タイパク 主人公自己正当化のロジック

タイムパラドクスゴーストライター、読んでる?名作になる気もするし大コケになる気もする。みんなが未来をかけて日々いろいろ呟いてるからバクチみたいだよね!

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…俺は稀代のクソ漫画(U19枠)説に花京院の魂を賭ける

前回のあらすじ

第一話を前もって振り返っておく、みんなジャンプを買っているわけじゃないし。

夢を追うワナビー主人公、4年間の努力は実らず遂に精魂が尽き果ててしまう。そんな折電子レンジに未来のジャンプが転送されてくる。これの新連載が非常に面白く主人公は語彙力0で1ページ丸々使って感動する。夢と現実の区別がつかず遂に自分に天啓たるアイデアが降りてきたと思いその神一話を原稿にしたためる。編集部大感動で誌面掲載!しかしそれを見てアイデアを奪われたことを悟る原作者の影が、そしてあの未来ジャンプは…夢ではなかった!(ページ右下にチラッと書かれる)

これは好意的解釈である。というのも、そもそも主人公は無能なことに目を背け人の話も聞かず突っ走っていただけなんじゃないかとか担当編集が嫌なやつとか長文に意味がなく全部読み飛ばせるので主人公の自己合理化の過程がスルーされてしまうとか作品のピントを絞れないことによるとっつきにくさを全て排除して書いたからである。あくまでタイムパラドクス系サスペンスとしての要素を抽出すればこうなる。

第二話に関わる点としては、第一話では主人公の盗作行為は主人公に認知されていない点である。既にこの時点で盗作野郎だの鉄華団新メンバーだの言われていたが第一話では主人公の中ではまだ盗作ではない。だが事実は紛れもない盗作なので、盗作判明時に主人公は自身の良心を証明するかどうかが今後どうなるかのポイントであった。これについては最後にもう一度振り返るがこの部分と作品の主張がズレる場合とんでもないコンフリクトが生じるからである。

運命の第二話

主人公の感情の流れと展開されるロジックを見ていく。理屈や状況の種類に応じて番号を振りそれを作中時系列順に並べる。

1、盗作!?うわああ!!なんてことをしてしまったんだ俺は…!!!

盗作の事実が判明し罪を認識する。

1-1、現在の卵を生む前の雛に介入した結果未来で卵は生まれなかった。卵に対する殺害行為か否か?

タイムパラドクスではよく見る命題で「ドラえもんはジャイ子の子孫としてのセワシを間接的に殺害したのでは?」みたいな話である。(最もこの例え話はセワシ曰く帳尻を合わせるという形でセワシ自体は生存するのだが)しかしこれは「原作者から将来思いつく今はないアイデアを奪った」という前提で成立しておりこれと主人公の漫画家志望は少々噛み合わせが悪い。

主人公は「世には10数年温めたとされるアイデアから構築された漫画(ex:ワンピース)」があることなど人一倍しっているし、明確には作品ではなくとも長年抱いてきた疑問やアイデアを組み合わせて作品を作るなどしたはずであってそういう意味では作品の芽は既に存在しているともいえる。

漫画化志望で4年の下積みと10年以上の創作を行なってきていたはずなので、そんなことにも気づいていない相当な間抜けか意図的に目を逸らしているのかどちらかということになる。

この理屈は後でも登場するしそこで主人公の意見と合わせて展開されるのでナンバリングを見て思い出して欲しい。

1-2、そもそも人のアイデアの結晶たる漫画をパクった純然たる事実

作り手として創作の苦労がわかっているからこそ罪の意識も相応な筈なのに…1-1と1-2は共に一コマなのだが理屈っぽさと真逆にいる主人公はなぜか1-1にはこの後も立ち戻るにも関わらず、こちらの1-2はこの一瞬逡巡する程度である。せめて罪を重ねる決意をした時に思い出してほしいものだ。

2、未来から送られてきたジャンプを利用することで未来改変しているのでは?

ジャンプ転送により主人公の思考がそちらへ移る。非現実的な事態の中、目の前に起こる現象に対して主人公の脳内はリセットをかけられる。これ自体は分かる話なのだが、今回の話は万事この調子であり主人公の頭は心太の助の如く新情報で次々と旧情報を押し流していく。

ジェイル・ハウス・ロックでもかけられているのだろうか?(一度に三つのことしか覚えられなくするスタンドで、新しいことを覚えると一番古いものについては認識さえできなくなる)

問題点を先に指摘しておくと葛藤と言うのは罪の意識、合理化、罪を重ねる決意の三地点をぐるぐる回転したりすると思うのだが主人公はこれを一周するだけなので遊園地の入り口から入って順路を回ってすぐ帰る人になっている。

遊園地に入ったという事実が欲しいだけでは?という邪推が生じうる。罪悪感に苛まれたフリなのではないか?

2-1、未来ジャンプにもホワイトナイト7話が掲載されていて世界線が分岐した?

タイムパラドクスの醍醐味といえばつじつま合わせだ。主人公が紆余曲折を経て未来で原作者とタッグを組み掲載しているので過程は違うが未来では同じ結末になる…という風に結局同じところへと因果が収まる。

しかしこのように別の世界と分岐しちゃいました!と言い切るとそういう展開は難しい。勿論これは主人公の主観を使った叙述トリックだったり、分岐したように見えて実は同じ展開がループするというのもあるので作者の腕次第だ。

話が逸れたがそのように認識した上での主人公のロジック展開はこの後に出てくる。世界が分岐したなら自分の作った盗作世界ではこの先ホワイトナイトの連載はどうなる?という疑問だ。

3、俺ってやっぱ空っぽ人間じゃん!

未来で別の人がホワイトナイトを描いたことが明らかになるという事実がそれまでのSF考察をjhr、盗作の事実を再度明瞭にする。偽りの力で得た周囲の評価を振り返り主人公は虚しさを覚え自分の無能さ、本当の実力に改めて絶望する。

逆立ちしたって自分には描けない本物を見せつけられたという側面も後の台詞からどうやらありそうだ。もっとも自分を遥かに上回る才能に対する主人公の感想は申し訳程度のものでだいぶ淡白であるが。これを強調して嫉妬の感情を露わにするなど露悪的な態度をとらせると再スタートを切るという選択肢を未然に潰しておくことができるのだが…

主人公が明確に挫折を覚えるこのパート、展開がスピード重視であっても全体的におざなりな印象が強い。この一連の流れは漫画にして4ページ、試しにセリフを喋ってみたが3分ほどである。考えてる最中に電子レンジがなる、電話が鳴るなどで演出自体がコマ同士の連続性を保証しているので主人公がコマの間で悩んでいてもっと時間がかかっているなどという事はない。

ここから受ける印象は主人公は悪くないことにするために必要最低限で組み立てているというもの。この場において連続性を持たせる演出は「主人公は自分から状況に流されることで罪の意識と向き合うことを避けている。」という風に作用するのでこれは葛藤ではない。もし葛藤というならそれは作り手の言い訳だ。

3-1、レンジを破壊し未来ジャンプの供給を止める

罪をこれ以上重ねないようにする。殊勝なこって…

しかしこれは盗作によって得られる利益に対して誘惑を受けているからこそ生じるものだ。誘惑の自覚が電子レンジを壊させるのだから。もし誰にもバレない盗作で人気が出るならそれをしたいという主人公の貧弱な倫理観を表す。

んな無茶なと思うかもしれないが、倫理とは罪がバレなくなった時にでも罪を犯さないことだ。公衆の面前で万引きをしないのは常識があれば当たり前のことでありハードルを頭なろうにまでわざわざ落とすことはない。

4、担当編集との会議

新しい情報で主人公の脳内はまた上書きされる。ここではホワイトナイトの連載はやめてもらうように言わなきゃなあ…となっている。

ここでの主人公が何故かギャグ顔である。クロスアカウント伊達の作画なだけあって非常に神経を逆撫でする。この残パク盗の能力は原作者の意図と実際の演出を逆にするんや…倒れてしまえ。

3-2、壊すのは帰ってきてからでいいよな

決断を先延ばしにする。先ほども言ったが一定の誘惑があるからこういう行動になる。漫画家にとっては人を◯すのと同じかそれ以上の重罪と自分の夢を比べるというのは如何なものか?

主人公は自分の利益を鑑みて決意が揺らいでいるのか、それとも上っ面の反省だったかには判断の余地がある。主人公のこれまでの苦難やここに至るまでの葛藤を読者が共有できている場合に前者はまだ許されるし、後者なら主人公は限りないクズということになる。

そして主人公は担当編集との電話時は一応反省したような顔をしていて、名誉欲がチラつくシーンや原稿料が入ったなどの実利益を見せられるシーンもない(周囲の評価は虚しいと断じていたし)。

よって主人公は実利と罪の天秤が揺れているというよりは今までの反省は全部上っ面だったと解釈する方が自然なのだ。作り手が前者を想定して作っていた場合、今後の展開次第で更に倫理がスパークする危険があるので楽しみだ。

またこのシーンでは1-1やのちに出てくる4-2などは考えておらず、罪を重ねたくないならすぐ切れば良いのだから盗作をする方に心が流れていると言える。

4-1、とにかく描きません!

一応罪の意識があるので先を書かないという。ここは主人公の頭が悪い場面だ。自分でもなんでできたかわからない会心の出来だったが連載するには後に続く展開が全く思いつかないだの、凝ってしまって先の展開が思いつかないだの言って時間を稼ぐこともできる。

余談だが出だしこそ盗作だが良編集と協力して物語を作った結果全く別の名作が生まれてしまった…などとして問題を功利主義的に測れなくすると、盗作の是非についての倫理面が際立つ展開にもなろう。

閑話休題、主人公は「未来から来たジャンプを盗作したとは言えない」として、盗作の事実だけを告げることからしれっと目を逸らす。いやもうそうとしか見えないのだ。


4-2、新担当の熱い説得

主人公は自分に対してされた評価ではないので負に働く。「でもごめんなさい!本当は俺はただのパクリ野郎なんです!」(原文ママ)

4-3、大漁のファンレター

主人公の欲望が(釣れたよ)…そもそも序盤でこの手の虚栄の評価を虚しく感じていたので、主人公は物語を待つ読者が大勢いるという事実を知ったというのがメインである。「自分の潔癖を守る」か「摘んでしまったホワイトナイトの芽を罪を背負っても維持するか」の二択が生じている。

全体を見ると主人公はこの二択をタイムパラドクス考察の時点で一瞬考えているし、後にもここを基準に判断をしている。

大義名分によって私利私欲を無視するというシーンはあっても良さそうだがないのでここを見ると主人公をそれほどクズにはする気はないのだろうか?他の部分からいける印象と食い違う場面である。

編集者との会議中の主人公は終始苦虫を噛み潰したようにきまりのわるい表情をしていた。一人で漫才をする時はギャグ顔だのキメ顔ばかりなのに、こう見ると主人公は他人の目線がある時だけ罪を感じているふりをしているという真性のサイコ野郎な印象を受ける。

5、ホワイトナイトが面白すぎる件について

たまったジャンプを読んで感動する。先週と違って面白さの表現が簡潔かつわかりやすくなっている。最後はギャグ調だが。こいつの一貫して語彙のないところは作り手としての目線が一切持てないくらいストーリー作りの才能がないんだなと思わせる。

5-1、描かなきゃ…

先ほど利益と罪の天秤の話をしたがここに至っては独善的な大義名分しか頭にない。他の情報はJHRされてどこかへ行ってしまったのだ。根拠を挙げると1-2の事が一切頭をよぎっていない。

盗作は既定路線なのか(困惑)

ここで一つ、こうすればいい〜というのをやってみる。かなり不毛だがやってる側は楽しいので。第一話長文と同じで読み飛ばしても問題ない、どうでもいい方はスクロールしてここから2つ目の空行とナンバリングが見えるまで飛ばして欲しい。

まず主人公は周囲評価の虚しさからしばらく手がつかないし罪の象徴であるホワイトナイトは読もうとせず引きこもる。2週間ほど無為に過ごした後担当編集に呼び出されそこでも熱く褒められ余計虚しくなる。しかしこのままではホワイトナイツの真の掲載を邪魔しただけでは?と思うところに郵送でファンレターが届く、虚しさは頂天に達する傍でこれはもう自分が描くしかない…と涙ながらに決意する。

6 俺は罪の十字架を背負ったまま描くしかないんだ

主人公が自分の中で罪を飲み込むという流れを一切せぬまま、この世界でホワイトナイトは描かれないんだから俺がやるしかないよね!という自己合理化をして最後は決まった表情で罪を背負う。

重ねていうが葛藤という割には都合の良い部分だけを見て罪の意識に苛まれぬまま決意を決めてしまう。担当編集と話をしている時は終始後ろめたい顔だった癖に描かなきゃ以降は終始この調子だ。

注目したいのは地の文による独白の際の背景だ。光がさす都会の街並みや、これまでの連載作品がポスターとして掲載され奥からは光がさす集英社の廊下など名作を世に送り出す肯定的な面が強調されている。ここからキリッとした表情の主人公が展開されると都合の悪い事からは目を逸らしている癖に何か良い決意をしたみたいで末恐ろしい。

イエスは罰を受ける謂れなどない身でありながらも人のためにゴルゴダの丘を登ったというのが肝なのだが。

(主人公が善良な人間のつもりで市真先生は考えていて作画の伊達先生もガバガバ理論に付き合うなり、そうじゃないだろとサイコを強調していると考えるととんでもないフレンドリファイアである。)

1-3、彼ほどの天才ならホワイトナイトをも超える傑作を描いてくれるだろう!

サムライ8(ちょっとした反例)。そもそも心血を込めた作品を完遂して初めてそれを越える名作を描こうとなる訳で、子供の粗相の責任を取らず子供のやったことですから…と許してもらおうとする情けない親のような言い訳。

加えていうとヒット作ができる作家は生む卵が全て金ぴかな訳ではない事は、一度は佳作を取ったが以後は一切当たらないしジャンプ愛読者な主人公なら分かっている事ではないのだろうか?ナルトのノウハウを入れたからサムライ8は順当に行けばナルトを超えます!

1-4、いや…それは俺が罪悪感から逃れたいだけの言い訳か…

自覚があってよかった。

7、私はアイノイツキです

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超スピード!?(レ)

全体の総括

話から想定される作品の面白さとしては今のところタイムパラドクスによるサスペンス(原作者に◯されるとか)やスペクタル(ジャンプ側の煽り文句です)があげられるだろう。

1-2でも触れたが世界線分岐説により今の所自分の行動による10年後の帰結が部分的に分かりてそれによって何度も未来を変える…という展開にはならなそうだ。なぜなら電子レンジによってただホワイトナイトの展開が分かるだけだからだ。元世界線の年表が分からないので未来が改竄される過程というのも分かりづらく、このアイテムでどのようにタイムパラドクスを展開するかは結構な難題に思える。編集部もこういう事情を勘案して単にスペクタルといった可能性が微レ存…?

パラドクス要素が弱い中で安易なボーイミーツなどに走られると非常に困る。なぜならサブの話題としては良いのだがこのままだとどうしてもボーイミーツがサスペンスだのスペクタルを食ってしまうことは請け合いだからだ。ラブコメをメインに据える場合、主人公の脛が傷だらけなのは楽さんみたいな事態を引き起こしヒロインの可愛さを損なってしまう。まるで剽窃家にqなろうだな…

ラブコメの懸念を抜きにしても物語的な面白さを疎外する懸念要素になりがちなのは主人公の不快さである。しかし主人公は何も善良である必要はなく今後の話運びやテーマ次第だ。以下で詳しく説明する。

第一に"無能な上に更に人の話を聞かなかったり盗作をするなどの間違いを犯した人間に夢を掴む資格などない"という道徳的な話をするなら、主人公は読者にも覚えがあるような人間なら誰しも持つ邪悪な部分を持っていてそれが状況が噛み合ってしまった結果地獄の底まで叩き落とされる必要がありこの場合主人公が不快でも問題がない。夜神月のように露悪的な人間より最近のトレンドは連チャンパパのようなサイコパス野郎なのでそのような人物が報いを受けるならカタルシスも生まれる。

第二に"才能の所在と使い方を知り、例えそれが望んだ形とは一致しなくても出来ることをすればそれなりに幸せになれる"といった言った教訓を示唆する展開(ジャンプならこっちかな)をするなら主人公は自身の善良さから幸せになる資格を証明せねばならない。この場合2話では全然不十分なので1話で生じた問題はそのまま。改心するにせよ3話ではボコられないと流石に読む気が失せる。やられ役がされるような心配を主人公がされるというのはどうなんだろうか?

ifのルート

ここでこうしていればこうなるのではないか?現実以上に物語ではこの手の疑問は良く生じるし他者の物語に対し自分の答えを返して作品やキャラを構築するというのはよくあることだ。

そのような状況下で作者が自身の用意した展開を補強するためには前もってそのような脇道を潰しておくことだ。鉄華団はビスケットが一期で死んだから止まれなかったのだと言った話。

タイパクにおけるそれは「主人公は原作者と自分から合流してゴーストライターになろうとすれば良いのでは?」と言うものだ。これは原作者の苦労に思いを馳せなくても、自分の盗作の事実を消すと言う非常に利己的な理由から出発することもできる。

チャンスは幾らでもあったので、主人公はやろうとしてないクズ野郎かそんなことも思いつかないほど常に場当たり的な登場人物と言うことになる。

前者にせよ後者にせよ主人公が報いを受ける時にこれらの欠点を叩きつけられたり自分で気づいて絶望すると溜飲も下がると言うものだろう。

良かれ悪かれこれほど続きが気になる漫画も久しぶりだ。タイパクみんなも読もう!おしり。




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