻の面影 アニメ映画「漁港の肉子ちゃん」 

 16日にマルホンまきあーとテラスで大盛況だったアニメ映画「漁港の肉子ちゃん」の上映会。企画・プロデューサーの明石家さんまさん(66)、渡辺歩監督(55)はトークショーの後、作品のモデルになった女川町の焼き肉屋を訪れた。たまたまの縁が交流につながり、店を明るく切り盛りしていたという「肉子ちゃん」に似た女将の存在があらためて浮かび上がった。

モデルの焼き肉屋 幸楽 震災で犠牲の豊美さん

シーパルピア女川にある焼き肉屋「幸楽」が、小説の元になった店。直木賞作家の西加奈子さんが、平成21年に石巻市出身の編集者・日野淳さん(口笛書店代表)に誘われて旅行した時、たまたま通りかかった。

 「その焼き肉屋が頭から離れず、あの店で、とても明るい女性が働いていたら楽しいな」(西さん)と想像したのが作品になった。単行本化されたのが平成23年夏。2年後、女川の男性から西さんに届いた手紙には、焼き肉屋には「肉子ちゃんそっくりな女将」がいたが、東日本大震災の津波で犠牲になったことが書かれていた。

 被災した店は24年に仮設商店街で再開。西さんはそこを訪れ、店の主人、金山富五さん(69)と対面した。亡くなった女将は金山さんの妻・豊美さん(当時54歳)だった。

出版社から送られた原作本を手にした金山さん

 西さんらは店自慢の肉を頬張り、女川の人たちと歓談した。金山さんは「あとで手紙をもらったが、震災後だから私と会うのが怖かったと書いていた」と話す。それでも店に足を運んでくれたことで縁が結ばれた。16日は長女由佳さん(35)、長男英勲さん(33)と一緒に映画を鑑賞した。

 店がヒントになっているものの、肉子ちゃんは西さんが想像したキャラクター。金山さんは「イメージが重なるところはあった。すぐどこでも寝る人だったから」と笑う。体型は肉子ちゃんほどではないが、ふくよかだったそうで「子どもを産んでから、どうしてもね」と。

 由佳さんの話では店を再開後、亡くなった女将を思って泣いた客や「女将さんに会いに来てたんだ」という人がいたり、慕われていたことが分かったという。スーパーに行けば、子どもが駆け寄ってきて「お肉のおばちゃん」となつくこともあったという。優しく親しみやすい性格は肉子ちゃんに通じる面があったといい、「すごい偶然だな」と感慨深かそうに明かした。

豊美さん(由佳さん提供)=平成22年撮影=

 店を訪れたさんまさんは、金山さんを紹介されて「さっさんやね」。アニメの中で店を営む主人と重ねてあいさつしたという。

 女川町を拠点とする社会人サッカーチーム、コバルトーレ女川の選手には、大鍋にカレーを作ってもたせたり、「自分のことより人のことをやっていた」(金山さん)という豊美さん。

 店には、西さんファンと思われる若い女性が食事に訪れたこともあったという。これから「肉子ちゃん」の〝ルーツ〟にやってくる人がいるかもしれない。店内に張った映画のポスターを見ながら、英勲さんは「しばらく貼っておこうかな」と話していた。【本庄雅之】





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