夢の消費期限
あなたは昼ご飯に何を食べているだろうか。
家から持参した弁当、社員食堂の定食、
近くの店の定食、チェーン店の牛丼。
色んな答えがあるだろうが、
私の昼食は極めて粗食である。
ここ最近はおにぎり一個だけを食べるケースが多く、
周りからは「そんなので足りるの?」と
言われることもあるが、
私自身これで十分なのだ。
逆に私からすれば会社で手配してくれる
仕出し弁当の方がよほど食べすぎだと
思っている。
別におにぎり一個でもそんなにお腹は減らないし、
どうしてもお腹が空いたならば
オフィスの買い置き菓子(オフィスグリコ)から購入して
食べればいい。
特にここ数か月は仕事を一刻も早く終わらせたくて
昼休みも仕事をしているので、
ラップに包んだおにぎりは仕事をしながら
栄養補給するには最適なのだ。
そんな私は昨日もいつものようにカバンからおにぎりを
取り出して頬張ろうとした。
だが、そこである違和感に気が付いた。
何となく食べてはいけないような
香りがしたのである。
いつもはおにぎりは朝に作っているのだが、
このおにぎりは前日の晩に炊飯器に
中途半端に残ったご飯と夕食で残ったシャケで
先に作っていたものであった。
もちろん作った後は冷蔵庫に保管して
翌朝に取り出して持参したのだが、
もしかするとラップで結露した水分が
持ち運びする際に悪くなる要因に
なったのかもしれない。
いずれにしてもこのおにぎりは
食べない方がいいと私は判断した。
ここで何も食べないという選択肢を
取ろうかと思った私であるが、
何となく何かをお腹に入れておきたい気がする。
そこでオフィスグリコのお菓子を
購入して食べることにした。
現場の方が休憩時間に購入する姿を
しばしば見るので、
私の会社のオフィスグリコは結構すぐに
商品が無くなってしまう。
今日は残っているだろうかと思いながら
棚を見てみると
プリングルスのポテチ(ショート版)が残っていた。
市場で買うよりも強気な価格設定が
現場の方には受け入れられなかったのであろう。
私も高い値段を出してまで
食べたかったわけではないが、
それ以外のお菓子は甘いものばかりだったので
消去法的にプリングルスを選ぶことにした。
久々に食べるプリングルスのポテチ。
流石に手が汚れるものを食べながら
仕事をするわけにもいかないので
休憩スペースに移動してポテチを食べ始めた。
久々に食べて驚いたのはその味の濃さである。
マレーシアに赴任していた頃は
ビールを飲みながらプリングルスのポテチを
よく食べていたが、
その頃は別に味が濃いとは思っていなかった。
だが、久々に食べるとその味の濃さに
驚いてしまった。
酒を飲まなくなって1年と少しになるが、
考えてみれば酒を飲まなくなってから
味付けの濃いものを食べる機会は
明らかに減った気がする。
酒を飲まなくなったことで
私の口は少し薄味になっていったのであろう。
そんなことを思いながら食べ進めていくと
ほどなくしてポテチは無くなった。
ポテチの量自体は多くなかったが
その濃い味付けのせいか
何だか満足感はある。
手を洗い歯磨きをして私は仕事に戻った。
そうして仕事に戻ってから2時間ほど
経ったころ。
私は何だか胸のあたりに違和感を
持ち始めた。
何だかムカムカするような
胃もたれ特有の症状である。
別に我慢をして仕事もできるレベルだったので
意識をそちらに向けないようにして
仕事をしていたのだが、
この症状は家に帰るころになってようやく
落ち着いたのだ。
この原因を考えてみると、
どう考えてもポテチである。
言われてみれば空腹の状態で昼食の代わりに
ポテチを食べるという経験は
これまでほとんど試したことがなかった。
時々ポテチを食べる機会があっても
それは極端な空腹時ではないし、
食べても少量である。
それ故にこのような食べ方でポテチを口にすると
胃もたれするということに私はこれまで
気が付くことがなかったのだ。
子供の頃、お菓子をご飯の代わりに
食べられたらと憧れた経験は
誰しも一度はあるだろう。
だが、40歳になりいざそれを実行してみたら
私は胃もたれを起こしてしまった。
もしかすると若い頃ならば胃もたれせずに
いられたのかもしれない。
一見とても滑稽に思える
お菓子をご飯代わりにするという夢は
実行してその良さを実感するための
賞味期限があったということである。
先日も紹介したDIE WITH ZEROという本には
やりたいことにはそれを楽しむための
期限があることが書かれていたが、
まさにこのポテチの話もそうなのではないか。
では私はなぜ若い頃にお菓子を昼食代わりにするという
チャレンジをしてこなかったのだろうか。
それは、「お昼ご飯はちゃんと食べるもの」という
子供のころから刷り込まれてきた固定観念と
人にお菓子を食べているところをみられたら
恥ずかしいという感情ゆえである。
坂道で自転車の手放し運転をしたいと思いながら
自らの手でブレーキを握り続け、
いざ手放し運転をしようとしたときには
坂道が終わっており、失速して自転車がこける。
まさにこんな状態に私はなっていたことになる。
今回私が遭遇したのはお菓子の話であったが
実は他にも子供の頃に憧れていた
密かな夢が私の中にはあったのではないだろうか。
今更手遅れかもしれないが、
手遅れだということも含めてその野望を
叶えてみるには今がチャンスなのかもしれない。
一度子供の頃の夢をリストアップして
それをこの週末にでも実行してみようと思う。
仮にやってみて後悔したとしても
やってみたかったと思いながら最後の瞬間を迎えるよりは
ずっといいだろう。
妻に怒られそうなチャレンジもあるが、
それはこっそりやってみることにしよう。