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グローバルな企業文化を築くためには共感力を磨き、ハイブリッドな文化を築く覚悟が必要だ

先日ある人と潜在的なビジネスの可能性について議論させて頂いた際に、面白い案件が挙げられた。日本の大手企業からの依頼で、海外を本拠とする外国人上級幹部候補の人財プールに対して三か月の日本赴任を含めた継続的な研修案を考えている、と言うのだ。

その研修案の内容は以下の通り。

赴任前:座学で二日間企業戦略・企業フィロソフィー、日本文化に特化した異文化理解を深める研修を提供
日本への赴任中三か月日本で意思決定に関わる会議を傍聴するなど役員のかばん持ちをしてもらう。その際日本人経営者候補(20-30歳台、英語力有)に日本語通訳代わりのサポートをアサインする。受け入れに際してはOJTのルールを作る。
赴任後:フォロー・コーチング(リージョンでのDNA浸透

一瞬潜在顧客なので全否定する訳にはいかないと思ったが、この案には流石に難色を示す以外には考えられなかった。その理由は次の通りだ。

そもそも上級幹部候補は現在しっかりとした役職があり、日常的な責任もある幹部候補である。そういった実務を抱える人たちが3ケ月業務を抜けるようにという指示を受けることはどういうことを意味するのか。もし「あなたが三か月職場にいなくても組織は何とかなる」ということなら、その人は今も必要でないか、あるいはその組織は冗長なオーバーヘッドを抱えているということになる。いや流石にそうで無くて、上級幹部候補はその次のポジションに登用することが明確だというのであれば、まずは現職を新しく担当する人を決めた上で、次のポジションをオファーする必要がある

次に企業戦略・フィロソフィーの理解のために三か月かけて実務を離れたオフラインでの研修をすることに関しての効果性に対する疑問である。三か月日本で「役員のかばん持ち」や意思決定の場を傍聴することが本当にその目的のために効果があるのだろうか。その効果を測定できるのだろうか。

そして上級幹部候補のお世話役として20-30歳台の日本人経営者候補をアサインするというのは、上級幹部候補にとっては経営未経験の日本人の若手を自分が育成する意味はあっても、自分自身にとっては通訳以外のベネフィットは無い、と考えるだろう。

この事例で気がついたのが、結局こういう発想は、日本の組織や人事がメンバーシップ型雇用を前提とした日本人社員に実践していることを外国人にも効果的であると誤解して提供しようとしている、ということだ。きっとメンバーシップ型雇用で育った役員達が自分自身の経験から「かばん持ち」、すなわち「背中を見て真似をする」のが一番だと思ったのだろう。

しかしここで外国人の立場になってよく考え直して欲しい。日本人社員はメンバーシップ型雇用という特殊な雇用保障の下で数十年かけてその企業のフィロソフィーを身に着けているそれと同じことを外国人に要求し、わずか三か月日本に呼んで「役員のかばん持ち」をさせたら数十年かけたのと同じようなレベルにまで身につくのだろうか。また外国人を日本人化してエバンジェリストになることを期待するよりも、リージョンでDNAを浸透する役割で適任なのはむしろ日本人ではないのか。

しかも、ジョブ型雇用を前提とした外国人に、メンバーシップ型雇用の日本人社員で実践する方法を提供することは本当に正当(”Fair")なことなのだろうか。それは日本人に近い外国人を養成する、ということであり、多様化の方向性とは真逆である。

以前このnoteの「自由と責任」で「深く短く」と「浅く長く」という二元的な社員と会社の関係について述べた。二元論に陥るのは避けたいが、このかけ離れた会社との関係を理解せずに、同じ手法をとろう、というのは無謀、いや「日本人はできるが外国人はできていないので日本人に近くなるように日本と同じような方法を提供してあげよう」という「上から目線」の発想が前提で、あまりにもOne-wayではないか、とさえ思う。

この事例を昨日、別のコンサルタントに紹介すると、日本人には「謙虚さ」が無いからだ、という。日本人は「自分の方が知らない」、すなわち無知であることを認めるのを避けるがために、一方的な案を押し付けるのだ、というのだ。しかし、「謙虚さ」の規範は性別の自己肯定感にもつながっているという理論的考察もあり、「謙虚さ」は男性社会特有の問題かもしれない。それでは、もし性別に多様化した日本の人事チームであればこういった問題を避けられたのか、というとそうでも無いような気がする。

そういう中、今日Forbes日本で「山極寿一x石川俊祐 大切なのは「良い問い」があるかどうか」という対談を目にした。ここで注目したのは次の点である。

山極:(文化人類学でのフィールドワークは、)観察、というよりもなり切るという方が近いかもしれない。ゴリラは人間のように言葉を喋らないですから、何を考えているか質問に答えてくれるわけではないでしょう。だからまず、ゴリラの一員になって群れに受け入れてもらうところからのスタートです。今西錦司は、弟子に対して「まずはお前がゴリラや猿になってこい。その上で彼らの社会を描け」と言いました。一緒に行動し、前後左右をゴリラに囲まれながら生活感覚を体で会得していく。これが簡単なようで難しいんですが、同じ速度で歩き、同じものを食べることで少しずつ、ゴリラがどんなことに関心を持っているのかが見えてきます
石川:究極の共感、というか憑依ですね。
石川:それはデザインの分野でも全く同じです。しかし企業に目を向けてみると、新規事業やイノベーションを掲げている人でさえ、良い問いを立てられているケースは稀なように思います。
山極:何故だかわかりますか?
石川:物事の本質や目的を考えるトレーニングが足りていないのではないでしょうか。
山極:はっきり言うと、自分が住んでいる世界から出られていないし、出たいとも思っていないんですよね。今の人って旅行もしないし、あまり本も読まないでしょう。
石川:物事に対して違和感を感じるセンサーも弱まっています。
山極:世の中の「普通」が今ドラスティックに変化しています。今日の普通が明日の普通ではなくなる世界。でも実は、なにが普通でなにがそうでないかが判断できるのって、一度外に出たことがある人なんですよね。それに気がつかないと、流れに流されるままになってしまう。

この対談を読んで思ったのは、今日本の人事に欠けている視点は外国人社員に対する「共感力」に欠け、「自分が住んでいる世界から出たいと思っていない」ことに本質的な問題があるのではないかと思う。

私は日本人のグローバルリーダーを育てるジレンマとして日頃から「グローバルリーダーのロールモデルではない上司とグローバルな経験の無い人事が育成すること」にある、と色々な場所で言ってきた。そしてそのジレンマを打破する方法の一つとして、外国人人事と一緒になって人事の仕組みなりプログラムなりを考えることだ、と言ってきた。

今回の事例について、もし日本人人事だけで考えるのでは無く、外国人人事と一緒になって本来の目的(今回の場合は外国人に企業フィロソフィーを理解してもらうこと)を達成する方法をブレーンストーミングした上で最善の方法を考えていたならば上記のような案には間違い無くならなかっただろう

そしてそういったプロセスを経て、「自分が住んでいる世界」とは違う人と議論をしたりすり合わせを経験を日常的に積み重ねていけば、日本人の人事は外国人に対する「共感力」を身に着けていくことができる

誤解して欲しくないのはこういった外国人に対する「共感力」を身に着ける方法として、「海外駐在」経験をその唯一のソリューションと誤解することだ。私は「海外駐在」を10年以上しても異文化コミュニケーション力や適応力が身につかなかった人を何人も知っている。彼らはシャドーキャビネットのように影響力を発揮するが、メンバーシップ型雇用下での雇用保障を背に、身銭を切っていないので本当の意味での「共感力」を身につけることはなかった。

そうでは無く日常的に違う考え方に触れて、自らの常識が他者の常識では無いことを知ることこそ「共感力」を身に着け、ひいては組織に本当の多様化とイノベーションの源泉を植え付けることになるのだ。それを目指すのであれば、多様なメンバーとのアドホックなプロジェクト参画でも日本にいながら海外を本拠とする外国人上司や同僚・部下を持つことでも良い。

同様に日本企業がそのフィロソフィーを外国人にも知ってもらいたい、というなら、まずそのフィロソフィー自身が外国人が理解できるものになっているのかどうかを外国人と一緒になってすり合わせるプロセスが必要だ。日本で日本人だけで日本の文化のみを前提として出来上がったフィロソフィーを外国人に押し付けようと思っても決してうまく行かない。それは日本で培った高校サッカーの常識をワールドカップのサッカーに押し付けるようなものだ。

私は以前勤めていた企業の企業理念とその解説書を米国人異文化コンサルタントと一緒に一字一句外国人にわかるまで英語に翻訳した経験がある。それほど日本で培った考え方を海外で展開するには難しい壁があることを知っていたからだ、その地道な作業の結果、外国企業を買収した際に企業理念の点で被買収企業幹部と買収企業幹部で対立することは無かった。

その上でグローバルにビジネスを展開するのであれば、本当に組織として残すべきフィロソフィーと新しく取り入れるフィロソフィーをしっかり議論した上でハイブリッドなフィロソフィーを築いてこそ、日本人のみならず外国人が納得できるグローバル企業としてのフィロソフィーができるのだ。

日本企業がそういったプロセスを無視し、一方的な押し付けをしている限り、グローバルで多様なチームでグローバルビジネスというゲームに参加することはいつまで経っても叶わないだろう。

(本記事の内容についてより詳しくご相談されたい方はこのリンクからコンタクトください。外国人幹部候補の研修設計・実施、異文化トレーニング、グローバル人事組織作りや企業理念のグローバル化についてお手伝いいたします。)






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