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20.貧困とヤングケアラー

日本人口の6人に1人が相対的貧困とされている日本の貧困率は、2012年に16.1%、2015年は15.7%、2018年には15.4%と僅かに改善傾向にはあります。

しかし、OECDの2021年の相対的貧困率を見ると、日本は先進国の中でもっとも高く、G7中でもワースト1位になっています。

相対的貧困率の高さは国内における格差の大きさを表します。

相対的貧困とは、その国や社会で多くの人たちが享受できている生活水準に満たない状態になっていることを言います。

2000年代中頃から、日本の相対的貧困率はOECD平均値を上回っていて、長年に渡って格差が存在している状態が続いています。

日本の相対的貧困は65歳以上の高齢者世帯や単身世帯、一人親世帯が多いことがわかっています。

実際に2021年に生活保護を受けた世帯のうち、55.3%が高齢者世帯、50.8%が単身世帯でした。

特に高齢になるにつれて、男性より女性の方が貧困率が高くなる傾向にあります。

相対的貧困に当たる人々の手取り所得は、貧困線の127万円を下回ります。

つまり、月々約10万円で家賃や光熱費、食費などの生活にかかる費用をすべて支払わなければならないので、高齢に伴う病気の治療費や、子どもの進学費を払うことも難しくなります。

日本で暮らす子ども達のうち、7人に1人が相対的貧困にあります。

目安は、等価可処分所得の中央値の半分(=貧困線)以下で、親子2人の場合は毎月14.5万円未満、親1人子ども2人の場合は毎月17万円未満、親2人と子ども2人だと毎月20万円未満等……で暮らしている状況です。
 
日本の子どもたちの13.5%、およそ260万人が貧困状態にあると推計されています。

ちなみに、OECD(経済協力開発機構)による可処分所得の新定義によれば、2018年の日本の子どもの貧困率は14%と算出されました。

日本国内では少し低く見積もっちゃうところがあるのでしょうか…下手に誤魔化さなくても、どちらにしても問題です。
 
経済的な困難が子どもたちにもたらす問題は、多岐に渡ります。

必要な食料を買えず、満足に食べることができない。

支払いが難しいことで、医療機関を受診できない。

学習机や落ち着いて勉強できる空間を持てない。

年に一度でも、美術館・博物館やスポーツ観戦に行けるような余裕がない。
 
更に、子どもの貧困問題は、子どもたちの“今”だけではなく“未来”を思い描くことや、チャレンジする機会を奪う要因になっています。
 
2017年度の大学等進学率を見ると全世帯では52%、生活保護利用世帯では19%と大きな開きがあります。
 
教育や資格取得は、ひとりひとりの生涯所得や納められる税、社会保険料にも関わってくるので、子どもの貧困を放置することによる将来的な社会的損失は約43兆円にもなると言われています。
 
貧困問題を放置するということは、誰も幸せにならないということです。

なぜ、現状では世界第3位の経済規模の国で、これほど多くの子どもたちが貧困状態になっているのか……不思議で仕方がないです。

それが極度の格差社会…日本です。
 
意味が無いほどお金を持っている人もいれば、信じられないぐらいお金を持っていない人がいます。

人の役に立つ仕事をしていても、貧困状態になっている人もいます。

貧困の原因として、まず挙げられるのは、子どもと一緒に暮らす大人の所得が低いということです。
 
子どもがいる世帯の中でも、ひとり親世帯の貧困率は48.2%(2018年)と非常に高い状態にありますが、母子世帯の保護者の就業率は80.8%、父子世帯も88.1%(2015年)と、多くの保護者は働いています。
 
働いても貧困だなんて、かなりヤバい国です。
 
非正規職であることやジェンダー格差などにより、働くことで得られる所得水準が低く抑えられていると考えられています。
 
ひとり親の2人に1人が貧困……とても恐ろしい現実です。

また、就労所得が少なかったり、事情により働けなかったりした場合に、人々の生活を支えるはずの社会保障制度が弱いという問題もあります。
 
OECD加盟国の中で比較しても、日本は税・給付制度による所得の再分配がうまく機能していないと分析されています。
 
次に、子どもが育ち、学ぶ為にかかるお金が高すぎるという現状もあります。
 
文部科学省の調査によれば、2018年に子ども1人にかかった学習費は、公立小学校に通っている場合で32万1,281円、公立中学校で48万8,397円でした。
無償であるはずの義務教育においても、給食費や通学関連費、学用品費などの多くを各家庭・個人が支払わなくてはなりません。

この他、住宅手当など住まいの支援策が乏しいこと、子どもの医療費助成が多くの自治体で15歳までに制限されていることが多いことなどにより、教育、住居、医療といった必要支出における私費負担が大きくなっています。
 
余談ですが、医療費助成については、北海道の南富良野町が素晴らしくて、0歳~満22歳到達後の最初の3月31日までの医療費をカバーしています。

保護者が町内に住んでいれば、対象となる子どもが高校や大学進学で町外に転出した場合でも対象のままで手厚い支援制度で守られています。
 
貧困対策というと財源問題が指摘されがちですが、教育機関への公的支出を現状の4.0%から引き上げることなどにより、子どもの貧困の様相は大きく変えることができると考えられています。
 
OECDの前回調査の2.9%(38カ国中37位でした)より上げてはきてますが、まだまだ、OECD平均の4.9%を下回っています。

衰退が始まっているとは言え、まだ何とか先進国ですから…。
 
こんな驚くべき状況に見える日本でも、経済的に困難な状況にある子どもたちの生きる、そして育つ環境を改善する為に、様々な公的な対策は講じられています。
 
例えば、授業料以外の学校教育費を支援する為に、小・中学生には就学援助制度、高校等の生徒には高校生等奨学給付金があります。
 
いずれも学習費の一部を補う金額ではありますが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、家計が急激に悪化した世帯への適用や単価増額などの運用改善もなされています。
 
授業料についても、高等学校等就学支援金が2020年4月より拡充され、年収590万円未満の世帯についても、私立高校が実質無償化となりました(これ、対象外などありややこしいですが…)。

同じく2020年4月より、住民税非課税世帯などを対象とした大学、短大、高等専門学校等の修学支援制度として、授業料等の減免と給付型奨学金も新たに導入されました。
 
新制度の導入により、対象世帯の大学等への進学率が2018年度の約40%から10ポイントほど上昇したと推計されており、公的予算をかけて給付型支援を行うことの重要性を裏付けています。

それでも、問題の大きさに比べて、対策はまだまだ不足している実態です。
 
子どもの貧困対策推進法に基づき、国による総合的な対策をまとめた“子供の貧困対策大綱”では、教育、生活、保護者の就労、経済の4分野の支援に取り組むとしていますが、その内訳を見ると、子育て世帯の所得増に直結する施策は少なく、助言・カウンセリングや地域資源の活用などが目立っています。

児童手当や生活保護制度など、すべての子どもを支えるはずの既存制度も、金額が限られていることや、法的立場によってはそもそも対象とならない人たちもいます。

枝葉のことより根本的な問題……、所得水準の引き上げなど、社会全体の底上げを図りながら、より多くの困難に直面している人たちには、より手厚いサポートを行うといった…より踏み込んだ対策を講じる必要があります。

ワーキングプアが日本に存在しなくなるだけのお金を積み立てられるまで、ICTやAIの積極的な導入例を、まずは政治で見せていただいて…議員さんを減らしても問題ないのかもしれません。
 
問題なのは、子どもの貧困は一緒に住む大人の所得状況で把握されたり、保護者が相談しないと表面化しないことなどから、見つけにくいということです。

ここから、貧困とは切っても切れない関係のヤングケアラーについてです。

この問題もまた、ひとり親など、経済的、時間的資源が不足し、ケアを必要とする家族に対して、ケアの担い手(大人)が就労などにより不足し、子どもがケアを担うことになったり、又はケアの担い手になる大人に代わって、就労しなければならなくなったりなど…貧困と関わっています。
 
ヤングケアラーとは、障害や病気を抱えるケアを必要とする家族がいることで、家事や家族の世話などを行う大人が担うべき責任を背負った18歳未満の子どものことです。

20代、30代までの年代層を含めて“若者ケアラー”と呼ぶこともあります。
 
ヤングケアラーには、家族の世話が優先的になり、自分の為の時間がなかなかありません。

ヤングケアラーは、本来なら大人が担うべき家族へのケアを行っています。
 
親に変わって幼い兄弟の世話をする。

障害のある家族の入浴やその他介助をする。

家計を支える為に就労する。

依存症を抱える家族に対応する。
 
…等です。
 
支援を必要とする家族がいるのに、サポートできる大人がいない場合、子どもがその責任を担わざるを得ません。

子どもが家族をケアすること自体は問題ではありませんが、子どもとして守られるべき権利が侵害されているケースもあり支援が必要な場合があります。
 
ヤングケアラーとなっている子どもが増えているにも関わらず、行政の支援がまだ充分に進んでいないという課題があります。

1クラスに1~2人程度の割合でいると言われています。
 
しかし、ヤングケアラーと自覚している子どもは約2%しかいません。

ヤングケアラーに該当しているかわからないままケアをしている人が多いようです。
 
それが小さい頃から常態化してしまい、問題として認識できないということです。
 
また、ヤングケアラーという言葉自体の認知度が低く、聞いたことがないと子どもが多いのも実情です。

以上の理由から、無自覚のまま負担がかかっていて、助けを求められない子どもも多くいると推察されます。
 
ヤングケアラーの3~6割は、ほぼ毎日、家族の世話をしています。

1日3時間未満が多いですが、中には7時間以上も世話に費やす子どもが1割以上います。

ヤングケアラーには、福祉、教育など様々な観点からの支援が必要であり、管轄する部署が複数に渡るので調整が困難な状況です。

こども家庭庁がどこまでやれるかにかかっています。
 
また、貧困家庭などの問題に比べて、もっと外部から発見しにくく、そもそも支援が必要な子どもの把握にも課題があります。

ヤングケアラーの子どもは、以下のような問題点を抱えています。
 
不登校や遅刻が多くなる。

交友関係を築きにくい。

睡眠不足・栄養不足など健康面に影響する。

進路や一人暮らしなどの自立の機会がなくなる。
 
学業に時間を割くことができず、学力への影響が懸念されます。  

また、部活動や友達と遊ぶ時間が奪われ、交友関係が築けず孤独を感じる子どもが出てくるのも問題です。

家に こもる時間が増えれば体力や健康への不安も出てくると考えられます。

家族の世話が優先になり、充分な睡眠時間を確保できなくなる場合もあります。
 
経済的に余裕がないことや、料理の知識がない子どもが自炊することで、栄養不足に繋がることもあります。

その他、障害を抱える家族によって家の片付けが充分にできず、体調を崩してしまうケースもあります。
 
更に、介護の負担が将来の進路に影響するケースもあります。

勉強する時間がない、金銭的な負担から労働せざるを得ないなどの理由で進路を制限されてしまう事例も出てきています。
 
大人に変わって家族のケアを行うヤングケアラーの該当者は多いにも関わらず、まだ適切な支援を受けられていない子どもが多く、課題が山積しています。
 
また、ヤングケアラーの自覚がないまま家族をケアする子どもも多く、行政の更なる支援が求められているのが実状です。
 
縦割りを超えて支援を行う為に、専門の窓口を特設している自治体もあります。

現状では、児童相談所相談専用窓口や日本精神保健福祉士協会の子どもと家族の相談窓口があります。

いろいろなNPO団体でも様々な支援が始まっています。
 
そして、こども家庭庁の創設と、異次元の少子化対策もあります。
 
少子高齢化が突き進む日本では、上記のように子ども達やその親の世代に大きな影響を与えるのと同時に、高齢者にとっても良い話ではありません。

今後も年金の支給金額は減少していくことが予想されます。

それに伴って、国による対策として、退職年齢の引き上げや高齢者の再雇用といった取組が進められています。

現在は、60歳以降も働き続けることで割増で年金を受給できる“繰り下げ受給制度”がありますが、2025年には60歳から65歳への定年の引き上げが義務化される予定です。

また厚生労働省は、労働者の希望があれば最長70歳まで定年を延長するように企業に促しています。

また、一人親世帯の貧困への対策としては、年収約360万円未満の世帯への保育料の軽減や、職業訓練期間中の給付金支給などが打ち出されてます。

しかし、国や行政だけでは相対的貧困の対策は難しいと考えられます。

先進国であり、世界全体でみると貧困率は低いように見える日本ですが、国内の6人に1人(子どもは7人に1人)は相対的貧困に直面しているのが現状です。

衣食住が足りていれば、あとは自分の努力で何とかするべき…といった考えも未だに根強いのかもしれません。

しかし相対的貧困に置かれている人々は、教育や体験に費やすお金の余裕がないので、現状を打破することは難しい状況です。

このような貧困の悪循環を断ち切る為にも、国や行政による貧困への対応を待つだけではなく、多くの人が身近にある貧困に気づいて、手を差し伸べることが大切なことだと思います。

日本の未来の中心にいるのは、今の子ども達です。

前述した通り、現代の子どもの貧困を放置することによる将来的な社会的損失は約43兆円にもなると言われています。

貧困問題を放置するということは、誰も幸せにならないということです。
 

写真はいつの日か…有珠山の火口と太平洋を撮影したものです。

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