無機物

『無機物マン』

「グギャァァメルシィィ!」
 巨大な洗濯バサミに頭部を挟まれた、これまた巨大なフランス人形の苦痛の声がマジソン・スクエア・ガーデンのリングに響き渡った。
いや、正確には巨大な洗濯バサミには屈強な成人男性の手足がついている。
 そう、洗濯バサミ人間だ。
 その洗濯バサミ人間が同体格、おそらくは190cm超ほどもあろう金髪碧眼でロココ革命アントワネットみたいなドレスを纏ったフランス人形人間の頭部をひしゃげるほどの力で挟み潰そうとしているのである。

 西暦20XX年、「人間同士で野蛮な暴力を振るべきではない」という世論に応える形で地上から格闘技が消えた。
 やがて「動物も同じ命だ」という理由で闘牛や闘鶏なども消えた。
 だが一部の格闘家はこれに激しく反発、興行の継続を求めた結果、魂を無機物に憑依させ新たな戦士として生まれ変わった。
 すなわち『無機物マン』の誕生である。
【続く】


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