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トゥルー・ヌーン

2009年のタジキスタンの映画です。
監督は、ノシール・サイードフ。
出演は、ユーリー・ナザーロフ、ナシバ・シャリポワ。



“ 童話よりもロマンティシズムのある物語 ”

わたしは、バフティヤル・フドイナザーロフの
タジキスタン映画を観た時、あまりにも嘘がないことにびっくりしました。
嘘がないと云うよりも嘘をつく必要がないその映画はあまりに感動でした。

そして、「トゥルー・ヌーン」は、そのバフティヤル・フドイナザーロフの
助監督などを務めたタジキスタン人、ノシール・サイードフの作品です。



現在、アマゾンの奥地、中国の白鳳山よりも謎の秘境の土地、
中央アジアの“ タジキスタンのどこにでもある村 ”。

そこは、21世紀の現代、村にテレビやラジオはあるのに、
いまだ川で洗濯をする人たちが住む村です。
自然は有り余っているために、人は“ 牧場 ”という囲いをせず、
牛を放牧し、村に自動車もあるにもかかわらず、高価なため、
人がロバや馬に乗ることが日常で、子供がたくさんたくさんいる村です。

この映画も嘘がありません。村で走り回っている鶏は、
映画の演出や小道具ではありません。絶対にそれは、 絞められ、
もしかすれば夕食のおかずになっているはずです。
これは美しいというよりも感動的です。
“ 江戸時代、日本にどこにでもあった村が、21世紀、いまだ存在する ”

村は明るく楽しいです。
おそらく村の人はテレビや本を見る娯楽が少なく、
子供たちは、みな表に出て遊んでいます。
村の近くには放牧地があり、散歩好きな牛や馬は、村に迷い込んでしまい、
子供たちの遊び相手なってしまいます。

そして、この上サフェドビ村に住む唯一のロシア人がキリル・イワノビチ。
彼はソビエト連邦の気象観測員で、この秘境の土地の気象観測所に
妻と離れて駐在しています。村の娘、ニルファは彼の助手で、
彼女はもう数日後に結婚を控えています。キリルは、ここでの駐在の
後任にニルファを考え、気象観測所を新居に提供しようと言います。

「キリルさん、結婚後もここで働くことは父にはまだ言ってないの」
「そうか、でも君は優秀だ、トゥルー・ヌーンの観測は
 誰でもできることじゃない、君にここを任せたい」

キリルはニルファの父と会いますが、ニルファの父は、
妻の五人目の出産のことで頭がいっぱい。その後、キリルは郵便局に。
郵便局で手紙を出そうとすると、「郵便は止まっている」と言われます。

ニルファの家に、新郎のアジズとその父親が訪れます。
アジズは、コントラバスをニルファの父にプレゼントします。
ニルファの父、アジズの父、キリル、通りがかりの隣人ヌスラットが
「酒だ!」と談笑し、
ニルファとアジズは高台で、トゥルー・ヌーンの観測方法と愛を語ります。
が、村のすべてを見渡せる高台でニルファとアジズは、
兵士たちの姿を見つけます──。
「父さん!、兵隊が」


「上サフェドビ村、下サフェドビ村の両村の皆さん、お知らせです、
 旧ソ連共和国内の行政上の境界が、独立国家間の境界となりました、
 それに従って、これからはここが2共和国の国境となります、
 ただ今より、当地域の国境強化を行います、
 両国間の行き来や物品のやり取りなど、
 あらゆる交流は、法に従って、通行と税関の検問所が管理します、
 最寄の検問所は、ここから50キロ先の地区庁舎となります、
 国境侵犯行為は、刑事訴追の対象となります──。 」

「なにやってる!、誰の命令だ!」
「皆が望んだ独立の結果です、ご質問は当局まで」
「なぜ道路を封鎖するんだ?」
「ご質問があれば当局まで」
「なにが当局だ!、ふざけるな!」
「これからはここが国境です、手続きなく国境は通れません」
「なにが国境だ!、なんで手続きがいる!」
「ご質問は当局まで」
「まだ婚礼の段取りがきまっとらんのだぞ!」
「サミールさん、ダメだ・・、彼には権限がないんだ・・」

ナポレオンのロシア侵攻、ロシア革命、第一次、第二次世界大戦、
タジキスタン内乱。
おそらく長いその過去の歴史に於いて、置き去りにされ戦争もなく、
平和すぎるタジキスタンのド田舎の村、上サフェドビ村と下サフェドビ村。
──そこに突如、兵士と国境が現れます。

翌日、国境は大騒ぎ、川は下サフェドビ村にあり、
鶏がエサを食べる牧草地は上サフェドビ村にあり、
上サフェドビ村と下サフェドビ村の人々は仲が良く、
バケツや鶏を取り替えて国境を移動させます。
学校の授業は、国境で行われ、上サフェドビ村と下サフェドビ村の生徒は、
鉄条網を挟んで椅子を並べて二次方程式を勉強します。
上サフェドビ村のニルファと下サフェドビ村のアジズは、
国境で手を握り合います。
──が、そこにも兵士が現れ、国境から離れるよう言います。


「キリルさん!、女房が産気づいたんだが助産士が言うには逆子なんだ!、
 病院は下サフェドビ村だし、検問所は50キロ先、どうすれば・・、
 どうしよう・・、」
「まず落ち着け、あせるとなにもできん」

「キリルさん!、やった!、5人目で初めての息子だ!」
「息子か、おめでとう!」
「あんたの言ったとおり、
 国境の鉄線もちゃんと直して“ 帰国 ”したぜ!、
 向こうではアジズが一緒に付き添ってくれる!、
 すべて大丈夫さ!、万事めでたし!」
「警備兵は?」
「なにか作業して、すぐいなくなった」
「そうか、大丈夫だな」
「大丈夫さ、ニルファの婚礼も問題ない!、
 息子の名前はエルハドだ、乾杯!」
「乾杯だ!」
──が、そこに突如、怒涛がし、牛の悲鳴がこだまします。

「死んだのは!?」
「牛だ!」
「わたしの雌牛がなんてこと!、あいつらに殺されたのよ!、
 唯一の収入源なのよ!、どうやって暮らせばいいの!?」
「地雷を仕掛けた奴は呪われろ!」
「これからわたしはどうすればいいの!?」
「ハイリ!、なにを泣いているんだ!、
 もしよければわしが雌牛を無償で2頭都合しよう!!」


そして映画の最後は、ニルファの婚礼。
村すべての人と人が、ニルファとアジズの婚礼を祝福します。
──村すべてが幸福に包まれる。
ニルファと村のすべてが上サフェドビ村の通りを抜け、
地雷が埋められた国境を通り、
下サフェドビ村の新郎のもとへと歩みだす──。


すべてが純朴で善人な人間たちが織り成すロマンティシズムのある物語。


素晴らしい映画です。




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普段は会社員をしています。映画のコラムみたいなもの、素人小説などを書いてみます。

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