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陽だまりの粒 外伝③

今日、咲の髪をカットした結花が仕事を終えて家路に急ぐと、結花の帰りをまだかまだかと首を長くして待っていた先日結婚したばかりの夫の正樹が玄関先で強く抱きしめてくれて、もう我慢出来ないとばかりに用意周到に早々と風呂を入れて置いて今夜の契りの準備までしてくれていた。

私だって早く抱かれたいよ!
と身体が正樹を求めながら結花は正樹のキスに舌を絡めたキスで返事をして、着替えを取りに寝室に行くと着替えもそこそこにしてクローゼットの中にしまっておいた一冊のミニコミを取り出して最後のページをそっと開いた。

「サイレンサー」
1988年10月発行
発行人 : 雪野 和彦
スタッフ : 千葉 結花 雪野 泉 小向 雅紀
伊藤 典子 山根 学
写真 : 雪野 泉 表紙&レイアウト : 千葉 結花
スペシャルサンクス : 太田 明 箱崎 翔

「今日さぁ明日デートだって言う、女子高生の子が髪を切りに来たんだけどね、その子と付き合っている22歳の彼氏が宮古の人だって言うから、名前を聞いてみたらさぁ、このミニコミの編集長だったわけ…」と夫に語りたくて仕方なかったが余計な火種は今夜は持ち込まない方がいいかなと考え直して、正樹が待っている風呂場に急いで向かった。
結花は無性に子供が欲しくてたまらなかった。

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1988年9月某日 雪野宅

さっきまで和彦の部屋のレコードを棚から引き出して眺めていた数名のミニコミのスタッフは編集会議の為の人数が集まると、各自が書き終えた原稿を出して、それを他のスタッフに読んでもらい意見があればその部分を修正して何とか良いものを出したいと希望に溢れていた。

一通り目を通したそれぞれが、いいんじゃないのと投げやりではないが、どうも他人行儀な感じでやり取りするのを和彦は良しとしなかった。「なんかよそよそしくない?文句があるなら今のうちに言って」
「うぃーす」軽い返事は帰ってくるが、手応えが薄い。

「LIVEレポートとレコードレビューはいいんだけど他の記事必要か?」と雪野の高校の同級生である米沢が遠巻きに雪野に意義を申し出た。
米沢の言いたい事の真意が理解出来なかった和彦は米沢に今の発言の真意を聞いてみた。
「雪野の書いた反原発の記事とか結花が書いた女性の権利とか誰が読むのかなって話し!他もダメだけど泉が書いたライナーは問題外!!小学生以下だよ」
米沢が言い放った言葉がその場の雰囲気を一気に凍りつかせ結花はガッカリと下を向いて項垂れてしまった。

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結花の実家は盛岡にあるが、中学3年生の4月下旬に一関に住む祖母の所に転校する為に単身で引っ越した。
いや、引っ越したのではなく逃げ出したのだ。

ゴールデンウィークを前にしたある放課後のこと、保健室の掃除当番だった結花の班員6名の内二人の女子生徒が先生に呼び出されたために、男子3名女子1人で保健室の掃除をしていた。

ひたすら喋ってばかりで掃除を全くやりたがらない男子に結花は、呆れ果ててベッドに腰を掛けて溜息をついた。
そのうち男子の話しが昨晩オカズにした、エロ漫画誌の話題に変わると、丁度そこに同じクラスメイトで掃除をサボったクラスの問題児と言うよりも学校を代表する問題児が二人が保健室に入って来て保健室の扉を閉めた。

最初は問題児が班の男子三人のパンツを恫喝で脱がせて陰茎をしごかせたりしてその光景を眺めて爆笑していたが、なにを思ったのか問題児が班の男子三人をけしかけて逃げようとした結花のはらを問題児の一人が1発殴ると、口をタオルで塞ぎ結花を五人でベッドに押し倒して、問題児の一人が上半身を羽交い締めにし、もう一人の問題児が結花のスカートを捲り上げて下着を脱がせると、バタバタと抵抗する結花の足を班員三人が力任せに開かせると、結花の身体がカエルをひっくり返したような体勢になり陰部が保健室の明かりの下で露わになった。

おそらく女性の陰部を生で初めて見るだろうこの三人は、緊張の極みで直立不動の姿勢になったが、問題児の一人が結花の割れ目を指で開き陰核を撫でながらピンク色の大陰唇が剥き出しになった結花のその部分の匂いを嗅いてみろと三人に命令した。
一人が出来ないと拒否すると問題児は、その生徒の腹に思いっきりパンチを入れ足蹴にした。
目の前で恐怖を見せられた男子生徒二人は、問題児に屈服して一人が結花の大陰唇に顔を近ずけ匂いを嗅いだ。
問題児二人は大爆笑して匂いを嗅いだ生徒に感想を聞いた「オシッコ臭いです」またまた問題児は大爆笑するともう一人に「この女でオナニーしろ」と命令した。
この生徒はただ呆然と眺めてこの先をどうして良いのか判断が出来ずにただそこに立ち尽くしていたが、問題児が暴力をチラつかせると、やはり保身に走り結花の股間を眺めながら陰茎を扱き始めた。

「お前今童貞捨てるか?」と問題児が爆笑しながら陰茎が勃起したその生徒をからかいながら挿入の手解きをしている時に保健室の扉が開き養護教諭と女子二名が雑談しながら遅れて掃除にやって来た。

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「結花さん起きてる」泉が結花の腕をボールペンで突いて話しかけてきた。
「大丈夫起きてるよ」結花はうたた寝していた自分に気がついた。
意識を取り戻すと、まだ先程の議論の続きをしていた。雪野編集長が米沢に反撃している。
「じゃあお前、ボツにしたページを穴埋めするだけの企画があるのか?あるなら今ここで発表してみろ」

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結花は中学を卒業すると高校は宮古市にある公立の実業高校に進学した。

一関の高校でも進学出来たが、友達がいなくてもいいから過去の自分を知らない人ばかりの世界で高校生活を送りたかった。

最初の一年間は大人くしていた結花だったが
圧倒的に男子が多いクラスにいると、周りから聴こえてくる会話もマンネリだなぁと退屈するようになった。
「女ってレイプされると濡れるんだよ」そんな談笑をしている男の机を蹴飛ばすと結花はベランダに出てラジカセでPUNKを流している集団の所に行った。

「私にPUNKの事教えてくれない?」

最初は何言ってんだこの女と顔に描いてあったが音を知らなけりゃ話しにならないと思ったのか「ゆきちゃんに頼んでカセットに録音して貰うから明日まで待ってて」と言われた。

ゆきちゃんって誰だ?
ちゃんと言うからには、やはり女なのだろう。
と結花は勝手に決めつけたが、来る日も来る日もゆきちゃんからカセットテープはやって来た。

授業中の退屈しのぎも、やはりゆきちゃんから回って来たプロレス雑誌と音楽雑誌だった。
明けてもゆきちゃん、暮れてもゆきちゃん、ゆきちゃんがいなければ、退屈な高校生活なのだろうと思った矢先に突如ゆきちゃんが学校から消えた!
高校二年生の冬休みを終え、学校に戻ったらゆきちゃんの話題の一つも出なくなった。
冬休みの間に退学したのだろうか?
それとも病気で入院しているのであろうか?
いないと気になるし、授業時間の退屈しのぎが出来なくなった。
もしゆきちゃんなる人物が男であったとしたらバレンタインには手作りチョコの一つでも渡す気もあったけど…
とうとうゆきちゃんが学校から消えたまま二年生が終わり、心にポッカリと穴が空いたまま三年生になった。

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「何言ってんだよ!みんなが書いて来た記事を削って誰だか分からない奴の宗教で言う教えを載せる?ふざけんな!!いいからお前は出てけ!クビだクビ!!」雪野編集長が米沢の野望を打ち砕いた。

米沢のやりたかった事は、ミニコミを利用してそこに自分の信仰する宗教を紹介しながら信者を増やす1粒で2度美味しい的な事がやりたかったのであろう。

いくら輪廻転生を解いてもこの部屋に集まる奴らは決して騙されない。
米沢にもう少しだけ人望があったらそれも可能だったのかも知れないが、米沢には人を想う優しさがなかった。
でもとにかく宗教に乗っ取られるのだけは防げた。

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三年生の始業式が始まると、またゆきちゃんから雑誌が回って来るようになった。
ゆきちゃんは一学期の間なにをしていたのか?
疑問符だらけの結花による、ゆきちゃん探しの旅がまた始まった。

女と決めつけるのが悪いなら、今度は男を疑ってみよう、コレだけPUNKに詳しいならきっとゆきちゃんはゴツイ奴なんだろう。
結花はきっとそれは違うだろうと自分にツッコミを入れながら、理想のゆきちゃんを求め始めた。
気が付いてみたら、結花の高校生活の半分は見えないゆきちゃんの事ばかりを考えていた。
ゆきちゃんて何だ?
ゆきちゃんって誰だ?
もう今更誰にも聞けないじゃん。

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「ミニコミのタイトル何にする」まだ決まってない議題が始まった。
どうもこのような議題を出すとみんな無口になってしまう。
時折「つくしんぼの成長」とか「アイラブ、パンク」とか発言が飛び出すが、皆が納得する名前が出てこない。
あれこれ出しては首を傾げて一時間が経過した。
こんな時ほどバンドをやっていない者のセンスのなさが皆を敗北感に苛ませた。
頭を項垂れてて誰も何も喋れなくなった。
編集長の和彦が「サイレンサー!!音も無く古い価値観を葬り去ろう」と静かに呟いた。
結花が「カッコいい!ステキ」と和彦をみて言ったら、和彦は照れて顔が紅くなった。

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とうとうゆきちゃんの正体が分からないままに高校の卒業の日を迎えた。
結花は仙台の美容専門学校に進路が決まったが
ゆきちゃん探しは答えの出ないまま終わるのかと思うと少し寂しい気持ちに駆られた。

壇上では卒業証書が手渡されているが、中々
ゆきちゃんの正体は出てこない。
今「雪野 和彦」と呼ばれたがなんだアイツかと結花は廊下でよくみかける童顔で喧嘩が弱そうで一年生の女子に人気がある奴で、少しだけ気になる雪野と言う男を見つめていた。
「あ〜ぁ」と結花がこの人がゆきちゃんなんだと気づき高校生活に少し悔いが残った。

最後に結花がゆきちゃんに会ったのは、盛岡の免許センターだった。
運転免許試験の為に来た和彦と結花は偶然出会い二言ほど喋ったが結花と一緒に来ていた里子が貧血で急に倒れてしまった為に、結花はこの日の試験をキャンセルした。
そしてお互いの進路先と連絡先を聞き出せないままに…もう二度と会えないだろうと思った。

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結花は二年間の美容専門学校を終えて、宮古にある美容院にアシスタントとして戻ってきた。
何故宮古なのかは、結花にも分からなかったが
もしかしてゆきちゃんがいるから?
高校を卒業して何年たっている?
結花は自分の中の自分に問い詰めた。

店のドアが開き、カランカランとチャイムか鳴った。
「いらっしゃいませ」結花が頭を下げると
「頭金髪にしてくれる?」雪野 和彦が結花の目の前に立っていた。

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