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自営業としての弁護士

※この記事は私より若い弁護士さん向けに書いています。周囲から「自営業を満喫している弁護士」と言われることが多いことに気がついたため、そのポジションで語ります。

「自営業」を始めるぞ!と意気込んで弁護士になる方は少ないようです。実際に、圧倒的多数が他人に雇われることによりキャリアを開始します。資格制度に守られた領域を有しますし法律事務所は法人化していない限り組合ですし雇用契約ではなく業務委託契約を締結するような場合が多いと聞きますしなんだか特別感はありますがそれでもなお、単純に自分ではない何者かに雇われています

他人がとっているリスク(固定費、これまでに築いた信用、巻き込んできた関係者の方々などなどなどなど)の下で生活しています。

しかしやがて自営業者としてのペルソナを外し反逆の翼を広げることを迫られます。自分の人生を生きるのです。汝は我、我は汝。

雇われる以外の方法でお金を稼ぐ

ペルソナを外し自営業として世界を見た際に最も戸惑うのは、お金の稼ぎ方です。月末に口座を確認すると決まった相手から決まった額が振り込まれる世界線の外にあなたはいます。他人がリスクをとってくれる世界線の外にいます。

戸惑うのも当然です。「雇われる以外の方法でお金を稼ぐ」経験をしている人は少ないです。そのような経験がない限り、戸惑うのも無理はありません。

(筆者は、20歳くらいの時に、友人たちと学生団体「出版甲子園」をと立ち上げた際に、名のある出版社の編集者さんとのコネクションを作るべくパーティに潜入したり、インターンをしたり、リストを作ってスポンサー営業のテレアポをしたり、都内の大学生協を回ってポスターを置いてもらったりビラ配りをしたりしました。同時期に、バンド活動をしていた際に、ライブハウスにデモテープを送ったり、地方のバンドやライブハウスに音源を送って連絡を取ってツアーに出たりしていました。記事を書いたり恵比寿あたりで交友を広げたりなどなどしていました。)

いまやあなたは自由です。自分が提供するサービスの内容も値段もまったくの自由です。誰と取引するかも(相手が反社であったり既に依頼を受けているクライアントとの間で利益相反があったりしない限り)自由です。法律事務所名も(日弁連の会規「法律事務所等の名称等に関する規程」の範囲内で)自由です。おおよそ自由です。本当に自由です。

しかし念願の自由を手にしたはずが、何かが引っかかるはずです。魚には感情がないから食べていい論にsomething in the wayと歌ったカートコバーンと同様の違和感を感じるはずです。サルトルが描くロカンタンが感じた種類の嘔吐を感じるはずです。

自営業の仕事の中心は、なにもないところにルールを設定していくことにあります。「経営者の仕事は意思決定」と言われるのを聞いたことがあるはずです。それです。

自由に規律を導入する。これは大変な仕事です。大仕事です。これまであなたは他人が導入した箱の中で生活していました。多少の違和感を感じたり表明したりしていても、あくまでも誰かが設定した大いなる物語の内部で足掻くことしかできませんでした。いまは違います。物語の外に出てしまったロカンタンが嘔吐したのも当然と思うはずです。サルトルが描いたあれは決して笑えない話なんです。

所与の設定がないと、課題を与えられないと、自由は必ずしも気持ち良いものではありません。でも大丈夫です。自由への恐怖は克服できます。敵は自分です。ロカンタンが木の根元で洞察を得たように。オースターの名著「幽霊たち」のあの最後のシーンのように。

克服したい。ではどうするか。マインドを変えるんです。リセットしましょう。所与だっと思っていた前提を。当たり前だと思って享受していたリスクに目を向けるんです。自分を雇う他人がとってくれていたリスクに思いを馳せるんです。ヒントは十分にこれまでの自分の人生に眠っているはずです。

しかしこれでは手がかりが足りないですか。わかりました次の手を示しましょう。本を読む?否。ペルソナ5をプレイする?それはオススメします。反逆の翼を広げる瞬間まじで気持ちいいです。

本は一冊を残して捨て、こうありたい自分に近い誰かに話を聞きにいきましょう。きっと手も足もとったりせず進むべき道を示してくれる人に出会えます。世界はドラクエです。仲間を集めましょう。師匠を見つけましょう。今晩わが家に届く手筈になっている「龍が如く7」もたぶんそんなストーリーです(シリーズ一作もやったことないですが)。なおJUDGE EYESはオススメです。木村拓哉さんのような弁護士になりたいと思うはずです。

手を動かすのです。雇われることをやめて得た自由を投資するのです。

いまや自分の時間とお金を自由に「投資」することができます(くれぐれも「消費」しないようにしましょう。)。動いて動いて試しきって振り返って修正してまた動くんです。事業計画書を書き上げ予算を設定して動くんです。エンタメ調査室のゲストが口を揃えて有限の命を語るのも当然です。やりたいことが見つかっても結局のところどう足掻いても制約になるのは命の有限性です。こうやって自分のリスクの中で命の大切さに気付くのも自営業ならではの醍醐味かもしれません。

マインドさえ変われば自分の人生にちゃんと責任が取れるようになります。さぁもう分かっていますよね。名著「幽霊たち」は新潮文庫より絶賛発売中です。どうぞお買い求めください。


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