怪談琵琶湖一周より「船の島」GWver.
どこへも行けない史上最高に残念なGW。お出掛けの代わりにはなりませんが、一、二分間だけ昭和の琵琶湖にご案内いたしましょう―――。
多景島(たけしま)は、日本の淡水湖で唯一人が住む集落を持つ沖ノ島、西国三十三箇所三十番札所の竹生島に次いで琵琶湖で三番目に大きな島である。
琵琶湖の東岸から多景島を望むと、煙突の立った軍艦のように見える。
水泳場に連れてきたもらった小さな子どもは、両親から「お船みたいな島でしょ」と、六キロ・メートルほど沖合にある島の存在を教えられる。
Y子さんは幼稚園の頃、琵琶湖の水泳場に連れて行ってもらったことをよく憶えているという。
時代は半世紀近くさかのぼる。
だからY子ちゃんと記す方がいいかもしれない。
「ほら、あそこにお船が浮かんでるで」
お父さんはそう言いながら、沖の方を指さした。
見れば、キラキラと瞬く湖面に砂粒を置いたように小さな舟が十艇ほど浮かんでいた。
いま思えば、それらは小さな木製の漁船のようであった。
「うん、いっぱい浮かんでる」
Y子ちゃんは言った。
「えっ? お船はひとつだけやで」
お父さんはY子ちゃんの顔に自分の顔を近づけて視線を揃えると、もう一度「あれやで」と沖を指さした。
「ううん」
Y子ちゃんは首を振る。
「小さなお舟がいっぱい浮いてるやん」
見たままを答えるが、お父さんは不思議そうに首をかしげるばかりだ。
お父さんにはあのたくさんの舟が見えていないのだろうか。わたしは間違った方向を見ているのだろうか……。
やがてお父さんは、あらためて多景島を指さすと
「あれな、ほんまはお船やなしに、島なんやで」と、種明かしでもなんでもないことを嬉しそうに言った。
Y子ちゃんは、湖面に浮かぶ何艇もの漁船と多景島を交互に見やりながら、
それくらい分かってるわ。
と、思ったという――。
追記。
子どもにしか見えない漁船は、今日も漁に精を出しているのでしょうか。昨今外来魚が増えたことによって琵琶湖本来の魚が獲れなくなり、慣れ親しんだ「ふるさとの味」が年々貴重なものになってきています。
新型のなにがあれした暁には、ぜひ! 琵琶湖にお越しください。
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