
牛と心許せる人に囲まれた、ゆるやかなつながりを育む暮らし
福井県の北端、あわら市。「あわら温泉」で有名なこの場所で、親子3代にわたり経営している「田嶋牧場」があります。
創業以来乳質にこだわった牛乳は高品質な牛乳として学校給食などに使用されており、平成15年にオープンした自社のソフトクリーム屋は毎年ファンが県内外から訪れます。
そんな田嶋牧場に嫁いだのが、大阪出身の田嶋和恵(たじま・かずえ)さん。「動物にかかわる仕事がしたかった」という田嶋さんが飛び込んだ酪農の世界、福井での暮らしについて聞いてみました。
知らなかったから飛び込めた酪農の世界
ーー福井に来たきっかけを教えてください。
大学進学ですね。生まれは大阪なのですが、動物の飼育員の仕事に憧れていて、福井県立大学の生物資源学科に進学したんです。
ーー「田嶋牧場」を知ったのはどうして?
私の友人が田嶋牧場でアルバイトをしていて、大学2年生の時に紹介してもらいました。今もそうですが、うちの牧場は昔から従業員以外にアルバイトで学生さんが手伝いに来てくれることも多くて。医学部の学生さんとかもいましたね。
ーー牧場のバイトって都会ではまずないですよね。はじめて牧場でバイトした時のことって覚えていますか?
うーん、もうだいぶ昔のことなのではっきりとは覚えていませんが、とにかく「牛がかわいい♡」と思ったことだけは覚えています。牧草を運んだり搾乳したり、初めての経験でしたが、仕事は教えてもらうと案外すぐに慣れましたね。
ーーそのバイトでパートナーの田嶋敏さんと出会ったわけですね。
はい(笑)。入学した頃は大阪に帰る気満々でしたが、卒業して1年後に結婚しました。
ーー縁もゆかりもない場所で、しかも酪農家へ嫁ぐことへの不安はなかったですか?
何も知らなかったからこそ飛び込めた部分はあります(笑)。嫁いでみて、酪農ってこんな仕事もあるんだと新鮮な発見がありました。
あとは、心を許せる人が増えたのも結婚を決めた理由の一つですね。昔からあまり友達をつくらないタイプなのですが、福井の生活で大学の先生や研究室の先輩にお世話になったり、地域活動で出会った大人たちが私を大事にしてくださったりと、第二のお父さんお母さん的な人がたくさんできました。人との関係がとても心地よかったので、なんとか福井でも頑張っていけるかなと思って。両親はかなり驚いていましたけどね(笑)。
牛乳の美味しさを知ってもらいたい
ーー牧場では毎日どんな仕事をしているんですか?
朝と夕方の2回、牛舎の掃除やエサやり、搾乳をしています。牛が食べる牧草も自分たちで育てているので、昼間は畑仕事や、春から秋の期間限定でソフトクリームの販売も行っていますね。
ーー「田嶋牧場のソフトクリーム屋さん」は毎年すごく人気なんですよね。
ありがとうございます。うちの牧場では代々乳質の良い牛乳をつくるために飼料づくりや遺伝的に強い牛をつくろうと人工授精にもこだわっているのですが、牛乳になるとほかの牧場のものと混じってしまうんですね。うちの牛乳の美味しさをもっと多くの人に伝えたいと、平成15年に夫の母がソフトクリーム屋さんを始めました。
▲田嶋牧場のソフトクリームは濃厚で絶品と評判
ーー市外や県外からも買いに来る方が多いと聞きました。
地元の方は期間中毎日来てくださる方もいらっしゃるんです(笑)。「福井に酪農をやっているところがあるなんて知らなかった」とおっしゃる方も多いですね。ソフトクリーム屋さんとあわせて、酪農のことをもっと知ってもらいたいと、「酪農教育ファーム」の認可を受け、見学の受け入れや小学校での出張授業なども行っています。
▲出前授業では牛のからだの構造のレクチャーや、バターづくり体験をすることも
ーーたしかに、身近な牛乳がどうやってつくられているのか、酪農家がどんな仕事をしているのかなど、知らない人も多いかもしれません。
そうですよね。例えば、小学生がうちの牧場に来ると、最初はみんな鼻をつまんでいるんです。「牛舎は臭い」と思っているようなのですが、中に入ってみると「あ、くさくない〜!」って(笑)。酪農のリアルな姿を伝えられるので大切にしている活動ですね。
▲牧場の仕事に興味深々な子どもたち(画像提供:農業女子会)
また、「酪農教育ファーム」は全国で活動しているので、各地の酪農家さんと情報交換したり、オンラインで視察会をしたりなど、福井にいながらさまざまな地域の方とつながることができるのも良いところです。福井では農業や酪農に携わる女性たちで「ふくい農業女子会(ふくふく会)」というグループもつくっていて、みなさんの頑張りに刺激を受けることも多いですね。
ーーそれにしても朝夕365日毎日搾乳したり、昼間は畑仕事やソフトクリームを販売したり、お休みがないのでは?
牛は毎日欠かさず搾乳しないと、乳房炎などの病気になりやすくなってしまいます。そのため酪農家には休みがないというイメージをお持ちの方も多いかもしれませんね。でも、福井県ではスタッフを雇用している酪農家が多いので、実は無理なく働ける仕事なんですよ。
ーーそれは意外でした。農業や酪農などの仕事にあこがれを持っている人も勇気づけられそうです。
酪農は朝だけ、夕方だけなどできるところからチャレンジできるのもいいところだと思います。もし興味を持っている方がいるなら、ぜひ応援したいですね。
顔が見える距離感が心地よかった
ーー福井の暮らしで気に入っているところはありますか?
時間の流れがゆったりしているところですね。大学で初めて福井に来たときは「電車が1時間に1本しかないなんて!」と思っていましたが、これまではずっと早足で歩くような生活だったんだなと思います。
空を見上げたら星はきれいだし、四季の移り変わりもわかる。何気ない山の景色に心を奪われるのもこの場所ならではだなと思っています。
ーー人との距離感はどうですか?
私はどちらかというと大人しい方なので、自分から積極的にかかわるよりも周りが気にかけてくれていたように思います。よく田舎暮らしでは近所の人がプライベートに踏み込んでくるっていう話も聞きますが、そこまででもありません。隣に誰が住んでるのかわからないよりも知り合いが増えていくことに安心感を感じていたので、顔が見える距離感が心地よかったですね。これまでを振り返ってみると、福井に来てよかったことの方が多いかもしれないです。
ーー田嶋さんがこれからやりたいことはありますか?
福井に来て、とにかく周りの人たちに支えられてきたなと思っています。その接点の一つであるソフトクリーム屋さんをこれからも守っていきたいですね。最近ではあわら市の生産者さんとコラボした商品もつくっているので、自分たちも楽しみながら地域の方とのつながりを育んでいきたいと思います。
▲パートナーの田嶋敏さんと
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【取材先】
(株)田嶋牧場
福井県あわら市国影1
http://www3.fctv.ne.jp/~s-t-day/
instagram @tajima_farm_fukui
田嶋牧場のソフトクリーム屋
福井県あわら市井江葭(安養院浄苑敷地内)
10:00〜16:00
営業期間 3月中旬〜11月
定休日 水・木
【移住のご相談はこちらから】
福井暮らすはたらくサポートセンター ( 福井Uターンセンター )
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