見出し画像

『コレが夢だと分かっていても』

 リコは、頬を思いっ切りつねった。

(痛くない……)

 痛みを感じなかった。

 そして、あることを確信した。

(コレは夢だ!)

 リコは中学生の頃から度々同じ悪夢を見ていた。

 それはある廃病院に閉じ込められて、そこから脱出を試みるといった内容の夢だった。

 そして今回もまた同じ悪夢だと確信した。

 夢の始まりはいつも同じ病室からだった。

 部屋を照らす蛍光灯は半分以上が割れていてかろうじて形をとどめているモノは不気味に薄暗く病室内を照らしている。ベットは全部で6つすべてボロボロで今にも壊れそうだった。

 絵に描いたような廃病院の姿がそこにあった。

 いつもと同じ夢。それは間違いないのだが、今回は明らかにいつもと違うモノが存在した……いや、人物たちが混じっていた。

「おい、どこなんだここは?」

「何ここ?」

「あれ? オレさっきま家にいたはず……」

「…………」

 夢の中にいるはずのない友人たちの姿がそこにはあった。

「皆、落ち着いてここは私の夢の中なの!」

「リコの夢の中?」

 健吾がリコの言葉に反応した。

(夢の中なのにちゃんと会話できるんだ⁉)と考えながら、健吾に返事する。

「そう私の夢の中‼」

「「「「はははっ!」」」」

 リコの発言に皆一斉に笑い出した。

「そんなわけないじゃん!」

「リコも冗談いうんだな!」

 リコは、夢の中なのにやたらと皆の反応がリアルなこのに違和感を感じはじめた。

「兎に角、ここから出ようぜ!」

 そう言い放ち健吾が病室の扉へ近づいて行く。

「扉を開けちゃダメ!」

 リコの言葉が届くより早く、健吾は扉を開いてしまう。

 その瞬間、病室内に鮮血が舞った。

 扉の前には白衣の男が立っていた。

 手には一本のメス……。

 健吾の首は一瞬にしてその男により切り裂かれていた。

 傷口からはシャワーのように血が飛び散っていた。

 リコはもう一度頬をつねった。

 やはり痛みは感じなかった。

「コレ……夢だよね?」

 本当の悪夢が始まろうとしていた……。


【続く】

読んでいただいてありがとうございます。面白い作品を作ってお返ししていきたいと考えています。それまで応援していただけると嬉しいです。