核強打拳、今日も征く

203X年、世界は核の炎に包まれた。

大国同士の核アポカリプスは回避された。しかし人々の軋轢は破壊力を求めた。あらゆる諸問題の解法を個々人は核に求めた。

拳サイズ超小型核兵器、2029年の発明は一瞬にして世界を地獄へ変えたのだった。

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独り、さまよう男があった。

誰かの核パンチで焼き払われた広野を、フラフラと歩く男がいた。
黒い雨に打たれてボロボロになったコートを羽織り、色あせたジーンズは穴だらけ、革のジャケットは放射線に灼かれて干からびている。

「み、水……」

男は虚ろな目で呟きながら、ひたすらに歩いた。
草の根まで枯らす核拳の炎は、地上を完全に干からびさせていた。もう4日も何も口にしていない。

「み……み、水を……」

男はとうとう力尽きて崩れ落ちた。
そのまま核の大地にミイラとなるかと思われた。

しかし彼は幸運であった。数少ない生き残りの村まで辿り着いていたのである。
「け、拳が裸の人だ……!」村一番の心優しい娘が呼びかけた。大人は皆、この男を恐れた。拳に核どころか爆竹の一つも巻いていなかったこの男を、狂人だと思ったのである。

しかしこの娘だけは男を助けようとした。親を無くした荒屋に男を引きずって、水と塩を恵んだ。

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「ありがとう、助かった」
男はしょぼくれた目を擦って娘に頭を下げた。身なりはボロボロであったが、顔に生気が戻っていた。

「あ…あぃ……」
娘はおずおずと頭を下げ返した。娘は普段はよく話せない身体であった。両親を核の拳で焼かれて以来、トラウマで喋れないのだ。

男は屋内を見渡した。乾ききった藁を積み重ねた、辛うじて風を凌ぐ程度の荒屋である。家具らしい家具もない。その日を生きるための水瓶と、塩を積んだ枡が見えるだけである。その中で、娘の倍は高い身長と全身漲る筋肉を誇る男をよく庇う気になったものだ。

しかし、静寂の時間は長く続かなかった。

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「ヒャッハーーッ!村だァーーーッ!」
村の外側に、ボロを被った老若男女が5人ほど叫んでいた。いずれも人間はずれの筋肉を全身に蓄え、拳には何かしらを巻き、そして村の人間を一人ずつ殴り殺して歩いていた。

「この村、この人数なら水も塩もたっくさんあるぜェーーー!」
「久々の塩だァ!!」
「ついでにモブを殴り殺すぜェーーー!!」
5人の暴徒は村人の家に入るなり水と塩を強奪し、村人を太い腕で粉砕した。

「貴様!村で乱暴してタダで済むと」
「フン!」
「ボバッ!」
勇敢にも素手で殴りかかった若者がワンパンで爆ぜた。
「ダチっこの敵討ちだ!死ねえ!」ナイフで刺しにかかった若者も
「セイヤッ!」
「アベシッ!」チョップ一撃で頭頂から胸元まで裂けた。
「槍じゃ!槍で刺すんじゃーーっ」竹竿で突きにかかった老人は
「馬鹿めが、爆竹拳を喰らいやーーっ!」
「うわらばっ!」暴漢が拳で殴ったと同時に点火した爆竹の火力により爆発四散した!

「ガァーーッハッハー!俺達に勝とうなんて100万億年早いわーっ!」暴徒のリーダーが叫んだ。
「見ろ!俺の拳には小型核爆薬が巻いてある!貴様ら、これ以上逆らったらこの村も不毛の地になると知れーーーっ!」
おぉ、なんということか!この男はあろうことか、村の外側に向かって
「セイヤーーッ!」拳を突き出した!

恐るべき拳速と空気摩擦に依って拳の核爆薬の点火装置が起動、手首に巻いたレッドマーキュリーがエネルギーを反射し、恐るべき死の光線を村郊外に照射したのである!ZBBBBBBB!!!!

「ひぃっ……!」
死の光線の走った後は見事な焼け焦げが出来ていた。光線に巻き込まれた村の敷居、猫車、その他諸々の雑貨は塵も残さず消し飛んだ。

「い、いやぁ……!」
娘はことさら慄いた。両親を消し炭にした死の炎を見せられて気丈でいられる子供などいるわけがない。
「おぉっと、そうだ村人ども!この小娘が可愛かったら、俺達の言う通り水と塩を全部よこせ!少しでもケチったらこの娘が消し炭になるぞ!」
せっかく村全員でかき集めた水と塩である。渡せば全員3日以内に死ぬであろう。さりとて渡さねばここで核の灰となってしまう。
なんたる横暴か!この世には神も仏もいないのか!

「いい加減にしろ」
娘に助けられたボロ男が進み出た。両手をポキポキ鳴らしながら、核武装した暴徒を恐れもせず近づいた!

「あぁ?なんだァてめえは!」「野郎いい態度だぜ!」「吹き飛ばしてやる!」
3人の暴徒が襲いかかった!一人は拳に爆竹、二人はメリケンサックを装備している。男は無残にも串刺しと爆殺される定め不可避!

しかし、おぉ見よ、「ほあたぁ!」男は爆竹拳を交わし「あぁぁあっあたたたたた!」メリケンサック2丁に手刀を連続で打ち込んだ!
「げっ」「おごっ!?」怯んだ3人に対し「あーーーたたたたたたぁ!」男は連続で平手を叩き込んだ!ペチペチと景気の良い音が響き渡る!

「…?」「なんだ…?」「ちっとも痛くねえ…ぞ?」一通り叩かれてから3人は男を振り返った。拳には何も巻いていない、ただの平手打ちだ。これが他の暴徒相手だったなら、爆竹連続炸裂によって3人共爆ぜているか、核弾頭3連発によって消し炭になっているところであった。

男は言った。「分からんのか、お前たちはもう、死んでいる」

途端、3人の身体が崩れ始めた。「なっ…!?」「まッパァ!?」「た、たわ、ば!!」爆発でもない、放射能に爛れたわけでもないのに、3人はとうとう圧潰して死んだ!

「なっ…野郎、ふざけやがって!」手斧を掲げた女副リーダーが男に襲いかかった。しかし!「ほぁたーーッ!」ペチペチペチ!またも平手打ち!
「な…あ、そんな、そ…そがーーっ!?」女は腹から蕩けて死んだ!

「核強打拳奥義、腹心掌破!」「な、なんだ、テメェ…!?」いよいよ独りになった暴徒リーダーは恐れた!

「核強打拳だと…テメェまさか、指先サイズの中性子爆弾でも持ってやがるのか!?」核拳リーダーの彼には知識があった。確かにそのような兵器の開発は、世界が崩壊する前に細々と行われていたはずだ。指先ひとつで、敵を放射線でズタボロに焼き切る兵器。夢物語に終わったはずだった。

「違う。『核強打拳』はそのような紛い物ではない」男はリーダーに近づきながら言った。「あらゆる生物が持つ『細胞』…その中心を担う、『遺伝子』の運び手、『核(Nucleus)』を震わせて崩壊せしめるが『核強打拳』!貴様らの『核(Nuclear)』とは格が違うと知れ!」男は両手をピンと張り詰め間合いを詰めた!

「…?なんか分け解んないこと言ってんじゃねェーーッ!核は核だァーーッ!」リーダーは再び超音速の拳を繰り出す!しかし!
「ほぉぉおおおおっーーーーあたたたたっ」平手打ち!「あーーーたたたたたたたたたーーーッ!」平手打ち!!「おぉぉぉーーー、わったァーーーーッ!」平手打ちがリーダーの全身に突き刺さった!

「あばァーーーっ!?」超音速の拳は既に千切れていた。いつの間に!?否、これが核強打拳!
「ばばっアバババババーーーッ!!」リーダーの全身から血と漿が迸る!
「核強打拳奥義、天昇百裂拳!」「フんボぁぁああーーーっ!!」リーダーは弾けて死んだ!!

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「あ、あ……の、人…」
命を救われた娘は、暴徒の埋葬が済んだ後人知れず姿を消した男の影を追っていた。

村の長老が娘を引き止めた。「止めよ、あれは核戦争以前は禁秘とされた拳法」娘が心配するのをよそに、長老は続けた。

「今の時代、あの拳法は救世の拳となろう…故に、あの男は修羅の道を歩まねばならぬ。それの道にお前を巻き込むまいと、黙って去ったのじゃ…命の恩人たるお前を守ったのじゃよ」

結局、男は娘の家から塩をひとつまみだけ舐めて、村を去った。この日の殺戮も、今後彼が切り拓く血と屍の規模からすれば、ほんの些細な先触れにすぎなかったのである。

【続かない】

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