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デジタル人民元のぶつける決済―銀聯のNFCペイ『碰一碰』

デジタル人民元の「ぶつける決済」とは何か。本当にぶつけるのだろうか?その謎を解くカギは【碰】という文字にあった。

碰一碰

ここ最近、デジタル人民元のパイロットテストが話題となっていた。事の発端は、2020年4月14日以降、中国の複数のネットニュースで公開された画像であった。デジタル人民元のスマホアプリらしき画像が出回ったのである。

そこには、スマホとスマホを近づけるようなアイコンがあり、次のように機能が書かれている。

--- --- << 碰一碰 >> --- ---

おそらく日本語にはない文字なので、環境に依存して表示されないかもしれない。その場合は、「石へんに並」で検索してもらえば、漢字が現れるはずだ。そして「碰一碰」と検索すれば、意味が表示されるだろう。

NFC

調べてみると --- --- ≪碰一碰≫--- --- とはNFCのことである。
新華社網の記事には、次のような一文がある。

新支付方式NFC(也称“碰一碰”)
新しいペイメント方式 NFC( またの名を『碰一碰』)

中国製のモバイル端末が、Near Field Communication(NFC)の機能を標準的に搭載していれば、モバイル人民元アプリの「碰一碰」機能を支えることができる。

「碰」ぶつける??

ところで、「碰」という漢字には「ぶつける」「ぶつかる」という意味があるらしい。現地の言語に堪能な方は、この機能に「ぶつける」という訳語をあてるらしい。

NFCには「かざす」「タッチする」という用語をあてる日本の用例とは、ずいぶん感覚が異なるようだ。

お金の入った携帯なので、ぶつけるとデータが飛ぶかもしれない。

「ぶつける」という表現は、本当に適切なのだろうか?

銀聯ペイ(追記)

碰一碰』の疑問について、中国ビジネスの専門家の方に教えてもらった。

中国語の話者が『』という文字から受ける音感は、日本語でいうと「ゴツゴツ」とか「コツコツ」だという。

碰一碰』を自動翻訳にかけると「タッチ&タッチ」のような訳が提案される。確かに、機器間通信というNFCの性質と一致している。

だが、一般用語としてのNFCを指すというよりは、人によっては、特定のサービス名をイメージするかもしれない。

《銀聯碰一碰》

それは、銀聯のNFCペイである。

ではこれを銀聯ペイと呼ぶのかといえば、そうでもないらしい。

銀聯のNFCペイを説明する記事には、Huaway Payのロゴが見える。すると、

<中国人民銀行>-<銀聯>ー<Huaway>

という組み合わせが成り立つ。

銀聯碰一碰》は、発券銀行・サービス主体・デバイスが一体化している。

さて、本題のデジタル人民元に話を戻そう。

デジタル人民元の仕組みというのが、すでに完成されている《銀聯碰一碰》を応用するというのであれば、実現可能性の高い組み合わせの一つである。

そうであれば《碰一碰》という用語は、やはりNFCを指すと読むのが自然であろう。

QRからNFCへの移住計画

日本ではFelica技術が浸透しているが、中国ではQRコードが普及している。そのような固定概念が出来上がりつつあるが、それも疑問である。QRコードは面倒であるだけでなく、パテントの問題があるからだ。

QRコードのパテントがいつまでも無料であるという保証はない。さらに、NFCと比べて便利であるとも言い難い。そうであれば、DC/EPの全国導入をきっかけに、QRコードからNFCへ民族大移動が起こるかもしれない。

Bluetooth

ところで、機器間の近距離通信には、NFCを使うという手段のほか、Bluetoothで飛ばす、赤外線を飛ばすなど、いくつかの方法がある。

福岡在住のブロックチェーン研究者が2014年10月に設計したプロトタイプは、Bluetoothによる機器間通信の機能と、スマホの持つ位置情報、そして、スマホに内蔵された加速度センサーという3つの技術を組み合わせていた。

① 2台のスマホが近接していることを、位置情報で確認する。
② 2台のスマホを同時に勢いよく振って、加速度センサーを感知させる。
③ ①と②を同時に充たす場合に、Bluetoothでコインを交換する。

そのような設計であった。これを研究者がほぼ一人で自作していたので、DIY通貨みたいなものである。

勢いよく振る

実験してみると、設計どおりにコインが動く。ここでコインというのは、ブロックチェーンを使って地域流通通貨を簡単に設計できる、カラードコインという技術で作ったテスト用のデータであった。

おサイフアプリにはワイングラスの絵柄があり、グラスの底に何枚かのコインが溜まっている。スマホを勢いよく振ると、コインが上方に消えて、目の前にいる相手のグラスにスッと入る。

このコインは飲み歩きイベントを想定して設計されたので、利用者は次第に酔いが回るという設定である。手軽に使えるが、勢いよく振るとスマホが飛んでいく。酔っているせいか。

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オフラインの壁

福岡実験のコインは、分散型仮想通貨ビットコインの二階建て部分を使ったカラードコインだったので、ブロックチェーンへの書き込みのためにインターネット通信が必要だった。

すると、停電などでネットワークが切断されているときには、コインを動かせない。〇〇ペイであれば現金の代替手段であるから、停電になっても現金を使える。

だが、現金をデジタル化するCBDCの場合には、災害時にも使えなくてはいけない。そこで、機器間通信で相互認証を行い、暫定的にコインを移動して、再接続した際に検証するという方法が考えられる。

天下のまわりもの

これが難しい。現在のように多くの人が画面と電源のついたスマホという端末を持ち歩き、しかもネットワークに常時接続できているのであれば、いちいちネットワーク経由で記録したほうが簡単かつ確実である。

そう設計するのは楽であるが、思い起こせば現金というのは、人から人を伝って天下をぐるぐると回るものである。中央銀行の門を出た紙幣が、世間をゆっくりとめぐって、戻ってくるまでの時間は長いほどよい。

現金の紙幣というのは、中銀というお城の門を出たら最後、どこで何をしているのかさっぱりわからない。ぼろぼろになって新券との交換が必要になった頃に、ようやく城門の前に戻ってくる。

ロンドン郊外

そんな天下を転々としながら流通する機能にこだわって設計していたとされるのが、イギリスの地方都市を舞台に実験の行われた、初期型のモンデックスであった。

当時のことであるから、接触型ICカードとリーダ/ライタの組み合わせであったが、カードと端末によるローカルでの支払いができるよう設計されていたと伝えられる。

もっとも、この時期の電子マネー実験で普及に至ったものは少ないのであるが、現金を模倣することにこだわって、転々流通性を表現しようとしたことは歴史に残すべき事実である。

デジタル通貨/電子ペイメント

中国人民銀行が発行しようとする、DC/EP=デジタルカレンシー/電子ペイメントのおサイフアプリは、オフライン決済の機能を搭載するらしい。

それは、初期の電子マネー実験でエンジニアがこだわって、実現に苦心した技術であった。時代がめぐり、モバイル端末とNFCの組み合わせが、ついにそれを可能にしたということであろうか。

ロンドン郊外の実験でこだわっていた転々流通性が、北京新都市に築かれる電脳都市において、ついに実現しようとする。

歳月を経て

デジタル人民元のNFC機能を見て、スウィンドンの話を思い起こす人たちと話していて、往時の電子マネー実験の活気を思い出した。

そういえば、ブロックチェーンが登場した頃にも、現金らしい転々流通性を表現していると、同じコミュニティの人たちが盛り上がっていた。

長い年月を経て、法定デジタル通貨のオフライン決済がついに完成した。第一次電子マネーの時代から定点観測を続ける者にとっては感慨深い。

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