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父子家庭とはじめてのセーラー服

わが子もついに中学生か。普段の生活はといえばまったくもってお子様なのだけど、口喧嘩で言い負かされることも増えてきた。背も伸びてきて家の中にいるとやたらと大きく感じる。もう中学生だし。ということで中学校の入学式の朝を迎えた。ところがベッドの中で気分が悪いとうったえる娘。測ってみるとかなり熱が高い。想定していないできごとにてんやわんやしつつ、いや、僕の人生で想定できていたことなんてあったっけ。とにかく学校に連絡してみると、親だけでも来てくださいと言われる。わが子のいない入学式。入場してくる新入生。先日まで小学生だったのに、学生服を着るとずいぶんしっかりして見えるのだなあ。と、よその子を見ながらそんなことを思っていた。その学生服でひと波乱起こるとも知らずに。

さて翌日。熱も下がってよかったね。セーラー服に袖を通す娘。フルに仕事をしていると長期休みに子どもたちのめんどうを見るのがむずかしい。給食費を払うから春休みにも給食を出してくださいという気持ちでいっぱいなのだけど、そういうわけにもいかず、いつも実家にお世話になっている。今回も県外の実家に長期滞在して帰ってきたばかり。まだセーラー服には手をつけていなかった。サイズは合っているはずだし大丈夫だろう。後悔というのは事前にはできないもので、このときにはまだ後悔することになるとは思いもせず、パソコンに向かいながら娘が着替えるのを待っていた。

そうこうしていると、パパこれどうするの?と娘がやってくる。ネクタイだ。いやこれ、ネクタイという名前なのか?セーラー服はもともと海兵の制服で、あの襟を立てることで船の上でも音が聞こえやすくなるのだよ。という豆知識がまったく役に立たない。ネクタイってどうなっていたのだっけ。大丈夫。心配するな。僕らにはグーグル先生がついている。ググってみると、輪っかに通してネクタイを留めるパターンと、ネクタイ自体を結ぶパターンが出てくる。どっちだ。制服にはネクタイを通す輪っかはついていない。別売しているようだけど、それなら制服屋のおっちゃんが言ってくれるはず。となれば結ぶのか?

その三角形の布は思いのほかゴワゴワしている。結べるのか、これ?軽く結んでみると、襟の後ろから横からこれでもかとはみ出している。いやなにか留めるための輪っかがあるんじゃないか。娘に制服が入っていた箱を探させる。さらにググると、いろんなタイプのネクタイがあり、地域によって留め方が違うようだ。そうなると知り合いに連絡して聞いてみることもできない。心配するな。グーグル先生がいれば。グーグル先生がいれば。わたわたしている父親をよそに、もういいや手で持っていって学校でなんとかしてもらうという娘。うん、そうだね。インターネットはリアルのコミュニケーションの代替にはならないのだね。娘を送り出す。

なんの説明もなくセーラー服を着ることができるのが前提の世の中なんて。中学生のころ好きな子がいても、セーラー服のネクタイの留め方までは観察したことがなかった。あれ。世間の男子中学生は好きな子がいたらそこまで観察するものなのか?それでセーラー服の着用方法なんて一般常識なのか?いやいや、そんなはずはない。シングルファーザーとして、生理やブラジャーなどについてはかなり前から準備をしていた。ところがセーラー服でつまずくなんてまったく予想できていなかった。いまのうちに予想できてないことというのは、実はまだまだあるのだろうか。中学生の女の子は一時期ユーカリの葉っぱしか食べなくなるとかそういうのがあったら対応できる気がしない。まあ、そこは持ち前の楽観主義。子どもというのは放っておいても育つものだし、なんとかなるか。

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