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操り人形の逆さ吊り(アンチマリオネット)

それからも、ヘイヨーさんは同じコトを繰り返し続けました。

興味の対象を移動させつつ、表現を変えながら、『究極の作家』を目指して戦い続けたのです。そのためには、いかなる勉強も苦になりませんでした。必要とあらば、「マスター・オブ・ザ・ゲーム」を使い、寸暇を惜しんで学習します。

大抵の分野は、短期間で基本をマスターすることができました。そうして、ある日突然飽きては、ポイ~ッと投げ捨ててしまうのです。

おかげで、いろいろな能力を身につけることができたのですが、逆を言えば、どれも専門家にはかないません(もっとも、このコトが後に新たな能力を獲得させてくれます。ただし、それはまた別のお話)


創作し、学習し、遊びに没頭する日々。

そんなコトを繰り返していたらどうなると思います?

そう!働いている暇なんてないんです!

なので、無駄な労働は一切排除しました。働くとしても、それはお金のためではありません。あくまで「新しい能力獲得」のため。

興味が向けば、どんな低賃金でも(場合によっては無給でも)命を削って戦いましたし、興味の対象外であれば、どれほど大金を積まれようと一切仕事をするつもりはありませんでした。


そんな息子の姿を見て、母親は嘆きます。

「どうか、まともな人間になっておくれ。もう欲は言わない。せめて、フツーの人並みの生活を送ってくれさえすれば、それでいい…」

そんな言葉を耳にして、素直に聞き入れると思いますか?

その「まともな人間」「フツーの人並みの生活」とやらへの道は、とっくの昔に閉ざされているというのに。無理矢理に受験地獄に叩き込まれた、遠い昔のあの日に!

「その道は、あんたが11歳の秋に握り潰したんだよ…」と思いました。「もう、後戻りはできない。ここまで来たら先に進むしかない。『究極の作家を目指して』ね」とも。

「まともな人間」になどなるわけにはいかないのです。なぜなら、父親が遺言代わりに残した「作家や芸人はヤクザな商売。まともな人間には、なれはしない」という言葉があるのだから。

10代の時に心の底に刻み込まれた父親の言葉を、その息子は忠実に守り続けたのでした。いや、今も忠実に守り続けているのです。

『究極の作家』となるために、絶対に!絶対に!まともになどなってはいけないのです!


見かねた母親は、再び特殊能力「マリオネット&ドール(近親者は我が奴隷)」を発動させ、自らの子供を操ろうと画策します。

ところが、操ろうとした能力の対象者は、無力な10代の若者ではありませんでした。

「残念でした。もはや、あの頃のような少年じゃないんだよ。能力は飛躍的に向上している。当然、あんたの技を破る方法も用意させてもらっている」と、息子は思います。

「やれやれ…何もしなければ、何も起こらなかったのに。無理矢理に人を操ろうなどとしなければ、この技を使うことだってなかっただろうに…食らえ!『アンチマリオネット』発動!」

「操り人形の逆さ吊り(アンチマリオネット)」
迎撃型(カウンタータイプ)操作系能力
発動条件:あらかじめ能力をセットしておき、相手が操作系能力の条件を満たした瞬間に発動
効果:操作しようとしてきた相手を、逆に意のままに操る

母親の特殊能力「マリオネット&ドール」は、確実に相手のもとに届き、発動条件を満たしました。

その瞬間。逆に「アンチマリオネット」が能力を発揮し、操ろうとした者は逆に操られてしまったのです。

こうして、少年時代に地獄の底へと落とされた人間は、物の見事に復讐を果たし、便利な人形を一体手に入れたのでした。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。