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安息日のバニー・ガイ

日曜午前の遊園地。
分かりやすくマスクと手袋をした着ぐるみの兎と鰐が、風船を配っている。
「ベータからガンマ、遊園地のバイトはどう?」
「こちらガンマ、大盛況さ」
「『チェスト』の様子は?」
「真面目にやってるね」
「ならよかったわ。それじゃ頑張って、バニー・ガイさん」
バニー・ガイ。悔しいが適切な喩えだ。
兎の着ぐるみを着たバツイチの誘拐現行犯、それが俺。
そして隣にいる『チェスト』は、密入国したスパイを自称する着ぐるみの鰐だ。「カイマン」と名乗ったので鰐になってもらった。
じきここに『チェストの中身』、つまり200万ドルが届く。カイマンのその後は尋問なり毒物の試飲なり、いろいろとあるのだろう。
「こちらベータ、あと5分でバイトは終わりよ。先方、ふさわしい格好で来るらしいわ」
「向こうも着ぐるみとかねぇよな」
「ちゃんと目印のアタッシュは持ってくるようだから、安心して?じゃ、オーバー」

「ピエロもありうるな」
左から嗄れ声。カイマンだ。
「全部聞いてたのかよ」
「ケインズ社のトーキーだろう。ノイズパターンで8割を追える」
とんでもねぇ爺さんだ。
「ただ、バニーガールで来てくれれば堪らんな」
とんでもねぇ爺さんだ。
と、こちらに向かって親子連れが1組歩いてくる。幼稚園児とその両親、母親の両手には……赤いアタッシュ。
「おっと、あれかね」
「お客様が来たわ」
カイマンとベータの声が同時に指摘した。
遊園地に親子連れ。手荷物以外は完璧だ。

「あんたらで合ってるな」
「ええ、そこの鰐の代金ならここに」
母親が開けた鞄には札束が5×5の4段組で、2箱。
「全て新品よ。確認する?」
「まぁ、念の為」
着ぐるみの手では無理がある。ひとまず手首だけでも外そうと、

ガチャリ。

うさぎさん、しんで?
幼児の手に似合わぬ消音器付き拳銃が、胸に当てられている。多分。
なんせ着ぐるみだ。屈まないと下が見えない。

しんで?
【続く】

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