「料理苦手民」に憑く亡霊 【料理嫌いが食を学ぶ vol.4】
“料理が苦手なこと”に開き直っている、ふりをしてきました。
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威勢よく飛び込んでみたものの
食について知りたい。
料理を学んでみたい。
自分に変化を起こしたい。
「この人から学びたい」と思える師匠にも出会うことができ、飛び込むなら今だと足を踏み入れたフードスタディーの世界。迷いはありませんでした。
でも、怖さはありました。
ずっと「わたしは料理が得意じゃない」と思って生きてきたんです。コンプレックスは年季もの。
「だからこそ学ぶんだよ」そう自分に言い聞かせて発破をかけてはいましたが、料理のプロフェッショナルである先生と、料理に関心があって集まる生徒の皆さんの中で、いってしまえば異物の自分。
迷惑をかけるのでは? 呆れられてしまうのでは? 足をひっぱたらどうしよう……。思い上がりと言われればそうなのかもしれませんが、不安は常に心を覆っています。
ついに亡霊が出た
講習では、実習の時間があります。4〜5人でチームを組み、課題のメニューを分担して料理するといった内容。
その日、わたしが担当したのはパスタ。スタッフの方がすでに鍋を火にかけてくださっていて、あとは乾燥パスタを“茹でるだけ”です。
沸騰した湯にパスタを入れ、くっつかないようときどき混ぜながら、タイマーとにらめっこ。時間がきたらパスタを取り出す。慎重に、慎重に。
わたしの動きがぎこちないのでしょう。同じチームの方が、様子をみにきてくださりました。そして一言。
「塩、入れたよね?」
え……。
塩、……ですか??
(やば、入れてない。)
固まるわたし。表情がくもるチームメイト。
その場の気温がみるみる下がってくる。
ヒュ〜ドロドロドロドロ。
一瞬にして体感温度はマイナス10℃。あたりは急激に暗くなり、いつの間にか別次元の空間にぽつねん。ふと気がつくと、どろんとした物体が目の前にいて、こちらにひどく恐ろしい表情を向けている。その物体は次から次に増殖していき、どんどん姿形を大きくしていく。
直視できません。
許してください。
しのびよる怪奇現象
またある日はこんなこともありました。
料理の工程で、お湯が必要になる場面。お湯はとなりのチームで沸かしているので、そちらが沸いたら分けてもらうように、というフロー。となりのチームに向かうわたし。
分けていただこうと容器を手にしばらくスタンバイしていると、「分けるほどの量はないから別に沸かしたほうがいいですよ?」と、となりチームの方が戸惑った様子で声をかけてくださりました。
そ、そ、そうですよね……!
なんてことないシチュエーションなのに、なんだかものすごく恥ずかしくなってしまうんです。自分のチームへ小走りで帰るのみ。
そして、背後からかすかなささやき声が。
「そんなこと見てわからないのぉぉ」
「どんくさいねぇぇぇ」
「やっぱり料理下手なんだよぉぉぉぉぉ」
振り返ると誰もいません。
背筋が凍ります。
ゾクッ。
震え上がりながら進む先
「何めんどうな自意識過剰かましてるの」
自分にツッコミです。
だけど“料理コンプレックスがあること”は、あながち肝試しのときの恐怖心と遠からずだと思うんです。亡霊の気配を、感じる。
料理上手な人を前にすると、自分がものすごく小さく思えてくる。自分の所作ひとつひとつが、もしかしたらとんでもない間違いなんじゃないかとビクついてしまう。
「やめといたら?」「うまくできっこないよ?」
そんなささやき声が聞こえる、気がする。
料理に限らず、自信がないことや、よく知らない物事に向き合うときって、大なり小なりこういった不安はついてくるもの。ビクビクとワクワクは、きっと同じカテゴリーにいる者同士。
怖かったら立ち止まってみてもいい。やっぱりちょっと無理……となったら、引き返すことだってできなくはない。だけど、怖がりながら歩いていくのもありだと思う。
考えようによったら、ちょっとゾクゾクするくらいのほうが楽しいかも?
多少のかすり傷は覚悟で、もう少し先に進んでみようと思います。
懐中電灯は持ったから、大丈夫。
チームメイトにご迷惑をおかけしつつ(ほんっとすみません……!)、完成したメニュー。
マレーシア風ペンネアラビアータ
にんじんのスープ
ブルスケッタ
ティラミス
どれもすごくおいしかった! おしゃれなラインナップだけど、家で再現できるレシピなのもうれしい。さっそくにんじんスープはお気に入りレシピのレパートリーに加わりました。
次回に続きます。
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