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ライン~あちら側とこちら側のお話

毎度おなじみ前提です

  • これはいわゆる先日の「とあるシンガーソングライターが燃えた話」についての某所からの執筆依頼を、依頼元の了承のもと簡易にまとめたものです。こういった話題が苦手な方は、そっとページをお閉じください。

  • わたしは大昔からそのシンガーソングライターの音楽がとても好きです。お人柄について否定したり、その方の音楽を貶したりする意図はありません。

  • あくまで私見であり、なるべく客観的な目線で今回の事象を綴ります。

【SIDE A:ARMYとそうでないの人の間にあるライン】

2023年3月5日、そのシンガーソングライターが何気なく書き込んだツイートが瞬く間に炎上した。
書き込みの内容は、「バレエを始めたが、ジャンプで苦労している。BTSの『後列』のメンバーでさえも(失礼すぎる、という注釈がここで入っていた)あんなに高く跳んでいるのに」といったものだった。
これだけ見れば、微笑ましい書き込みにしか見えない。
しかし、その書き込みは、BTSのファン(ARMY)を激怒させた。

『メンバーでさえもって、失礼すぎる。彼らの努力を知らないのか』
『失礼だと思っているならなぜ書くのか』
『BTSに前列後列という概念はない』
『それはダンスが得意ではないから後列にいるメンバーということか』
『日頃ファンだと公言しているようだが、本当に彼らのことを知っているのか』

そのツイートへのリプライや引用リツイートはこのような内容がほとんどだった。
しかもその書き込みにはBTSの名前でハッシュタグ(#)と呼ばれる検索用のフラグがつけられており、全世界に向けて公開された性質から『本人たちの目に触れる可能性もある』という懸念への書き込みも多く見られた。

これが一介のユーザーの書き込みであったなら、そしてARMYの裾野がこれほど広くなかったら、この書き込みは全く問題にならなかったであろうと思われる。しかし、そのシンガーソングライターは活動歴も長く、有名であったため、多くの人がそれを目にし、もちろんARMYたちの目に触れ、瞬く間に燃え広がった。

程度や熱量の差はあれど、ARMYは皆、BTSの各メンバーを、音楽を、その容姿を、メンバー同士の関係性を、活動の軌跡を、ここまでの様々な物語を、それぞれの形で愛している。
ARMYにはそのシンガーソングライターの発言が、大切に思っている人々への一種の侮辱のように感じられたに違いない。
だからこその先述のような糾弾に近いコメントが書き込まれた。

一方、ARMYではない方々からは

『そんなに目くじら立てるほどのことなのか』
『顛末をたどってみたけど、何が悪いのかさっぱりわからない』
『これぐらいのことでこんなにヒステリックに騒ぐARMYってヤバい』

といった書き込みが多く、これに関してはARMYであるわたしの立場からしても、十分理解でき、当然の反応だと納得できるものがほとんどだった。

そして、事態はそのシンガーソングライターの事務所からの謝罪、本人からの謝罪と該当ツイートの削除という形で幕を閉じた。

※本人の謝罪の前に『ごめんなさいを書いているので待っててね』というツイートが投稿されたことのほうが、実はわたしにとっては衝撃だった。あんなに鮮やかな燃料再投下を未だかつてわたしは見たことがなかったので・・・

※本人からの謝罪ツイート掲載からしばらく投稿がなく、そのシンガーソングライターのファンの方に心配されていたようだったが、ぴったり1週間で何もなかったように投稿が再開されていた。おそらくは事務所から謹慎を言い渡されていたに違いないと推測する。

【SIDE B:BTSとそうでないの人の間にあるライン】

多くの人が今回のこの事象を、SADE Aで述べた内容でとらえ、見ようによっては、アイドルに対する幼稚な感情が引き起こした炎上のように見えたに違いない。
今回の件では、わたしも多少なりとも不快な思いをした人間の一人である。
でも、それはSIDE Aで書いたような心情からではなかった。
何がそんなに不快なのか考えてみた結果、それは、そのシンガーソングライターが発言している「立ち位置」ではないかと思い当たった。

アイドルとファンの間には決して踏み超えてはならない精神的なラインが存在している、とわたしは考える。
もちろん、肉親、恋人、夫婦、子弟、同僚、その他もろもろの一般の人々の間にもラインはある。
しかし、アイドルとファンの間には、どんなに近くに感じたとしても、それらよりももっと濃くて強いラインが確実に存在する。
そして、どんなに手を伸ばしても決して届かない、どんなに愛していても話すことも触れることもできない、それがアイドルを愛するファンにとっての暗黙の了解事項であり、逆説的な醍醐味のひとつでもある。
フィジカルな接触が恒常的にない愛は、強く熱く、ラインのこちら側にいる者同士でその愛を共有しあうことで、喜びを増幅することが可能だからだ。
様々な形はあれど『BTSが好き』という想いの元にこのファンダムは形成されている。

一口に「ラインのこちら側」とひとくくりにしてみたが、「こちら側」にも様々な目に見えないカーストがある。ファンになった時期、現場(コンサートなど)経験の有無、ファンクラブへの加入未加入、これまでに積んだ(支払った)金額の多寡、使用言語、SNSのフォロワーの多寡、等。
(カーストについての私見は「謎のお作法」であり、「どうでもいい」の一言だが、アイドルが職業である以上、支払った金額の多寡で優劣があるのはなんとくなく理解できるし、わかったようなことを語る新参に古参が良い感情を持たないのも、心情として理解できる。)

また、昨今の「アイドルの尊厳を尊重しつつ愛する」「享受はするけれど、搾取はしない」という傾向もあり、下記のようなSNSへの書き込みは仲間内で非難を受けることがしばしばある。

・セクシュアリティに関する決めつけ
・人格に関する決めつけ
・根拠不明の意見や心情の代弁
・実在の人物を主人公とした創作(公開前提)
・あまり面白くない大喜利
・公式ルール違反(商業利用、非商業利用、違法アップロード)
・BTSを利用して自己顕示欲を満足させる行為
・作為的な美談捏造

上記の他に、共感性羞恥や潜在的な同族嫌悪を誘発する投稿も、一様に非難の的になることがしばしばある。

これらに共通しているのが「ラインを超えた、つまり越権行為である」という点だ。
ラインのこちら側でルールとマナーを守り、嫉妬や羨望を社会的にコントロールし、彼らとの関係性を楽しんでいる人々にとっては、程度の差はあれども、これが「不快」の一番の原因だと推察する。

では、ラインを越えて「あちら側」つまり、BTS側に行くにはどうすればいいかというと、公な方法はたった一つ。
「何らかの仕事として彼ら関わること」だ。
彼らと仕事でかかわった人々は、めったな発言や行動をしない限り、概ねARMYには好意的に迎えられている。

件のシンガーソングライターは往年の世界的グループに関りがあり、素晴らしい実力もある。また、SUGAやRMが敬愛するミュージシャンの元妻であり、今後、音楽の仕事でかかわる可能性はゼロではなかったと私は思っている。
しかし、現段階で、彼女はまだ彼らとの仕事をしていない。
つまり、彼女は「あちら側」の人間ではないのに、ラインの向こう側から発言してきた。
発言の際の立ち位置、これが今回の不快、そして炎上のすべての原因だったと確信する。

今回の発言だけではなく、

・声の大きな(発言に影響力のある)新規ARMY
・多数の不要なハッシュタグ(彼らへの自己顕示や彼らを営業活動に利用していることへの嫌悪感)
・身内でも友達でも関係者ですらないのに「BTSになりかわって」といったような自身の立ち位置(ライン)を見誤った多くの発言
・それなのにもしかしたら彼らに会えるかもしれない立場である
(これはだけ理不尽な嫉妬かもしれないけど、確かにある。あと最近話題の「無意識の特権」というものにも関係してるかな。)

このようなことの積み重ねが、あの日、怒りというより不快となって噴出したのだと私は理解している。

彼女が、もしも彼らと素晴らしい仕事をしたあとに、ラインのあちら側からあの発言をしていたら、こんなにも不快だっただろうか。
または、ラインのこちら側から「自分はうまく跳べないけれど、彼らはあんなに跳べて羨ましい」という書き方をしていたら。

こんなことにはならなかったんじゃないかな。きっとね。















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