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エッセイ6「美容室が苦手です」

告白します。私は美容室が苦手です。
ありきたりなテーマで申し訳ありません。
こんな二番煎じはおろか何番煎じだか分からないような話題をなぜ今更私が持ち出したのだと思いますか?
特に理由なんてありません。
私が先日美容室に行ったからです。
はいそうです、私の都合です。
ではなぜ私は美容室が苦手なのか。
これから丁寧に説明しますので少しの間お付き合い下さい。

話は私が小学生の頃まで遡ります。
要潤にタイムクープハントしてもらいましょう。(あの番組面白かったよね。)
当時小学2年生から6年生までの5年間、私は親が決めた日に親が買い物している間に近くの理髪店に行って髪を切るという流れで散髪していました。
かなりの頻度です。
髪型はスポーツ刈り。これは決定事項でした。
私は別に野球部でもなければ戦地に赴くわけでもありません。
習い事だって書道だけ。
スポーツなんてもっぱら体育くらいです。
にもかかわらずスポーツ刈りが義務でした。
なぜだったのかは未だに分かりません。
しかし当時、私はやたらと散髪後に母に刈り上げ部分を触られました。このことから、母の刈り上げを触りたいという欲求を満たすためだけに私はスポーツ刈りを強いられたのではないかという結論に至りました。
そんなこんなで私は小学校6年間を棒に振ることになったのです。
いや、別にスポーツ刈りがダメだというわけではないのですが……。ないのですが!
言いたいことは察してください。
スポーツ刈りとはそういうものなのです。

私は小さい頃から目が悪く、小学3年生の頃から眼鏡をかけていました。その上でスポーツ刈りですから、当時の私はかなり昭和ナイズされた見た目でした。
当時はまだ今のように眼鏡をかけた子供が沢山いる訳ではなく小学生、しかも中学年で眼鏡をかけているのはクラスで2,3人程度と珍しく、かけることに抵抗があったのを覚えています。
小学生というのは残酷な生き物ですからあだ名も容赦がありません。
歴史の授業でガンジーが出てきたときに風貌がそっくりだとイジリを受け、耐性がない私は平和主義のガンジーとは真逆である武力を以てこれを制圧しました。
この嫌な記憶が私を二度と学校では眼鏡をかけない、そして髪は刈らないと心に誓わせたのです。
中学生になると私はそそくさとコンタクトを作り、髪も部活の顧問が機嫌が悪くなるまでは切らないという私なりのルールを設けました。
こうして私は脱ガンジーと同時に髪を切るという行為から遠ざかるようになったのです。

この経験を除いたとしてもやはり私は美容室は得意ではありません。
まず私は他人から向けられる目というものに非常に敏感です。
つまりは、「この髪型にしてください」
この言葉が言えないのです。
例えば、私が若手俳優の写真を持っていったとしましょう。
震える手で差し出したスマホの画面を見た美容師さんは私がその俳優にインスパイアされているんだなと考えるはずです。
私にはそれが耐えられません。
俳優の写真を見せたくないならヘアカタログでいいじゃない。
心の中のマジレスアントワネットがそう言いましたがそれも無理な相談です。
ヘアカタログを開くと同じ顔なのに髪型が違う顔がページいっぱいに広がっています。
毎回私はあの本を開く度に答えのないウォーリーを探せをしているような気分になります。
時間をかけて選んだ頃にはなりたい自分ではなく素性も分からないその顔面が1番似合っているものを選んでしまいます。
あれは世界一不気味な読み物です。

もう1つは私のコミュニケーション障害が関係しています。
あの1時間以上の時間をどう過ごせばいいのか未だに答えが見つかりません。
他の席は楽しそうな会話が聞こえてくるのに、なぜか私の席だけ水を打ったように静かです。
せいぜい、「かゆい所ありますか」とかその程度。
私は機械のようにその指示に従うだけですし、従わなかったとしても首根っこを掴まれて結局は下を向きます。
話は脱線しますが私は髪を切られている様が人間が1番情けない姿であると考えています。ちなみに2番目はパンクした自転車を運んでいるときです。
一度は私もコミュニケーションを図ろうと思ったことがありました。
聞かれたことに愛想良く返事をして、相手のパスしたボールを勢いよく地面に叩きつけ無理やりにでも会話を弾ませようとしました。
しかし、私が喋り終わらないうちに美容師さんの口から出た「ちょっと下向いて下さい」という見事なパスカットは私のメンタルを髪の毛と共に切り刻んだのです。
この日から美容室の鏡に映る自分の目がやけに濁って見えるようになりました。

様々な要因が絡み合い、私は今も尚美容室を苦手としています。
指名なんてもちろんせず、この世の終わりかのように鏡を見つめて髪を切られている私は美容師さんから見ても嫌な客でしょう。
でも違うんです。
私だって本当は笑顔で楽しく会話をしたいし、会話の内容だって年齢と地元の話から脱却したい、そして次回もその人を指名したいのです。
そんなときが私にも訪れるのでしょうか。
そのためにはこの濁った目を隠すためにまずは前髪を伸ばさねばなりませんね。

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