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K君の黒歴史

数十年ぶりに思い出した。小学校の終礼の時間。テンパった顔でおもむろに立ち上がり、「生理って何ー???」とシャウトしたK君のことを。

一から説明します。先日、友人の娘が生理になったという話から、「自分たちが初潮を迎えた時はどんなだったか」という、久しぶりに女性性を意識するトークが展開された。「お赤飯を炊くシステム、あれってほんとに今思うとセクハラ」とか「大人になるって血が出ることなの?それって、あんまりだと思った」「その日からというもの、男子にナプキンを見られないようにトイレに行くことだけが、私の気がかりの全てになった」「お父さんと一緒にいつまで風呂に入るのか問題とこれはセットなのか、切り離して考えるべきなのか悩んだ」等々、色んな意見が出る中、私は、あの頃、女子の誰よりも「生理につき考え、悩んでいたK君」のことを思い出したのだ。

確か小5だったと思う。性教育ということで、クラスの男女が一緒に集められ、保健の先生から「男女の体の仕組みの違い」「赤ちゃんが出来るシステム」みたいなことを習ったわけだが、それは金八先生が施しになられた「十五の母へ云々」的な深いものでも何でもなく、本当に淡々と「要するに凹と凸ですぅ」くらいの内容だったと思う。現に、当時の私にとっても新しい発見とか感慨といったものは特になく、「なんかちょっと、嫌らしいことを習っているのかも。でも嫌らしいとかは言っちゃいけなくって、真面目に向き合うべきことなんだろう。でもやっぱ、赤ちゃんが出来るシステムについては、大人の都合で適宜ボカされてるな、具体的に全然分かんないし。でも、ボカされていることに気付かないフリをしておくのが、正しい子供なのだろう」と思った程度だった。ただひとつ意外だったのは、いつもはふざけたり暴れたりしている男子たちも、神妙そうに授業に聞き入っていて、誰も「エロい!」とかいう茶々を入れなかったということだ。

が、悪夢は授業が終わってからだった。いたずら坊主筆頭のK君は、ズボンのチャックを下ろして自分のものを女子にチラ見せしながら教室中を駆け回り(これはいつもやっていた。今思うと異常だし今時の子はしないんだろうけど)、「生理って何ー?ねえ、何?」と女子に聞いて回ったのだ。私のところへもやって来たが、他の女子同様、軽く目を伏せ「知らない。先生に聞いて」と言うのが精一杯。なのにK君は「だーかーらー、先生も教えてくれないんだよ。」とか言って引き下がらない。結局、クラスの女子全員にシカトされたK君は、家に帰ってからお母さんにもお姉ちゃんにも曖昧に誤魔化されたようで、その後しばらく、K君の頭は「生理ってなんだろう」という難問に、100%占拠されたようだ。

生理ブームもすっかり去ったと思われたある日の終礼で、ついにK君はキレた。いきなり脈絡なく立ち上がり、「生理って何ーー?」と大声でシャウト。その姿は、まるでフルマラソンを終えた直後の人ように、息は切れ、腰は折れ、目はうつろ……。
まだ悩んでいたのかよ!
シーンと静まり返ったクラスが、その後どのように処理されたのかは覚えていない。先生って大変なお仕事ですね。

その後、K君と私は別々の中学に行ったので、小学校卒業後一回も会ってはいない。おそらく今では、生理を理解するどころか、男性としてちゃっかり活用して、良いパパになっているのではないだろうか。K君は、性教育の当日に、ズボンから自分のものをチラ見せしながら、クラス中の女子に「生理って何?」と聞いて回るという、変態極まれり!な行動をとったことを覚えているのだろうか。本人が覚えてなくても、ここに未だに覚えているクラスの女子がいますよ。

このように、幼い頃の黒歴史というものは、案外と人は忘れてくれないもののような気がする。私でいえば、学校で一回だけお漏らしをしたことがある。保健室にパンツを借りに行く道すがら、皆が「大丈夫?」と声をかけてくれたことに対し「病気と違って、大丈夫とか大丈夫じゃないとかいう問題じゃないんだよね。おしっこ漏らしただけだからさ」とか心の中で強がった記憶はあるのだが、びしょ濡れになった床を掃除してくれたクラスメイトは、きっと今でも私のその黒歴史を覚えているんだろうなあ。

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