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塀の中の広報室

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【not 法務省公式見解】 現場から見た少年院と法務教官の実情を,極めて個人的な視点から勝手に広報。 少年院と法務教官に関心のあるすべての人へ。
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記事一覧

Kindle本『塀の中の教室』のあとがき公開。

『塀の中の教室〜元法務教官が語る更生の現場』 あとがきを公開いたします。 ー・ー・ー・ー・ー・ー あとがき(おわりに)  法務教官は謙虚な人が多いです。試行錯誤を繰り返して、それでもなお上手くいかないことが多いからだろうと思います。  そもそも教育は絶対に一人では完結しません。健やかな人格は多様な人々との関わりの中で育まれます。仮に世界一の教育者がいたとしても、その人が一人で教育するくらいなら、複数の素人がゆるやかに関わりながら一緒に生活していくことの方が大切です。

非行少年の目の輝きを取り戻すには。

子どもの目は輝いてる 僕はそういうキラキラした表現をあんまり好まない人間だけれど,それでもこれは理解できる。 …いや 本当に理解しているのは 非行少年の目は輝いていない ということの方だ。 非行して逮捕されると,節目節目に写真を撮る。 少年鑑別所でも少年院でも撮る。 大半の出院直前少年の表情は,逮捕直後に比べ,本当に見違えるほど変わっている。 それはまさに「輝きを取り戻した」と言ってもいいくらいで,少年院の面会室でもたびたび話題になる。 家族は,わが子の表情

法務教官って誰でもなれるの?

法務教官という仕事は,あまりにもマイナーだ。 それは, 少年院や少年鑑別所が,一般市民にとって縁遠い存在であることの影響でもあり,それ自体は望ましいことでもあるけれど,何よりも…法務省の情報発信があまりにも少ないことの結果だ。 未成年による凶悪事件が起こるたびに議論の的になる少年法だが,「非行のある少年に対して,矯正教育を授ける」という理念はまちがいなく大事なものだし,日本が世界に誇る法制度だと僕は思っている。 ともあれ, 2018年4月にTwitterアカウントを

法務教官のむずかしさ,おもしろさ

1)教育の前提条件法務教官の仕事は,矯正教育。 非行少年の健全育成のために,様々な角度から教育を行うことが使命だ。 だけどこれには前提がある。 「少年院に収容された非行少年に対し」というのがそれだ。 要するに 僕の仕事である矯正教育は「少年院の中限定」で「少年院から逃さないことが前提」ということだ。 僕らは,逃さないよう監視しつつ,教育を行わなければならない。 そして それが前提である以上,どちらか一方しか選べない場合には,確実に保安を選ばなければならない。そ

最前線の法務教官が職業人としての苦労を素直に書いてみる。

僕は2018年からTwitterで発信をはじめました。 もうすぐ丸3年…ありがたいことに本稿執筆時点で3700ものフォローをいただき,元気に発信を続けることができています。 いつも本当にありがとうございます。 とってもとっても嬉しいです。 でも葛藤もあります。 それは… 法務教官の現実を,過剰に美化してしまっているのではないかということ。 つまり 法務教官を目指す人たちに過剰な期待を抱かせてしまっているのではないか…ということです。 法務教官は公安職。 非行少年

少年院送致は"保護"処分

ある日突然,これまでの生活環境から切り離され,外界との接触を制限された「陸の孤島」に移される… 軟禁? 監禁? 拉致? そういうことも,残念ながらこの世界のどこかでは行われている。 けれどそんな理不尽なことでなくても,世の中ではわりと当たり前に「陸の孤島」への移住が行われている。 病院への入院はその代表格だ。 大きな怪我や病気をした時,人は病院に移住する。 出産のときも同じだし,考えてみればこの国ではほとんどの人が,生まれた直後から「陸の孤島」で生活してる。

薬物依存…「治る」と「回復する」のちがい。

本稿は,法務教官時代の経験をもとに薬物依存と少年院で行われている回復プログラム等について記載したものです。 科学的なエビデンスや確実な理論に基づくものではなく,あくまでも現場経験の言語化としてお読みください。 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー 1)はじめに薬物を含むすべての依存症は,現在,世界中の様々なところで研究が行われています。 しかし… 依存は理論の中で起こるわけではありません。 理論が先にあるのではなく,依存が先にあって,理論は常に,その後を追いかけているのです

非行少年の性と薬物…

今夜、大事なセミナーがあります。 一人で企画し、運営しているもの。 当然、テーマも自分で決めた。毎月1回セミナーやって、その中で3〜4ヶ月に1回は少年院の話をしようと思って今回がその一回目。 から へと正式にテーマを決めたのも当然、僕。 明確な意図や狙いがあったわけではなく、これまであまり語ってこなかった部分で、ここを知りたい人はいるんじゃないかな…と思いついて決めた。 僕には「 」でくくれるようなわかりやすい売り物がない。だから講演や研修のご依頼をいただくと、い

「うちの子は大丈夫かなぁ?」への僕の答え。

法務教官という仕事は珍しい。 初対面の方には99.8%の確率で 「初めて会いました」と言われる。 そして 2回目にお会いしたときには 60%くらいの確率で「刑務官」と言われる。 で 特に,小学生くらいまでの子を持つ子育て世代の方から質問…というより会話の中のやり取りとして登場するのが 「うちの子は大丈夫かなぁ?」 「少年院に行くような子にならないかなぁ?」 という疑問だ。 疑問というより不安…いや「可能性の1つとして想定してみた」という程度のものだろうと思う。

【私見】高齢者の犯罪と少年の非行について

今日,こんなご質問をいただきました。 で これは当然,答のない問いですし…少なくともこの数年間,ここについて多くの人が議論しています。 とりあえず僕の暫定的な結論はこれ↓です。 せっかくなのでこれについて少し深堀りして書いていこうと思います。 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー まず… くれぐれもお伝えしておきたいことは「僕は正確なデータを見ずに書いていく」ということです。 このスタンスに対する是非もあろうかと思いますが…とりあえず現時点ではデータを見ずに書いていきま

元法務教官が冷静に少年法の是非について考えてみる。

無料で全文読めます。 有料なのは最後の一言だけです。 本稿はほかの記事同様あくまでも個人的な見解に基づくものです。法務省を含むあらゆる組織・団体とは無関係に個人の経験と考察に基づいて記しています。 2021年11月7日現在約2800字。 不定期に追記するかもしれません。 1)はじめに 年少者の全国的に報道されるような事件が起きるたびに議論になる少年法。昨今はそれらの事件とは別に、「成人年齢」という角度からも議論が繰り返された。 私は2021年3月まで少年院で勤務して

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非行少年に「我慢が足りない」と言う人へ

以前… こんな記事を書きました。 僕が非行少年たちに語りかけた内容を,記憶をもとに文字起こししたものですが… 100名以上読んでいただいて1いいねという… 僕の記事の中でも,もっとも不評な1本です。 まぁ, わかりやすい結論は出さずに終えているので,当然っちゃ当然ですし,そもそもいいねの数に固執しているわけでもないのですが… これは, 僕の経験上,法務教官の矯正教育の最重要項目だと思っている部分なので,少しだけ掘り下げて,その意図を書いておこうと思います。 ぶ

炎上させる人に欠けているもの。

燃えているのはたった一人だが… 燃やしているのは圧倒的に大勢の他人だ。 ネットの世界で起きる炎上は… 基本的には放火。 そこに火種があったとしてもせいぜい線香花火程度のものなのに…一瞬で延焼させて地獄の業火に変えるのはいつも,正義感に溢れたただの他人。 なぜ利害関係のない他人の言動にそこまで腹を立てるのか,様々な人が議論しているが,僕は昨日,ふと…1つの答を見つけることができた。 人を炎上させる放火魔たちに欠けているもの… それは… 「信頼感」だ。 ー・ー・ー

NPO・企業が少年院の中で活動するために抑えるべきポイント

1)結論〜実現しやすい提案これから少年院の中で活動を行いたいと考えているNPO・企業に向けて。少年院側が受け入れやすい提案はこんな感じ。 ほんとふざけんなって話だと思います。でも、まずはここからです、きっと。その理由はここから先を読めばなんとなくご理解いただけるだろうと思います。 ・・・・・・・ 2)そもそも少年院ってこんなとこ少年院は保護処分として矯正教育を行う施設。子どもたちは罰ではなく教育を受けるために収容される。 この国には「少年刑務所」も存在していて、罰とし