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月が砕け落ちた午後に (第1話)

雨が降るように上空から砕けた瓦礫の欠片がポロポロと道路に叩きつける音がする。
夢花は空を見上げると月が砕けているのが両方の目でハッキリ捕らえた。
視線を元に戻すと下に落ちた月の欠片を皆が拾い集めている。
「ダメその欠片に触らないで」夢花は叫んだが誰も聞く耳を持たない。
「お父さん、お母さんお願いだから皆が拾うのを止めてあげて」
の両親はに言われた通り月の欠片を拾う人々を止め始めた。
「おい野球小僧お前らも欠片を拾うのを早く止めろ」
夢花にハッパをかけられた小学生の弟二人も両親に合流して一緒になって人々を止め始めた。
の夢花の元には五才になる妹の葵が立っている。
「家族全員集合」夢花はそう呟くともう一度空を見上げた。
月が砂時計のような砂となって地球にサラサラと降り注ぎ出した。
夜が音を立てて暗黒になっていく。


ドスン!ベッドから落ちた夢花は痛てぇと言いながら何だか気持ち悪い夢を見たなと思いながら目覚めた。
枕元に置いてある時計を見たらまだ朝の6時30分だった。
一週間前に高校を卒業した夢花にはこの日は何も予定がないのだからまだ寝ていてもよかったのだが、何だか知らないが寝ていられないと思い。階段を降り台所に行くと母が弁当を作っていた。
「おはよう!」と母に声をかけると母が夢花の方を向いて「おはよう!ずいぶん早いわね」と少し前までは起こしても中々起きなかった夢花を思い出してクスッと笑った。
「夢花お願い野球小僧ふたりを起こしてきて」と母に言われた夢花は、しょうがないなと卵焼きを一個つまみ食いして小学生の弟二人を起こしに2階に上がって行った。

暫くすると2階で長女の夢花と長男の大我のけんかが始まった。「私がせっかく起こしに来てやってんだから文句言わないで起きろ!!」
「うるせぇ今起きるとこだよ!!この女帝が!!」
「誰が女帝だこのケムンパスが!!」
「意味不明な事言ってんじゃ…」
「もういい加減に止めなさい!!」
背後から母の大きな声がして二人はケンカを止めた。
「ホント毎日毎日同じ事繰り返して、あんた達ホントに学習能力がないわね」母の小言が始まった。
「はいはい」と憮然とした顔をした二人は一階のリビングに降りて行った。
「あんただけは平和でいいわね〜」と何があっても動じずに寝ている次男の龍騎の方を向くと「コラ~早くおきろ〜」と大きな声を上げた。

「お母さんこれ見て」夢花がパソコンのディスプレイを見ながら母を誘った。
「どれどれ」母がディスプレイを覗くとオークションサイトが表示されていた。
「何だこの落札価格7万円ってスゲェ」が目をまん丸にして驚いた。ディスプレイには、このオークションは終了しておりますと書いてある。
「お母さん私ねぇ新しい携帯が欲しいんだけど」
「俺も新しいグローブとビヨンドのバットが欲しい」「ねぇお母さん僕もそろそろ新しいスパイクが欲しい」三人の子供は交互に欲しいモノを言い合い譲らなかった。
「後でお父さんに相談してみれば」
母は少し怒ったように、そう言うとまだ寝ている、夫と下の娘の葵を起こしに行った。
「何怒っているんだろう?」が夢花がそう言うと二人の弟は顔を見合わせて首をひねった。

「葵に微熱があるのよ、身体に発疹が出ているんで病院に連れて行くから今日は仕事休むね」妻は夫にそう告げると会社と保育園に休みの連絡を入れた。

「夢花あんた病院に付いてくる?」
ネットオークションで落札された商品を梱包していた夢花は「ついて行ってもいいけど」と手を止めて答えると「朝一番で小児科に行きたいから準備して」と母はそう答えた。

別に誰に会うわけでもないから、夢花はスッピンに上下ジーンズで着替えるも何もないやと思って母が葵が着替えさせるのを大人しく見ていた。

「風疹ポイかな」母が葵を見ながらそう言うと
「わかるんだ?」と夢花が母の目を見てそう呟いた。
「そりゃ~わかるさ、今まで三人が罹っているからね」母がどうだと言わんばかりに夢花の顔を見て微笑した。
「夢花も子供が生まれたら同じ事するんだから今日はよく見ておきな」
母にそう言われた夢花は、そりゃあそうだなと思いながら母の車に妹を載せると後部座席に座った。

#小説 #コラム #エッセイ #震災

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