爆破ジャックと平凡ループ_13

如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#21-13周目 浮気調査探偵の名推理

 十二月の風にも、もう慣れた。バス爆発のせいで暑かったり寒かったりで、体がおかしくなりそうだ。

 目の前のあかいくつバスが、可愛らしいデザインなことにも、妙な苛立ちを覚える。

 あかいくつバスに乗り込む。

 バスジャック犯の目的と、乗り込んで来るまでの経緯はわかった。彼には病気の妹がいて、その手術費用をなんとかしようとしていただけで、もともとバスジャックをするつもりはなかった。

 そしてバスジャック犯と爆弾テロ犯は別だった。叶と名乗った男の予想が正しければ、爆弾テロ犯は彼の運んでいる死体と彼を消そうとしている、というものだった。

 だが、彼の途中下車を予想できるものだろうか?

 俺は、菜々子嬢のコーヒーを避けながら、こういうことを相談できる唯一の人間のもとに、真っ先に向かった。

「なんだ? 俺になにか用か?」

 くしゃくしゃ頭の探偵、立花だ。

「あなたに相談をしたいことがあって来ました。今、二人の駆け落ち尾行中だということも知っています。騒がれたくなかったら、最後部座席まで来てください」

 俺がそう言うと、探偵は眉根に皺を寄せ、怪訝な顔をしながら、大人しく俺についてきた。最後部座席の右側の隅に座ると、彼は隣の席に座った。

「なんだよ、用事って。マジで騒ぎを起こすんじゃねえぞ。こっちは、あいつらの駆け落ち阻止に事務所の存続がかかってるんだからよ」
「いいですか? 今から信じられない話をします。俺は、同じ時間を繰り返していて、このバスに何度も乗っています。今回で十三回目です」
「はあ?」
「だから、あなたが駆け落ち尾行中の探偵だということも知っています」
「時間を繰り返すなんて、そんな話を信じるわけないだろ」というセリフがハモる。

「映画か漫画の読みすぎだ」というセリフがハモる。

 立花が気持ち悪いものを見るような目で俺を見る。

「俺の名前を言ってみろよ」

 訊ねられ、「立花、としか名乗りませんでした」と教える。

「あと、あなたは絶対に信じないだろうから、こう言うように教わりました」
「なんだよ」
「『新しくないフォルダ2』」

 立花の顔色が変わった。怯えるような顔つきになり、ごくりと生唾を飲み込む。

「お前、マジで一体なんなんだよ」
「言ってるじゃないですか。繰り返しているんですよ。この後、バスジャック犯が乗り込んで来ます。見ていてください。乗って来るんじゃねえぞ、おい、運転手、バスを早く出せ、って言いますから」

 しばらくすると、『日本大通り、日本大通りでございます』というアナウンスがかかり、ゆっくりとバスが停車した。男が飛び込んで来て、咲子さんを人質に取り、「乗って来るんじゃねえぞ! おい、運転手! バスを早く出せ!」とバスジャック犯ががなる。

 立花が「おいおい」と小声で漏らし、「これはドッキリってやつか?」と俺を見てから、

「違ぇよなぁ。ファイルのことを知ってたし」と頷いた。
「『新しくないフォルダ2』ってなんのことなんですか?」
「うるせえ、そのことを二度と言うなよ。お前の時を繰り返すってやつを信じてやるからよ」

 立花にとっては、よほどのものらしいな、と俺はこれ以上追求しないことにした。

「それで、お前は俺になんの用があるんだよ?」
「バスジャック犯だけじゃなくて、このバスには爆弾テロ犯も乗っているかもしれないんです」
「ジャックにテロにタイムリープって、色んなことが起こりすぎだろ」
「同感です。でも、窓の外、給油口のあたりを見てください」

 小声で促すと、立花は顔を窓に張り付けるようにし、外を見た。すぐに顔を戻し、「確かに、なんか張り付いてんな」と漏らす。

「あれが、爆弾だと思うんです」
「なるほどな。で?」
「犯人が誰か、推理してもらいたいんですよ。ちなみに、バスジャック犯と爆弾テロ犯は別人です」
「探偵って言ったってなあ、俺のやってることは」
「ライトをつけないで夜道を走って尾行したり、浮気現場をおさえるためにホテルに入るのを写真撮ったりすることだけですよね」
「その通りだけど、人に言われると腹が立つな」
「十二回分、俺の知っている情報を教えますから、推理してくれませんか?」
「犯人がこのバスに乗ってないって可能性もあるんじゃないのか?」
「いえ、何度か乗客が降りそうになるタイミングがあったんですけど、その度に爆発しました。だから、犯人が乗っている可能性の方が高い気がするんです」
「俺が犯人だったらどうするよ」
「そうしたら、もう一周、今度はあなたと戦いますよ」
「まあ、俺は違うから安心しろよ」

 立花が乾いた笑い声をあげ、真面目なトーンで「十二回分の情報を、全部俺に教えろ」と囁いた。

 一周目の俺はなにもできずに桜木町で爆発したこと、二周目で駆け落ちカップルが降りようとしたが立花が止め、パトカーに挟まれて爆発したこと、三周目では立花に協力を求めたがごたごたが起こり、みんなで奮闘した結果爆発したこと、四周目では、四方山という警察官が俺を逮捕し、事情聴取云々と説明をしたら爆発したこと、などを一周ずつ説明していく。

 たまに、「その時、奮闘に参加してたのは誰だ?」「ユーチューバーはなにをしてた? 画面を確認したのか?」などと質問をされ、覚えている範囲で答える。

 立花はしばらくの間、眉間に皺を寄せ、顎に手をやり、探偵が推理をするようなポーズをとった。

 どのくらいそうしていたかわからないが、俺は彼の推理の結論が出るまで、バスの外をぼーっと眺めていた。おしゃれな港の見える丘公園でのUターンを終え、マリンタワーの前を通り過ぎ、パトカーが追いついて来たあたりで、彼のポーズが解かれた。

「わかったぞ」

 立花がそう言って、俺にそっと誰が犯人なのか耳打ちをした。
 が、耳を疑った。そんな、まさか、そんなわけはないですよ、と打ち消したくなる。

「不可能を取っ払ったら真実だ。お前の元恋人だけは、犯人が持ってる爆弾とか起爆装置を見たんだよ。だからバスジャックしたんだ」
「だって、そんな」
「お前が時間を繰り返してるっていうやつを信じてやるよ。今回は死ぬかもしれないけど、そいつの一挙手一投足を観察しておけ。お前にだったら、答え合わせができるだろ?」

 バスは桜木町の駅前に到着した。東雲のせいで人々が集まり、ロータリーに入った瞬間にバリケードで道路が封鎖された。
 俺は、立花が犯人だと言った人物を見つめ、なにかしているのを見た。

 バスはまた爆発した。

=====つづく
第21話はここまで!
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