東京で住む家を決める
青年は、本格的に家探しを始めました。
まずは新宿駅に向かい、路線図を確認すると、適当な駅を決めました。新宿からあまり遠すぎず、近すぎず、適度な距離の駅です。
それならば、「都心までのアクセスもよく、家賃も手ごろだろう」と考えたからです。
全路線図の中から直感で「豪徳寺」という名前を選びました。
それから小田急線に乗って、豪徳寺まで向かいました。駅を降りると、思ったよりも「下町」という感じです。商店街は道も狭く、ホコリっぽい感じがします。青年が以前に住んでいた家よりも殺風景な印象を受けました。
さっそく不動産屋さんに向かい、お店に張ってある張り紙をチェックすると、思ったほど家賃も安くありません。
青年は失望しました。そうして、15分ほどその辺りをブラブラと歩き回ると、電車に乗って新宿まで戻ってきました。
「これだったら、まだ、この辺りで物件を探した方がいいのではないだろうか?」
そう思いました。
*
翌日、今度は新宿周辺で家探しです。
新宿駅の南口を出て大きな道を西に歩いていくと、1軒の不動産屋さんを見つけました(ちなみに、この大きな道は「甲州街道」と呼ばれています)
「すみませ~ん!」
ガラガラと引き戸を開けると、青年は店番をしているおじさんに話しかけました。背の低い、ちょっと頭のハゲかけている人のよさそうなおじさんでした。
「はいはい、なんでしょうか?」
「部屋を借りたいんですけど」
「どのような物件をお探しで?」
「なるべく安くて、なるべくここから近いとこがいいです」
「お仕事は何をされているので?」
「お仕事はこれから探します」
青年がそう言うと、おじさんの表情がピタリと止まりました。
「いや~、それは困りましたね。お仕事がないと、部屋を借りるのはなかなか難しいのですよ」
「でも、部屋がないとお仕事にもつけないのです」
「それはそうですよね。でも、お仕事がないと部屋を借りるのは難しいのです」
これには困りました。堂々巡りです。
青年は散々説得して、不動産屋さんにどうにか可能性がありそうな物件を探してもらいました。
3つほどあって、その内の1つを特にすすめられました。
「ここなら大家さんもやさしいし。あるいは…」
「家賃はいくらくらいですか?」
「4畳半風呂なし、トイレは共同で月々3万円です」
「3万円か。それくらいなら払えるな」と青年は思いました。
「じゃあ、そこでお願いします」
青年がそう答えると、不動産屋さんは大家さんに電話をかけてくれて、許可をもらいました。
「では、さっそく見に行きますか。これからうかがっても良いそうです」
「電車で行くのかな?」と思ったら、不動産屋さんはボロッちい軽自動車を出してきました。ほんとにボロボロでホコリだらけの軽自動車でした。
不動産屋さんが運転席に乗り込み、青年が助手席に乗り込むと、青年は反射神経で助手席のドアのロックをかけました。「アッ」と思った時には、もう手遅れでした。
「ああ~!そこは!」と不動産屋さんが驚きの声を上げます。
青年がかけたのは、窓のすぐ横についている棒状のロックです。ところが、部品が破損していて長さが短くなっていました。なので、ロックをかけると元に戻せなくなってしまうのです。
「まあ、仕方がないか。降りる時に外側からキーで開けるので大丈夫ですよ」と、不動産屋さんは言ってくれました。
軽自動車が発進して5分も甲州街道を走ると、もう目的地に到着しました。目指す家は、新宿駅の隣の駅「初台」という街にあったのです。
大家さんは、ちょっと厳しそうな顔をしたおばあさんでした。ところが、話してみると、確かにやさしい人だというコトがわかりました。
話はトントン拍子に決まり、青年は見事にこのおばあさんの家の2階に住むことになったのです。
noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。