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時空を超え曽祖父と対面 アイトピア櫻井さん 92年前 本紙に立志伝

 戦争で失われた戦前の石巻日日新聞のうち、昭和6年の1部がこのほど石巻市中央二丁目の櫻井健司さん(50)宅から見つかった。紙面には地元や国内外のニュースとともに櫻井さんの曽祖父、修也さんの立志伝があった。裏町(現在のアイトピア通り)に店を構え、繁盛させるまでの苦労話や処世訓などが記されていた。

今に通じる金言20か条

 櫻井さん宅は、震災前まで営業していた櫻井洋品店。昭和初期からの商店街の写真が残っており、NPO法人石巻アーカイブの小野寺豊代表に見てもらおうと持ち込んだ中に昭和6年6月30日付の本紙が紛れていた。

 本紙の創刊は大正元年だが、軍による新聞統合などで昭和15年に廃刊し、それ以前の保存紙は消失。戦後に旧家などから出てきたものが寄贈されて断片的に残っているだけで、昭和6年発行はほとんどない。「曽祖父のことが載っていたので、代々大切に保管してきたのだろう」と櫻井さん。

昭和6年6月30日付けの本紙と櫻井さん

 この日の紙面には、巽(たつみ)大仏殿の建設構想や松川横丁の舗装開通などの地元ニュースのほか国政の動向、世界情勢までが載っていた。修也さんは「地方人物総まくり」シリーズに登場。成功した地元の著名人らを毎回1人ずつ取り上げて立志伝をつづった読み物で、修也さんはこの時40歳。洋品店前身の櫻井メリヤス店主として活躍していた。

 記事は「石巻裏町肴町角メリヤス店主櫻井修也氏の波瀾に富む奮闘物語は立志伝中の人として特筆に値するものがある」と始まる。その通りで少年時代に実家が農業で失敗。でっち奉公に出されたが、大正3年に弱冠22歳で創業し、一代を築いた。それまでの苦労話などを顔写真とともに掲載している。

曽祖父・修也さんが顔写真入りで取り上げられていた

 でっち時代からの体験をもとに作った家憲20か条という処世訓も紹介。「店員心構え」として「自分が雇主となった心持で働け」「商品は我物と思って大切にせよ」「絶えず思想の向上を計れ」など。また「販売心構え」では「売る人の心で売るな。買う人の心で売れ」「円の客より銭の客を大切にせよ」「ひやかし客は歓迎せよ」などと記した。現在でも商業だけでなくビジネス全般に通じる金言だ。

 修也さんは、櫻井さんが6歳の時に他界した。記憶に残っているのは〝優しいおじいさん〟だったが、この記事でイメージが少し変わったという。

 「若い頃の苦労話を聞くことはなかったので、記事を読んで初めて志の高い人だったと知った。なかでも家憲20か条は心に響く内容で、これからも大事にしたい」と櫻井さん。今までの印象とは違った曽祖父の一面に触れて感慨深げだった。【平井美智子】





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