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「自粛疲れ」はなぜ起きる? 緊急事態宣言下で400人参加の飲み会を毎晩開催してわかった、コロナと世界のこれから

 正直もう限界だ――緊急事態宣言が1ヶ月伸びると聞いたとき、叫びそうになった。経済が停滞して社会はなんとなくどんより。仲の良かった友人と夜中まで飲むことなんてもってのほか。「家で楽しもう」とか、ポジティブなStay homeのメッセージに、私はうんざりし始めている。たぶん、そう感じている人は私だけではない。

 そんな時に、中学時代からの恩師から連絡が入った。

「実は俺、今、医学博士の先生と毎晩電話してるのを生放送してるんだよ。400人くらいYoutubeで集まって、いろいろ話して見えてきたことがあるから話させてくれない?」

 私に連絡をくれた伊藤雄吉さん(以下伊藤さん)は、「おっさんチャンネル」というYoutubeのチャンネルを運営している。経営者として塾の運営を行ってきたほか、今はコンサルティングなどを行いつつ、本人曰く本業は「Youtuber」。

▼実際に届いたメッセージ

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 送られてきたアジェンダを見た時、「よくわからないな……」と思いつつ、不意に自分の息苦しさのヒントになるのではないかと思いZoomで話を聞いてきた。伊藤さんのお話を聞いて、「私が感じていた気持ち悪さ」「経営や、これから生きていく上でどうしたらいいのか」の答えがようやく見えてきた。

・・・


みんな、「新しいつながり」も「新しい行動様式」も求めていない。

――Zoom飲みしてみたり、あたらしい趣味探してみたり、みんな結構「withコロナ時代をなんとか楽しむための新しい動き」を探してるのかな、って思ったんですが、逆なんでしょうか

伊藤さん「そうだね。最初に”みんな新しいつながりを求めてないんじゃないか?”って仮説が立ったのは、Youtubeのチャンネル登録者数の推移を見てた時。Youtubeのチャンネル登録者って基本はちょっとずつ減っていくものなんだよ。それで、何か動画が一本バズると急激に登録者数が増える。それがYoutubeの基本的なビジネスモデル。

”おっさんチャンネル”でも、コロナ以降何本かバズった動画はあったんだけど、不思議なことにほとんどチャンネル登録者数は伸びなかった。ただね、逆に減りもしない。これってYoutubeの基本的な動きとはかけ離れてるんだよ」

▼1万再生を超えている動画。普段であればこういう動画があると登録者数がどーんと増えるが、今回は増えなかったという。

(※実際に”おっさんチャンネル”の登録者数推移のグラフも見せていただいた。上の動画は4月24日にアップされたものだが、4月の登録者数は前月比わずか+0.2%、動画を見た人に対してチャンネル登録をしている人が明らかに少ないようだ)

――なるほど、それはつまり、「新しいコンテンツを求めてないし、今まで通りのコンテンツで安定してる」ってことなんでしょうか

伊藤さん「それもあるし、多分Youtubeとの関わり方が変わったんだと思う。社会不安がなかったときは、Youtubeは新しい刺激を求めて見る暇つぶしだった。でも今は、情報を求めてみんな真剣に見ている。Stay homeで閉鎖的な環境にいる中で、Youtubeの動画は社会を覗くための窓になったんだよね。

ただ面白いのは、登録者数が増えなくても動画の総再生時間は増えた。俺が持っているチャンネルの月の再生時間合計は1万時間を超えていて、登録者数は増えていないのに、視聴時間そのものはコロナ前まと同水準まで改善しているんだよね。間違いなく、見てくれている人たちの層が濃くなっていってる」

――そうなんだ! 面白いですね。

伊藤さん「とはいえ、間違いなくユーザーの行動は保守的になっている。だから、新規開拓は今は極めて難しい、っていうのが俺の見方かな。だからこそ、既存のユーザーに対してどんな価値提供ができるかを考えた運営が必要なんだ。Youtubeのコンテンツも、そういう方針に切り替えてから再生時間が回復したよ」

――私は動画コンテンツは全く詳しくないんですが、それって、Youtubeだけの話じゃない気がします。社会全体的に、みんな保守的になっているのと、でも何か新しいものを求めるせめぎ合いというか……

伊藤さん「そうだね。コロナの専門家会議が、”withコロナの新しい生活様式”を発表しているでしょ。2メートルあけて人と話しましょう、とか。それってすごく重要で妥当な内容なんだよ。でも、不思議とみんな拒否感がある。なんか、受け入れ難い感じ」

▼厚生労働省発表の「新しい生活様式」

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(※すごく正しいはずなのに、私はこれを初めて見た時なんだか辟易とした。もちろん守るべきなのはわかるのだが……)

――わかります。なんでなのかはわかんないんですけど、なんか……「けっ」て思っちゃうタイミングが。

伊藤さん「そう。正しいはずなのに受け入れられないんだよね。それって、保守的でいたいにも関わらず、突然現れた”新しい行動様式”に、”いままでの自分たち”を否定されているような気持ちになるからなんだ。Youtubeで毎晩、400人からのリアルタイムな声とかを拾ってきたけど、それを感じてる人は少なくないよ。その拒否感は、たぶん”今までの自分たちの価値観を大切にしたい”っていう潜在的なみんなの気持ちが現れているんだと思う」

ここまでのまとめ 
・新しい行動様式への拒否感は、「今までの価値観を大切にしたい」という思いから生まれている
・ Youtube、ビジネス、いろいろなところにその思いは反映されていて、これから新しい価値や行動を開拓していくことは難しい 


緊急事態宣言下、次の一ヶ月は「今までのつながりをしっかりと再構築する」ことに活路がある

伊藤さん「この仮説が正しいのであれば、これから”新しい方に切り替えよう”とか、”新しいことをどんどん進めよう”っていうのは、難しい。できたとしても、それは強い反感が伴うことになる

――みんな、コロナの状況で環境が変わりすぎて、ショックを受けて、新しいものを受け入れられなくなっているんですね。

伊藤さん「そういうことだね。それでも”変わらなきゃ”っていうプレッシャーから、多くの企業が投資活動をしたり、新規事業を立ち上げたりしている……けど、さっきもいったみたいにこの中では新しい顧客を切り開くのは難しい」

――じゃあ逆に、今企業とか、人とか、みんなどうしていったらいいんでしょうか。

伊藤さん「いままで構築してきた価値を大切にすること。これに限る。みんな、長く辛い自粛生活の中で、新しい行動様式や新しい価値観は求めていない。そういうのを受け入れられるほど、心もお金も余裕がないんだよ。だからこそ、今まで構築してきた価値をキープすることに神経がいっている。

人で考えるとわかりやすいよね。Zoom飲みだって、今までの関係性を大切にするためにみんなやっているわけだよ。みんな今までの価値をちゃんとキープしたいと願っている。それは企業でも一緒だと思うよ」

――そうはいっても、今は、新しい価値と今までの価値、どちらを守るのかのせめぎ合いになっているじゃないですか。コロナがあって、今まで通りの暮らしはできないわけですから。

伊藤さん「そもそも、せめぎ合いっていう風に考えなくてもいいんじゃないかな。大切なのは、今までの価値観を決してないがしろにしないこと。企業とかが活路を開くためには、新しい価値を作るんじゃなくて、今まで提供できてきた価値をより強い繋がりにしていくためのコンテンツを出すことが大事になる。

いままで作ってきた繋がりや積み重ねを確認して、思い出して、そこから提供できるものを考える。それを、新しい行動様式に当てはめていくことが、必要なことなんだと思う。

コロナだ! 今までの生活には戻れない! 切り替えていこう! では、みんなの心がついていかない。新しい行動様式において、”新しい人間関係やサービス”を作るのに注力するんじゃなくて、今までに構築した関係を欠損させないメンテナンスをしていくことにビジネスチャンスがある。」

ここまでのまとめ

・緊急事態宣言下、新規開拓が難しい中で目を向けるべきは「今までの関係を性構築していくこと」
・新しいものが受け入れられ難い雰囲気。斬り開くためには、今までの価値観を欠損させず、深めていくための視点が必要。
・事業を展開するのであれば、新しい価値を作ることよりも、今まで提供できてきた価値を見つめ直して、それを新しい時代の行動様式に当てはめていく


家の中の人たちの行動が制限されていないか、今一度確認を

伊藤さん「そうそう、Youtubeでコメントを拾っていて、すごく多かったのがね、”家の人がずっとZoom飲みしてるのがストレス”っていう意見だったんだ」

――……ああ、ごめんなさい……(心当たりがある顔)

伊藤さん「それって簡単に言えば、音とか環境とか、機材の問題なんだよね。パソコン独占されてるとか、音に気を使わなきゃいけないとか」

――そうですよね。自分がZoom飲みしてるとき、家にいる家族やパートナーはちょっとやりづらいだろうなあ、とは思ってます。

伊藤さん「そこは、同じ環境にいる人たちが均等に楽しめるようにならないといけないよね。さっきも言ったみたいに、新しい価値やつながりを求めていない代わりに、みんな今までの価値やつながりを大切にしたい。それは家族全員変わらないわけだから。

家族全員が、今までの価値やつながりをキープできるようにしていって欲しい。それが、機材とかの問題でできないのであれば、心の平静のためにもよくない状態。全員が均等に、家の中で、今まで大切にしたきた価値を大切にできる環境を整えないといけない

――確かに。自分は社会のつながりをキープしていても、家族がキープできていなかったらよくないですよね。そもそも家族だって、コロナの前からある大切な価値とつながりのはずなのに。

伊藤さん「過去に積み重ねてきた、「社会関係資本」が、withコロナ時代を生きる主な糧になるはず。みんな、今まで積み上げてきたものが崩れそうだって恐怖心を感じている。それを抱えたまま生きていくのはかなりしんどい」

――でもパートナーとかに直接それを伝えるのって難しくないですか? 喧嘩になりそう。

伊藤さん「いいソリューション教えるね。俺のYoutube一緒に見て(笑)」

――はい!

伊藤さん「第三者から、”社会関係資本をみんな均等にキープできる必要があるよ”って聞けば納得するんだよね。なるほどな、って。直接言いにくいことは、第三者の言葉を借りる。この記事を読んでくれた人がそれを自覚して、周りの人も気づいて、みんながこの価値観を共有できるといいよね」

ここまでのまとめ 
・  みんな、これまで作ってきた関係性(=社会関係資本)を失うのが怖い。
・ 「今までの価値観を大切にする」ための機会を、家庭内でも平等にしていかないといけない。
・それに伴って、家庭内の機材や環境による不平等が生じていないか、必ず見直す。 


地域単位で環境資本を再構築しよう。過去のつながりをベースに、新しいつながりの場をケースワーク化していく。

伊藤さん「ここからはちょっと複雑な話になっていくけど、ここまでの話を踏まえると、いわゆるwithコロナの新しい行動様式とどう付き合っていくべきなのか見えてくるはずなんだ」

――なるほど、なんかみんな「新しい生活様式」とか「新しい人間関係や技術」に目が向いている感じがしてたんですよね。それが、私がなんか息苦しいな、と思っていた原因だと思います。

伊藤さん「そうなんだよ。今まで積み上げてきた価値観がないがしろにされている、って多くの人が感じていて、息苦しい。でも、コロナ禍で、今まで通りと完全に同じでやっていくのはできないでしょう。だから、みんなが本質的に大切にしたい社会関係資本を元に、新しい環境資本を作っていくべきなんだ

――……?

伊藤さん「いままでの価値、一緒に遊んできた人、やってきたことを今一度振り返って、”この時代でもこういう風にできそうだな”と考えるところから新しい行動様式を考える」

――ようやくわかってきました。さっきのビジネスの話も同じですね。いままで提供してきた価値を振り返って、それを新しい時代に即したやり方で提供していくこと。

伊藤さん「そうそう。だんだんみんな自粛に疲れてきて、『もう自粛なんて意味ないじゃん!BBQしちゃおうぜ』っていう人たちと、ひたすら自粛する人たちの二項対立になってきてる。でも、ここで対立させるのは殆ど意味がない。大切なものを欠損させず、今の時代にその大切なものを保つためのやり方を考えていくべきなんだ」

――たとえば、私はコロナ前めちゃくちゃキャンプに行ってました。正直、大好きなキャンプをコロナが落ち着くまで、もしかしたら落ち着いてからもできないのか……って思うと気が滅入るし、「もう知らねー!焚き火してやる!」ってなるんです(やらないけど……)。でも、「私はなぜキャンプに行きたいのか?」「キャンプで何を得たいのか?」みたいなところから考えて、新しい行動様式に沿った代替案を準備することはできそうですし、ちょっと楽しいです。

伊藤さん「そうだね。それを、地域単位でやっていくべきだと思う。個人がやるだけではなくて、地域やコミュニティ全体でどうすることができるどうすることができるのかを考えて、”今までのつながり”と”新しい行動様式”の融合を目指していくことが極めて重要だね」

――ビジネスでもそうですね。事業をやる上でも、そこが鍵になりそうです。みんな、新しいものには拒否反応がある。今までのものを大切にしたい。でも、withコロナ、afterコロナの時代で生きなくちゃいけない。だからこそ、人も事業も、今までとこれからを対立させずに融合させていく道を探らないといけないんですね。

伊藤さん「だから、いまコンサルしている時にやってもらうのは、”コロナ以前にどんな価値を届けていたのか”のブレインストーミングが多い。提供できる従来からの価値を洗い出して、新しい顧客を開拓するのではなく今までの顧客に聞いて、新しい時代の価値観に寄り添っていく。より濃厚なサービスを提供できる会社、地域、コミュニティが成功していくんじゃないかな」

ここまでのまとめ 
・みんなが大切にしたい社会関係資本をベースに、新しい環境でのつながりを再構築していく。
・ビジネスでもそれは同じ。新規開拓よりも、今いる顧客に寄り添い濃厚なサービスを提要することに主軸を置いていく。 


・・・

 私の自粛疲れは、「新しいものに目を向けなきゃ」というプレッシャー、「withコロナの新しいやり方」に対する言語化できない気持ち悪さ、「過去には戻れないんだ……」という悲観、そして「今ある社会関係資本を失うかもしれない」という恐怖心から出来上がっていた。

 伊藤さんとのお話で、わかったことをまとめる。

・私たちには平等に、過去のつながりを大切にするチャンスが必要。
・過去のつながりは、withコロナ時代を生きるためのとても大切な糧になる。
・今は、みんな新しいものに目を向けている。でも、それには拒否感が伴う。
・だからこそ、過去のつながりを見つめ直し、そこから新しい価値を生んで行こう。

 個人でも事業でも同じことだ。いままでのつながりを否定して、新しいものに目を向け続けるのでは、いつまでたっても新しいものへの拒否感と不安感が拭えない。

 コロナショックは完全には無くならない。世界の人々は、これからこの病気と共存していく道を探さなくてはいけないし、本当の意味でBeforeコロナの世界に戻るのは多分不可能だろう。

 でも、大切にしたい価値観を大切にすることと、コロナ時代を生きることは両立できる。私たちは、私たちの今あるつながりを大切にしていい。

 緊急事態宣言はあと一ヶ月。まずは今大切にしているものがなんなのか、見直す一ヶ月にしていこう。その先に、たぶん私たちができることが見えてくる。

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