見出し画像

せっかち少女の堕落

物を買った後、私はよく店員に追い掛けられる。(万引きはしてません)

一から説明します。それは、「お客さん、お釣りお忘れです!」「お客さん、スタンプカードお忘れです!」はともかく、「お客さん、お品物とお釣りとスタンプカードお忘れです!」という全忘れもしばしばだから。自分でもちょっとおかしいのじゃないかと思うけど、これは全て、私のスーパーせっかちな性格によるものだと整理している。何かを買ったら=その場に用がなくなったら、即座に去りたい!と常に思って行動している為、恥をかく。恥をかくけれども、のんびり屋の人の気が知れない。

例えば、計り売りのサラダ売場なんかで、長蛇の列が出来ているというのに、「えーっと、ずわい蟹のサラダを100グラム……あ、(同行者を突っついて)今日って全部で何人だっけ?マーちゃんと、ウーちゃんと、ピーちゃんと……だったら200はいるか、あ、むしろ300か。あ、でもちょっと待って。マーちゃんて甲殻アレルギーじゃなかった?じゃあ、茄子のマリネもいっちゃう?どうする?茄子どうする?」「え、マーちゃんはアレルギーなんかじゃないよ。大体、あの子は文句言いなだけなんだから」「じゃあどうする?あ、でもこの棒々鶏のサラダも美味しそうじゃない?」「でも、ピーちゃん、鶏肉嫌いじゃなかった?この前の焼鳥屋企画、拒否ったじゃん」「じゃあどうする?茄子は?」「茄子、好きだねー。さっきから茄子推し半端ない、キャハハ」とかやりとりしているのを見ると、「ずわい蟹、茄子、棒々鶏、各100!持ち歩き時間は30分。よって冷凍パック1つ!」と、後ろから叫んで、何なら店員のパック詰めを手伝いたい位のイライラに襲われる。

だって、この長蛇の列の先頭に来る迄に、透明のショウウィンドウに並ぶ極彩色のサラダ達はよく見えたはず。そして、マーちゃんの甲殻アレルギー疑惑、ピーちゃんの鶏肉嫌いは今に始まったことじゃないはず。なのに、なんで、なんで、今になって初めて考えるんだ!サラダだけでこんな調子じゃ、メインは大丈夫なのか?飲み物は?そのパーティ始まるの22時くらいになっちゃうんじゃないの?

飲食店での注文もそう。さすがの私も、食い意地が張っている為、メニューはそれ相応に時間をかけて選ぶけど、尋常じゃなく決まらない人っていますよね。そういう人に限って、「じゃあ、担々麺で。あ、これって量多いですかぁ?そして、辛いですかぁ?」とか、いちいち店員に聞いちゃって時間かかるのなんの。「そう……ですね。女性の方でもお召し上がりになれるサイズですよ。そこまで激辛というわけでは…。」と言われてもなお、「私、食べられるかな。大丈夫ですかね?」と聞いたりして。接客業ゆえに「知らねえよ。テメエの胃袋と舌耐性次第だからな!」と言い返せない店員さんはさぞかしストレスだろうなと思いながら、こちらはスパッと注文する。
「担々麺で」ーーそう、その一言しか言いません。

今は、PASMOやSuicaがあるから、駅の券売機で並んで切符を買うことがほとんどないけれど、昔はよく、券売機の前に列が出来ていた。自分の前の人が、いざ自分が切符を買う段になって料金表を見上げ、「えーっと、山手線で新宿っと。で、そっから乗り換えて、と。えーっと、あ、260円か」みたいなことを1分くらいかけて考え、そこから鞄をモソモソやって財布を出し、ジャラジャラと小銭をまさぐり、挙げ句、微妙に足りなかったのか1,000円札を取り出し、ノロノロと260円のボタンを探しゆっくり押下して、ジャラジャラとお釣りをしまい、ゆっくりと切符を取り出そうとしたら、取り出し口の銀の底に切符が貼り付いてなかなか取れなくて、やっとこ切符を受け取って去る……みたいな人を見ると、「あなたは一生涯を、この券売機の前で終えるのかと思いましたが、そうではなかったようで何より。お疲れ!」と心の中で毒を吐きながら、自らの切符はマッハの速度で購入……という毎日。

淑女のたしなみからは対極の、この我がお振る舞い。一体いつからせっかちだったのだろうと振り返ると、やはり子供時代からそうだった。
よく覚えているのが、小学生の時に通っていた塾のテストの日。テストを終え、解答をもらって塾を飛び出ると、家に帰るまでに歩きながら答え合わせ。家までなんて、とても待てない。塾と家を結ぶ長い坂を登って降りる頃には、国語75点、算数78点、といった正確な点数がはじき出されていた。そして、家にたどり着いても、決してすぐに居間に入るようなことはしない。鞄を置くと、玄関先に寝転んで、先ほど坂の登り降りで行った答え合わせを再度行う。そして、間違った問題は何故間違ったのか、という反省と考察すら終える。間違えた漢字は、玄関の壁を使って書き直してその場で覚える。坂と玄関で完結。
居間のドアを思いきりよく開け、「ママー!今日のおやつ、何かしらーっ!!」と、宝ジェンヌのように良い声を出して登場する時にはもう、その日の小学生としての仕事を全て終えているからして、それは晴れやかな顔をしていたと思われる。
だから、夏休みの宿題が最終日になっても終わらないという、カツオやのび太がよく抱えてる悩みについても、「初日にとっとと片付けちまえばいいじゃないかよ」と思っていたし、「『8時だよ、全員集合!』は親が見せてくれないの……。」なんて目を伏せている友達に対しては、「8時までに、宿題終えて、予習も終えて、お風呂も歯磨きも全部終えた上でお母さんに頼めば大丈夫だよ。あとは寝るだけって状態にして『全員、集合ー!』って叫んじゃいなよ。きっと気持ちがいいよ」

そんなキレッキレの小学生時代から、早○○年……。
あー、これやらないとなー、まあ、でも明日でいっか。かったるい、これも明日でいっか。なんて風に、やるべきことについて、なるべく先延ばしをするという中年に。これを堕落と呼ばずしてなんと呼ぼう。
残ったのは、駅や店で、キレッキレにイライラするという、単なるせっかち気質だけなのです。
アーメン。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?