読み聞かせSTの話し方講座

絵本解説:だるまさんシリーズ

 先日、絵本の読み聞かせ会がありました。
声優さんを呼んで発達障害といわれる子供たちに絵本を読んでもらうという催し(参加無料です)。私がこれを始めて18回目になるらしいです。年齢層は幅広く、生後半年の赤ちゃんから小学五年生まで、障害の程度も様々。そんな読み聞かせ会でも鉄板の絵本というのがいくつかあります。子どもが熱中する絵本はやはり、名作として長く読み続けられていたり、ベストセラーになっているものが多いわけです。
何がそこまで子どもを魅了するのでしょうか。
今回は「だるまさんシリーズ」を取り上げ、絵本が子どもを惹きつける理由と、その絵本の面白さについて書いてみたいと思います。

・まずは基礎情報


 だるまさんシリーズ「が・の・と」
発売は2008~9年。もう10年前の作品なのですね。
作者はかがくい ひろしさん
出版社はブロンズ新社さん(http://www.bronze.co.jp/)
2005年に絵本作家デビューされています。東京芸術大学を卒業し、特別支援学校も教諭として学校勤務の傍ら作品を発表されていた方です。
残念ながら2009年に急逝されています。


・対象年齢


 この本は明確に対象年齢が書かれていません。読んでみると分かりますが、0歳児でも楽しめるし、4~5歳でも楽しめるでしょう。
それはなぜかというと、どの観点から見るか、によってこの絵本は様々な年齢の子供が長く楽しめる本になっているのです。
この本は「だるまさんがー」や「だるまさんのー」など、助詞を一つのテーマとしています。なので、この本を「助詞の発達を促すもの」として捉えるならば、助詞の発達が始まる4歳前後が良いということになるでしょう。
じゃあ、それより幼い子は楽しめないのかというそうではありません。
ここに長年特別支援学校で療育にあたっていた、かがくい先生の優しさが込められているように思えます。
理由を探っていきましょう。


・形


 まず、だるまさんや登場キャラクターの形に注目してみましょう。基本の形は「◯」です。しかも、あまり複雑な構造にはなっていません。
子どもが理解しやすい形は「◯、△、❏」
これが基本的な形の認識です。幼児向け作品の登場キャラクターは大体この要素でまとめられています。さらに、わかりやすいように輪郭が太めに描かれていることでしっかりと子どもに理解を促してくれます。



・色


 子どもは1歳付近ではまだ色の分別がそこまで正確には出来ません。むかーしの発色の悪いテレビ時代のような感じでしょうか。淡い色はほとんど違いがわからない。
原色に近い色でないと判断がつきにくいのです
このだるまさんシリーズでは、背景が真っ白です。そして、だるまさんが真っ赤、バナナさんが真っ黄色のように非常にわかりやすい色を使ってくれています。輪郭が被らないように描かれていて形の認識も促している。さらには、被ったとしても色が明確に違うので、子どもが混乱するということが少ないわけです。形と色、この二つをしっかり作られた絵本というのは実はそこまで多くありません。
特に低年齢向けに作られた絵本をお探しの方はこの形と色を注目して選ぶだけでだいぶ絵本の選択が楽になるかもしれません。
もうその時点で、
「なんだこの作者、天才か!?」と初見の時には驚嘆したものです。



・ワクワク感


 この絵本には明らかなストーリーはありません。「だ・る・ま・さ・ん・がー」という、書いてあることをそのまま読むとスタッカート(跳ねるよう)に読むことになるように仕向けられているわけです。
このリズム感、子どもは大好きなんですね。
跳ねる感覚は抱っこされて揺さぶられている時にも感じるものです。子どもには楽しい感覚なのでしょう。その感覚から一転、「だ・る・ま・さ・ん・がー」の「がー」で間延びします。
おっと、リズムが変わったぞ!?
こう、子どもは気になっちゃうわけですね。
同時に、ここで読み手がページをめくる動作に入ります。
子どもの注目度はバク上がりです。我々でいうと宝くじの抽選番号があと一桁でぴったりあう!くらいの注目度です(世知辛い)。そして、ここで擬音が大体入ってきます。擬音というのは「ぽにん」とか「こてん」とかそういうやつです。
子どもは擬音も大好きです。
リズムが面白いみたいです。普段使われないことばであるので、物珍しさもあるでしょう。注目度バク上がりからの子どもが大好き擬音が入るわけです。爆笑です。止まりません。
この注意をひく、ワクワク感の仕掛けもだるまさんシリーズの魅力なのです。
ぜひ、読み聞かせをする際にはこのテクニックを使っていただきたいところです。簡単なわりに子どもには大ウケするという魔法のようなテクニックです。


・終わりに


 好きな絵本の解説を、というリクエストをいただいたのでこのような形で書かせていただきました。
この絵本は、色やカタチといった、視覚的な情報を非常にわかりやすくまとめてくれている作品です。
そして、それを彩るリズム感やページをめくるという絵本ならではの仕掛け。
本当はもっと書きたいところなのですが、無限に長くなりそうなので簡単にまとめてみた次第です。
まだ機会があれば絵本解説をやってみたいと思います。
ではでは、今回はこの辺で。

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