私の外国語学習歴(2) フランス語でマルクスを読む

上のnoteからの続きです。

社会思想史のゼミに入る

 そんな感じで、大学二年でドイツ語とフランス語を独学でサラッと学んできました。これらの言語を学ぼうと思ったのは、そもそも当時の私がすでに生涯、思想や哲学の研究を本格的に行うことを望んでおり、思想や哲学の研究を本格的に行うためには、哲学者や思想家の書いたテクストを原語で読めるようにしておかなければならないと考えたからです。もちろん語学の必要性は漠然と感じていたに過ぎないものですが、独学で学んだ語学を使う機会は、早くも大学三年の時に訪れました。

 当時の私は神奈川大学経済学部に在籍していました。私の大学生活の実質をなしていたのは、大学二年の秋から所属する的場昭弘教授(社会思想史)のゼミでした。

 私が大学に入学した2008年頃から、的場先生はマルクスの入門向けの著作を多く出している頃でした。それはちょうどサブプライム・ローンの不良債権化に端を発するリーマン・ショックによって世界経済は危機=恐慌に陥っていた頃で、このような経済不安を背景として的場昭弘『超訳『資本論』』(全三巻、祥伝社新書、2008年)のシリーズも8万部を超える勢いだったと聞いています*1。

 私もリーマン・ショックという経済現象を目の当たりにして、恐慌のダイナミズムを理解したいと思いました。そのためにはマルクスについて学ぶ必要があると考え、大学二年(2009年)の秋から正式に的場先生のゼミに入りました。的場ゼミでの思い出は数多くありますが、詳しくはまた別の機会に書くことにします。

学部生だが大学院ゼミでフランス語でマルクスを読む

 私が確か大学三年の頃、的場先生の担当する大学院のゼミにはひとりだけ院生が在籍していました。当時の大学院ゼミでは、マルクス『ヘーゲル法哲学批判序説』をフランス語で読んでいました(Marx, Contribution à la critique de La philosophie du droit de Hegel. ただし誰の手による仏訳だったのかは今や不明)。その講読が大変面白そうだったため、院生の方から的場先生に頼んでもらい、学部生ながら私も講読に参加させていただくことになりました。

 これが、私が初めて外国語でじっくりとテクストと格闘する機会となりました。とにかく定番のフランス語辞書『プチ・ロワイヤル仏和辞典』(旺文社、2010年)を引いて意味の適切な理解に努めました。

 このゼミで出会ったマルクス『ヘーゲル法哲学批判序説』というテクストは、私にとっていくら読んでも興味の尽きぬものでした。

 その後、ゼミで扱われるテクストはブルーノ・バウアー『現代のユダヤ人とキリスト教徒の自由になりうる能力』やマルクス『貧困の哲学』(マルクスの書き込みありの本)などへ移行していきました。が、私は個人的にずっと『ヘーゲル法哲学批判序説』の解釈に関心を持ち続け、最終的に大学を卒業するまで読み続けることになりました。もちろんこのテクストはそれほど長いものではないのですが、大学を卒業するまで読み続けることになる理由については後述します。

 ちなみに当時の先生の読解は、的場昭弘『新訳 初期マルクス』(作品社、2013年) として出版されています。

ラテン語

 語学に話を戻すと、『ヘーゲル法哲学批判序説』の冒頭に pro aris et focis というラテン語が登場するのですが、この慣用句を理解するために岩崎務『CDエクスプレス ラテン語』(白水社、2004年)を買ってラテン語を独習しました。

 白水社の語学のシリーズは、今では「ニューエクスプレス+」シリーズへと改訂版が出版されており、先のラテン語の本も今では岩崎務『ニューエクスプレス+ ラテン語』(白水社、2018年)として販売されています。

 余談ですが、最近この「ニューエクスプレス+」シリーズの『イタリア語』『現代ヘブライ語』を購入してみたのですが、今の私はCDプレーヤーを持っていないので、音源が聴けないのは困ったなと思っていたところ、この「ニューエクスプレス+」シリーズは音声アプリに対応しており、なんとaudiobookというサービスを通じてスマホのアプリ経由で音源を再生できるようになっていたのです。スマホがあればCDプレーヤーがなくとも出先で手軽に音源が聴けるようになったというのは、語学教材として画期的だと思いました。

 さて、先ほど述べたとおり、大学卒業まで『ヘーゲル法哲学批判序説』というテクストの解釈にこだわり続けた私ですが、最初にそれをフランス語で読んだ時、当時の私はまだ無知ゆえに気がついていなかったのです。そのテクストが本当はドイツ語で書かれて出版されていたものだということを。

 結局、私はフランス語でみっちりマルクス『ヘーゲル法哲学批判序説』に取り組んだ後に、同じテクストを今度はドイツ語で必死に再読することになったのです。

 私は神奈川大学図書館地階に入っていたMarx-Engels Werke(Dietz Verlag Berlin)のBd.1を借りてきて、Marx, Zur Kritik der Hegelschen Rechtsphilosophie. Einleitungのコピーをとり、あとはひたすらドイツ語の辞書『クラウン独和辞典 第4版』(三省堂、2008年)を常に携行して原書に臨みました。

*1: 「『超訳『資本論』』は三巻あわせて8万部を越えるベストセラーに」(神奈川大学HP「神大の先生:経済学部:的場昭弘教授」)。

文献

Marx, Karl 1844, Zur Kritik der Hegelschen Rechtsphilosophie. Einleitung, in: »Deutsch-Französische Jahrbücher«. Hrsg. v. Arnold Ruge und Karl Marx, Paris.
Marx, Karl 1998, "Contribution à la critique de La philosophie du droit de Hegel. Introduction", Traduction de Jules Molitor, Éditions Allia.
マルクス、カール 1974『ユダヤ人問題によせて/ヘーゲル法哲学批判序説』城塚登訳、岩波書店(岩波文庫).
的場昭弘 2008『超訳『資本論』』祥伝社(祥伝社新書).
的場昭弘 2013『新訳 初期マルクス:ユダヤ人問題に寄せて/ヘーゲル法哲学批判-序説』作品社.
倉方秀憲ほか編 2010『プチ・ロワイヤル仏和辞典 第4版』旺文社.
濱川祥枝監修 2008『クラウン独和辞典 第4版』三省堂(絶版).
濱川祥枝ほか監修 2013『クラウン独和辞典 第5版』三省堂.
岩崎務 2004『CDエクスプレス ラテン語』白水社(絶版).
岩崎務 2018『ニューエクスプレス+ ラテン語』白水社.
入江たまよ 2019『ニューエクスプレス + イタリア語』白水社.
山田恵子 2019『ニューエクスプレス + 現代ヘブライ語』白水社.

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