僕らの場所は大空だ。

 雲一つない晴天に恵まれた千葉市美浜区、幕張海浜公園。
 20万席が用意された特設スタンドはすでに満席。
 チーズバーガーを頬張りながら「パパ、今日は誰が勝つかな?」と尋ねる子供、「そうだな、一番速い奴がここでは勝つんだ」と含蓄がありそうでごくごく当たり前のことを答える父親。家族団欒!

 ここはエナジードリンクメーカー「レッドべこ」が主催する世界最高峰の航空モーターショー「エア・ファイト」の会場である。
 世界各国から屈強な空の男たちを集め、強さと速さとを競うこの大会も、気づけば10年目の節目シリーズを迎えることに。
 その最終戦に相応しいのはここ日本以外には考えられなかった。

 「ミスター・キムラ、次の試合開始まであと7分です」
 特設テントで試合前の精神集中をしていたベテランパイロット、キムラにスタッフが告げた。
 
 彼はおもむろに立ち上がりスタート地点へと向かう。
 滑走路にはすでに愛機がスタンバイしていた。
 小型かつ軽量だがパワーは並みの大型機を凌駕する。
 そのシャープなデザイン、少し故障しやすく無理をするとすぐリミッターに達してしまう繊細さなどはエア・ファイトを知らないファンからも人気を集めた。

 場内アナウンスが次のファイター出陣を高らかに告げる。
 
 《ウェスト・ゲート。前期シリーズ総合チャンピオン...》

 「ウォォォォォーッ!!!」

 スタンドが揺れる。地元ヒーローの凱旋だ。

 《ショーノスケ・キムラ & フジ・オブ・サウザンエイジ!》
 
 さらに大歓声!歓声の地層ならぬ音層が海風を押しのけて構築されていく!
 


ウェスト・ゲート滑走路。 
「ドスコイドスコイドスコイドスコイ......!!」

 今日はいつになくご機嫌なエンジン音だ、キムラが笑う。
 愛機にまたがるとクルーに準備完了の合図を出す。
 
 「ハッキヨホ!!」

 今、グランドチャンピオンシップ最終レース「バトル・オブ・ムスビ」の火蓋が切られたのである! 

【続く】


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