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ショートショート こねて焼いて

 今日はジンジャーマンを焼く。
 祖母に教わった、秘伝のレシピだ。

 ポイントがいくつかある。
 まず、バターと卵は室温に戻しておくこと。粉はちゃんとあわせて、ふるっておくこと。小麦粉にはきちんとこだわりたい。新鮮なシナモンと、とびきりいい生姜を使うこと。

 柔らかく練ったバターに砂糖を混ぜる。砂糖に何を使うかは流派が分かれる所だ。三温糖が、私は好き。混ざり切ったら、卵を何回かにわけていれる。生地が分離してしまうから、馴染むまで念入りに。

 いよいよ生姜を混ぜる。おろしたての生姜のいい匂い。このとき、おまじないを唱える。出来上がりに大きく左右するから、忘れずに。

 粉類を入れて練る。しっかりと。じゃなければジンジャーマンが崩れてしまうから。艶がでて、生地が重くなったら、もう一段階しっかり練る。体力勝負だ。赤ちゃんみたいな、つやつやもっちりとした生地になったらひとまとめにしてラップに包み、その間に生地と自分を休ませる。2時間くらい。この間に沐浴を済ませる。

 蝋燭を5本用意して、キッチンに立てる。トカゲの粉を一本一本に振りかける。この際、精霊への感謝を忘れてはいけない。

 オーブンを180度に予熱する。キッチンペーパーをオーブンの形に切る。だいたい2回焼くくらい生地を用意するから、2枚。

 冷蔵庫の生地を起こす。麺棒で5ミリの厚さに伸ばす。きっちり、5ミリ。ジンジャーマンの型をぬく。金属の型を一度底まで押し付けて、そのまま軽く揺らすと上手に抜ける。人差し指の爪でジンジャーマンのおでこの一つ一つに「אמת」と印を刻む。爪は綺麗に洗っておくこと。

 予熱したオーブンで15分ほど焼く。途中ジンジャーマンが暴れたら呪いの言葉を囁くと大人しくなる。囁きすぎると泣き出して生地が湿ってしまうので、ほどほどに。

 軽く竹串で生地をつきさして、生地がつかなくなったら焼き上がり。ゆっくり突き刺すとジンジャーマンが逃げるので、ここは思い切ってやる。「痛くない」と言い聞かせるといい。オーブンからジンジャーマンを取り出す。熱いうちは興奮して暴れる。なるべく低い声で「大人しくしろ」と言えば水をうったように静かになる。

 ある程度粗熱がとれたら、刻印隠しのアイシングを施す。たいていのジンジャーマンはアイシングがくすぐったくて体をもじょもじょさせる。かわいい。

 アイシングが冷えて固まったらできあがりだ。ジンジャーマンたちに「暴れるなよ」と囁いてからラッピングを施す。

 さあ、我が焼きし古のジンジャーマン達よ。いますぐあの人を私の虜にしておくれ!

ショートショートNo.31

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