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米国株市場の上昇をストップさせたゲームストップ、ヘッジファンドとミレニアル世代の戦いの行方は


2021年1月30日

マネックス証券 チーフ外国株コンサルタント

岡元兵八郎

史上最高値を更新し続けた米国の株式市場の調整は誰も予想もしなかったゲームストップ(GME)を巡る、個人投資家と空売りを行ったヘッジファンドとの闘いがきっかけとなり始まりました。
昨年末に$18.84だったゲームストップの株価は、1月末には$325で引け、1ヵ月で約17倍も暴騰したことになります。

改めてですが、ゲームストップとは、米国のビデオゲームの小売りチェーンで、今更あまり儲かりそうもないビジネスを行っている会社です。売上こそ直近で65億ドル(約6760億円)もあるものの、営業利益は約4億ドル(約416億円)の赤字となっています。そんな会社が今何故注目を浴びているのか。

米国では機関投資家やヘッジファンドに下落しとうな銘柄の空売り情報を提供している調査会社がいれば、実際に空売りを専門にしているようなファンドも多いのです。オンライン掲示板のレディットにある会員数640万人を超えるウォール・ストリート・ベッツ(WSB)という投資情報を公開していたSNSフォーラムでは、ゲームストップのように空売り比率が浮動株の100%に近い銘柄は買い上げると面白いぞという情報が投稿され、その情報に基づいて多くの個人投資家が一斉にゲームストップ株や、ゲームストップ株のコールオプションを買う状況になったのです。空売りをしたプロのヘッジファンドとミレニアル世代を代表する個人投資家との闘いが始まったのです。ミレニアル世代に人気の例のロビンフッドもこのミレニアル世代とヘッジファンドの戦いの利便性を提供したことになります。

この動きは、より多くの個人投資の参戦を招き、空売りしていた機関投資家がショートスクイーズ(踏み上げ)で我慢できなくなる事態を生みました。反対売買に転じたファンドもあれば、一部は、空売りを追加するファンドもでてきました。彼らの大きな間違いは、個人投資家のパワーを甘く見ていたことでしょう。株価は上がり続けたため、空売りを増すという作戦は見事に失敗となります。このような状況はメディアで報道され、我も我もと新たな個人投資家が参戦することになり、株価は暴騰を続けたのです。その暴騰は、新たな買いを誘い、先週火曜日1日のゲームストップ株の売買代金は約2兆円となり、世界最大の時価総額を誇るアップルの売買代金を超えてしまう事態となりました。

株式市場の一部でファンダメンタルズを完全に無視した、ギャンブルの会場と化してしまったのです。私の知り合いのニューヨーク州に住むアメリカ人の友人の大学生の息子さんも「ゲームストップの戦い」に参戦し学生にとってはかなりの利益を上げたようです。

これまでのところ、空売りファンドと個人投資家のギャンブルの戦いは、個人投資家に軍配があがりましたが、このような状況が先週の株式市場の調整に一役買ったと考えています。流動性もあり、ディープポケットの米国株市場ですから、ある意味何が起きても驚かないのですが、今回問題となったのは、空売りを仕掛けていたヘッジファンドが追証を迫られるという事態となったことです。ヘッジファンドの取引の執行・決済、資金管理等サービスを行っているプライムブローカーは、レバレッジをかけたファンドが取引のポジションを保有し続ける為に必要な最低金額の引き上げをおこないました。マージン・コールと呼ばれるものです。今回のゲームストップ株の空売りで失敗したヘッジファンドは約200億ドル(約2兆円)もの損失をだしたと言われています。それにより市場には経営が破綻するヘッジファンドもが出たのではという噂も流れました。そのような事態がマーケットが嫌う不確実性を生み出し、市場には売りが出て、投資家のセンチメントは、今までのリスクオンの展開から、リスクオフへと変わっていったのです。


私は昨年末のオンラインセミナーや1月16日のお客様感謝デーでも1月後半から2月にかけて株価の調整はあるだろうとお話してきました。ただ、ゲームストップのショートスクイーズがきっかけとなり米国株市場全体の調整が始まるとは思いもよりませんでした。

S&P500は昨年10月から調整なしで上昇してきましたので、これからも引き続き史上最高値を更新する為には、株価の調整が起きることは健全であり必要でもあります。その調整は下がっても史上最高値から5から10%程度の調整だと考えています。1月26日に付けた史上最高値の3870ポイントから、先週金曜日には3714ポイントと既に4%の調整が起きています。来週良いニュースがでないとしても、ダウンサイドはあってもあと1~5%程、3670~3500ポイントのレンジへの下げだと考えられます。大きく下落しないだろうと考えるのはFRBによる十分すぎる流動性の供給、潤沢な個人や機関投資家の待機資金の存在が理由です。バイデンさんの経済対策の話も再浮上してくるはずですから。これまでのところの2020年第4四半期の決算発表も、総じていうと業績の回復が行われていることが確認できる内容です。


このゲームストップ株の今の株価はバブル以外の何物でもありません。バブルがはじけるのは時間の問題です。誰が最後にババをつかむか、それが分かるのも時間の問題です。


また、ゲームストップ株の取引で利益を上げた個人投資家の資金が、次にどこへ向かうか、これも大変興味のあるところです。私はミレニアル世代が好きなGAFA系や、EV車系の銘柄、またビットコインのような仮想通貨へ資金が流れていくのではないかと考えています。

(終)


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