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DARKNESS

大晦日の日に丑三つ時を前にして海岸沿いの国道をひたすら真っ直ぐ、北へ走らせる。月明かりが眩しく道路を照らす星空の下、助手席に乗っている寝ていたであろうと思っていた依頼者の男が、「次の信号を左に曲がって、後は集合住宅の通りを真っ直ぐ走って」とおもむろに口を開いた。

眠っていると思っていた男に言われた通りに、信号を左に曲がり、集合住宅のある通りを真っ直ぐ抜ければ、後30分程でこの男が目指す鉱山跡の廃墟に到着するらしい。

現在と過去の境目を縫うように、今を象徴する黒く舗装されたアスファルトの道路が途中で途切れ、昔ながらの非舗装でゴツゴツした石混じりの土の道路が我々を出迎えてくれた。
ここ暫く空気が乾燥しているためか、スピードを上げると土埃が舞い我々がここから先に進むのを拒むかのように、視界を遮る。

「しかし冷えるな」運転手の武藤はそう呟くと煙草に火をつけた。舗装されていない道路だ、時折車が跳ね、その度にドリンクホルダーに置いてある、缶コーヒーがポチャポチャと音をたてながら、缶の外に飛び跳ねる。
「え~と誰だっけ?重原さんだっけか?そろそら起きろよ」武藤は、助手席で寝ている男に声を掛けた。

「は~あぁ〜ぁ」依頼者の重原は、背伸びをすると、「今何処だ?」と武藤に尋ねて来た。
「知らねえよ、こんなとこ」運転席から右を見ると見渡す限り山だし、左を見ると枯れ草の連なる僅かな隙間から川らしき影が見えた。
街灯すらない人里離れた暗闇の山道だ何処と聞かれて、直ぐに答えられるヤツがいるのか武藤は逆に、重原に同じ事を聞きたくなった。

「武藤君よ、そうカリカリすんなや」
煙草に火を付けながら、重原は武藤に話かけた。「血の川と呼ばれる、心霊スポットを武藤君は、聞いた事があるか?」
武藤は、煙草をくもらしながら少し考え、「名前だけなら聞いた事ありますよ、だだそれが何処にあるのかは、探した事がないけど…」と答えると、少し間をおいて、重原が「ここがそうだよ、この川が血の川なんだよ!勿論本物の血である訳がないし、幽霊も出ないがな」と驚いた武藤の表現を見ながらフッと笑った。

土が剥き出しになった道路が、アスファルトに舗装された道路に変わった。

「ここは、全部東京にある大学の敷地なんだ、もう少し走ると、大学の夏期講習用の、キャンパスも学生寮もあるし、勿論大学の研究室もあるし、管理人夫婦も住んでいる。」

重原にそう言われると、武藤は、ただただ「へ~っ」と驚くしかなかった。

「もうスグ見えて来るぞ」重原の言葉を左の耳で聞いていると、建物の影がボチボチと現れ始めた。車のスピードを緩め、徐行するように、ノロノロと車を走らせながら武藤は、暗闇の中から次々と現れる建物を無言で見入っていた。

「武藤君、ここが最盛期は、4000人の人が暮らしていた場所だよ。当然小学校もあったし、スーパーも、映画館もあったらしい。昭和46年に資源を掘り尽くしてしまい、ここは封鎖されたそうだか、勿論建物は当時のままだし、建物の中に入れば、カレンダーが貼ってあったり、茶碗が転がってたり、当時の生活の面影が残っているかも知れんがな」
重原にそんな事を言われた武藤は、四方を見渡すと、暗闇の中で己の存在を主張する建物に生が宿っているように思えた。
「武藤君そこで車を止めてくれないか」
集合住宅の前で武藤が車を停止すると、重原はカメラを手にしながら車を降り暗闇の中を歩いて行った。

重原が車から降りると同時に、武藤を闇が包み込んた。ラジオを付けようとしても、電波が届かないのか、何処をどうチューニングしてもノイズしか入らず、携帯を見てみると圏外になっている。チッと舌打ちしながら武藤は煙草に火を付けて、青白い煙を吐き出しながら、ラジオのチューニングを諦め、車内を換気する為に1度運転手側の窓を開けた。車のライトを消すと暗闇に飲み込まれそうな漆黒の闇の中から聞こえるはずのない男女の声が聞こえてくる。
最初は、気のせいだろうと思っていたが、どうもその声は、直ぐに傍から聞こえてくるではないか。武藤は急に心細くなり、重原の迷惑になるかナと少し気を使って、聞かなかったCDを流し気を紛らわした。

5分程経ったら、暗闇の中から重原が戻ってきた。重原は、車の助手席に乗りこむと、「これで今回の依頼した仕事は全て終了だ、日当を払うから、ここを出て道の駅まで戻ってくれ」と言った。
えっこれで終わり?武藤は提示された金額の割に随分楽な仕事だったなと振り返りUターン出来る場所を探すため車を動かし始めた。
それと同時に、先程聞いたしまった、男女の話し声の事を、重原に聞くべきかどうか迷っていた武藤だったが、意を決したように「重原さんじつは…」と切り出すと、さっき聞こえてきた男女の声について話出した。
聞いた後、無言だった重原だったが急に声のトーンが重くなり「武藤君それは、男女4人組だったか?」と聞いてきた。
「姿は見てないけど多分そうだと思います」
武藤は、答えながら横を向き重原の顔色を伺った。

「武藤君、君が今話した声の正体を俺は、さっき見てしまったよ…男女4人組で歳は二十歳前後…」武藤はヤバい所に来てしまったなと、今日来たことを少し後悔し始めたが重原は、更に話を続けて、「正月休みに入り、やる事が見つからない、彼と彼女のグループデートだよ!幽霊など出ないと君には、言っておいたつもりだけどナ」と重原は笑いながら語り煙草に火を付けた。

「大体こんな時間にこんな所で幽霊に出会ったとして、武藤君ならどうする?」
答えが見つからない質問を重原がして来た。
武藤が沈黙するのを見越したように重原は、
「俺は幽霊を否定しないよ、昔嫁と夜にデートをした時に実際に女の子の幽霊が付いて来たからな、もの凄く繊細で向こうの要求を嫁がキッパリ断わったら、消えていったよ…だから全部が映画に出てくるような化け物チックな連続殺人鬼みたいなのだと思って欲しくない」更に重原は、話を続け「人間の心理なんて、カンタンなものでさ、個人と個人の2人だけのデートならこんな時間、こんな所に普通の神経の人間なら絶対こない、君も結婚しているならば分かるだろうが、彼からすると彼女と言う人間の存在が結構デカいんだよ。」
武藤が頷きながら話を聞く。
「個々では大人しい個の心理も、仲間が増えるごとに気がでかくなり暴走し始め、やがて誰にも止められなくなる…これは俺が歴史から学んだ結論だがな」

「重原さんは、何の仕事してるんですか?」
武藤は重原が見た目よりも、懐が深い人物に思えて、ついこの質問が口を飛び出た。
重原は参ったなと言った顔をしながら、「今日君と待ち合わせをした所が、俺の職場で俺が重原整体の院長だよ」と大笑いした。

「重原さんは、ここで何をしていたんですか?」どうせ帰り道だ、今日の疑問を全部聞いてしまえと武藤は考え重原に質問をぶつけた。
「この場所に呼ばれて来たと言えば、君は納得するかな?」武藤は何の事か全く理解出来ないでいると。
「俺が昔、整体業で生活出来ないでいた時、水道屋でアルバイトをしたんだけど、その時にやって来た現場がここの大学の学生寮のトイレ工事と給水塔の建設だったんだよ…毎日この道を通ってな、だからここは、その時からの付き合いなんだ…今日報告した事は、重原整体で24歳の女性整体師を雇用したからだよ…俺とこの場所の間にも守るべきルールはある…そのルールを俺が破った時に俺は闇に飲み込まれるだろう」
「闇とは何ですか?」
「武藤君さぁ、余りそんな事に首を突っ込まない方がいいと思うが…さっきいた彼と彼女だって、ここの場所を荒らしたりして怒りを買わなければ無事に帰宅出来るだろう…ただ…」
武藤はゴクリと生つばを飲み込み、その後の話に耳をそばだてた。
「この場所の呪術があるんだよ…この場所が自ら人を飲み込むことはないけど、どんな拷問かは分からないが必ず、人が人を闇の中に飲み込んで行く…」
「蠱毒?」
「なんで武藤君がその事を知ってるのか分からないが、きっとそれに近いのだろうな」

今日は大晦日だ、1年最後の日。
この日を最後に人々は、新しい年を迎える。
「敗戦」「戦後」「紅白歌合戦」「NHK」
大晦日が国に占領されてきた。
「何故それぞれの大晦日がないのか」
NHKの色が薄れたら、今度はイベントの儲け屋が幅を効かせている。
重原さんと、帰りの車内で熱く語り合った、
「来年は、安倍政治を終わらせる」2人の意見が一致した。そこの角を右に曲がれば、国道に出れる。
その時に3台の今風ではない、竹槍、出っ歯、シャコタンに改造された車が重低音の爆音を響かせながら、この車を煽るようにすれ違い通り過ぎて行った。

重原は、少し考えた末に携帯電話から警察に電話をかけた。
「通りすがりの者ですが、鉱山後で暴走族が乱闘騒ぎを起こしていまして、それに女性2名が巻き込まれているんですが…」」

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