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リモートマネジメントの要諦


#DIAMONDハーバードビジネスレビュー

リモートワークの本格普及には時間がかかる

9月3日に公開したnote "リモート会議を成功させるためのプロトコルについて"でお話した通り、コロナ禍でのリモートワークは無理強いされた部分が多く、コロナ禍が今後終焉すると仮定すると、新日常というだけでコロナ禍以前以上にリモートワークが普及するかどうかは微妙だと思っています。

個人的にはコロナ禍が各種パラダイムシフトの契機となることを心から願っていますが、その普及を楽観的に見ていると後でガッカリすることになるでしょう。

なぜならコロナ禍があろうが無かろうがリモートワークにはメリットもあればデメリットもあるからです。特に難しい課題はイノベーションの低下です。

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コロナ禍前に、イノベーションの低下/意思決定の遅れから100%在宅だった米国IT企業でリモートワークを撤廃する事例もありました。今後ITツールやプロトコル・働き方の見直しでその課題を完全に払拭するにはまだまだ時間が必要でしょう。

そうは言ってもコロナ禍とその経済的影響が収まり、労働市場がタイトになる時代に戻れば、若年層と育児や介護などを担う社員にとってはリモートワークが選択できる働き方を望む声はますます大きくなり、雇用者側もそれに応えていかざるを得ません。ただ彼らが満足できるレベルにまで普及するには時間がかかるだろう思います。

リモートマネジメント5つの誤解

期待するよりも時間がかかったとしても、リモートワークが普及することには間違いありません。その際、部下を管理する立場にあるマネジャーは新たなリモートマネジメントを効果的に行うことが求められます

残念ながらすべてのマネジャーがリモートマネジメントの準備が出来ているわけではありません。準備ができないマネジャーと彼らをサポートする人事の誤解として次の5つがあると思っています。

1. リモートであろうがオフィスであろうがマネジャーの役割は同じ
2. リモートではオフィス以上にマイクロマネジメントが必要
3. リモートワークでは必ず雇用形態はジョブ型に移行しなければならない
4. リモートではプロセス評価は不可能
5. これからの人事の役割はHRBPだ

リモートマネジメントが最も楽な部下とは

私は2012年から6年間、日本を含むアジア五か国の人事の責任を日本を本拠として担っていたことがあります。直属部下は各国の人事を担当するカントリーマネージャーです。彼らはそれぞれの国を本拠としていますから、たまに訪問してFace to Faceで面談することがあっても、ほとんどはリモートマネジメントをする必要がありました。

2013年から5年間は上記役割に加え、グループ全体の報酬と人材開発のダイレクターも兼務しており、こちらの直属部下は英国を本拠とするCenter of Excellenceの面々でした。こちらもほとんどはリモートマネジメントでした。

これらの経験からリモートワークで効果的に働くことができる業務・人には次のような特徴があると思っています。

1. タスク・アサインメントが明確な業務である
2. 最小限の指示で自己完結的に仕事を進めるプロフェッショナルである
3. 主体的に横のリーダーシップが発揮できる

こういう業務や部下ばかりであれば、ジョブ型雇用を性急に導入する必要は必ずしもありませんし、マイクロマネジメントは不要で、プロセス管理も心配いりません。

逆に言うと、業務がまだ明確でなかったり、部下が上記の条件を満たさない場合には、リモートマネジメントの負担は大きくなります。笑えない話ですが、私の場合実際に最もマネジメントの負担が大きかったのは日本のマネジャーでした。

昨今のコロナ禍でのリモートマネジメントの議論は、その部下の成長やスキル度合いが十把一絡げなところがあるか、あるいはまだ成長過程の若手社員の議論に集中している気がします。若手社員でも学習速度が速く対人関係力を得意とする人は上記条件に近いでしょうし、中堅社員でも専門性が低かったりまだ現行業務の経験が浅い場合は手間がかかります。

状況対応型リーダーシップ

Ken Blanchard状況対応型リーダーシップ(”Situational Leadership")を提唱したのは50年以上前の1969年でした。

彼は「平等でないものを平等に扱うことほど不平等なことはない」として、部下に対してすべて同じマネジメントを提供することの非合理性を説いています。

部下の発達度やスキル度合いの高低は、マネジャーとしての指示的行動の多寡に影響しますし、援助的行動の要否にも影響します。部下をこれらの要素の多寡に応じて類型化することでリーダーシップの提供方法を変えていく必要がある、というのが状況対応型リーダーシップです。

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Ken Branchardの本はたくさん翻訳されており、状況対応型リーダーシップが説明されている新1分間リーダーシップも簡単に入手できますので一度手にとってみてください。

今回紹介したHBRの記事では、さらにパフォーマンスが発揮できていない社員にハイライトしてマネジメントを提供する具体的なマネジメント手法が挙げられており参考になります。

1. 期待を再検討する
2. 相手をもっと知る
3. 腹を割って具体的に指摘する
4. パフォーマンス向上の方法を学べるよう手助けする
5. ほどよく密な接触を継続する

コロナ禍のリモートワークでの支援は

さらに、無理強いされたリモートワークでは、部下の肉体的・精神的なストレスが懸念されます。

英国のHR団体CIPDによるとこういった特殊な事情ではACE(Altruism, Compassion, Empathy: 利他主義、思いやり、共感)をリーダーは留意すべきだと主張しています。

組織内でもトップリーダー、部下を持つマネジャー、そして彼らをサポートする人事はこのACEを社内でコミュニケーションし、実行に移していくことでより一層深い信頼関係を築いていけます

昨今人事に対して戦略的なビジネスパートナー(HRBP)としての役割がクローズアップされ過ぎている傾向を感じます。もともとこの概念を主張した、David UlrichはHRBPの役割が増えていくとは言っても、それ以外の人事の役割が全く無くなるとは言っていません。

コロナ禍で組織と人が不安定にあるときは、組織の良心、Employee Championとしての人事の役割が大切になるのは当然のことです。

従業員の声により一層耳を傾けるとともに、具体的には、トップリーダーのACEコミュニケーションのサポート、リモート環境の整備、「効果的なリモートワークのガイドライン」の制定、疎遠になりがちな社員同士の交流の場・ノウハウ共有の場をオンラインに設置する、リモート環境でビジネススキルとしてより大切になるライティングスキルのトレーニング等の提供で社員が効果的に働くことができるような価値提供を行うと良いでしょう。

(本記事の内容についてより詳しくご相談されたい方はこのリンクからコンタクトください状況対応型リーダーシップトレーニングや効果的なリモートワークのガイドライン設定についてお手伝いいたします。)


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