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「人が好きな人」が人事に向かないわけ Part 1

「人事 = 人が好き」と思われがちだが、「本当に人が好きな人」は人事で苦しくなることが多いかもしれないと感じる。だからこそ人事にいる人は皆かなりドライなのだ。(でもそれを社員に悟られてはいけない・・・。)
人事内の各ポジションにおいて、「人が好きなこと」が吉と出るのか凶と出るのか。あくまで主観ではあるものの、人事を10年見てきた所感です。

人事をやっていると、人事になりたい人からの相談をよく受ける。

そしてなぜ人事をやりたいのかと聞くと、大体が「人が好きなんです!」と言う。

私も若いころはその傾向に違和感はなかった。

確かに人に興味がなければ、人事は務まらないと思う。

でもそれなりに人事を見てきて感じるのは、人事でそれなりの立場になっている人は、決して「人が好きなんです!」な人ではないということ。

そして「本当に人が好きな人」は、どこかのタイミングで、企業内人事とは違う道を歩いているか、または人事キャリアの中でスタックすることも多いということ。

・・・ということを、これまで幾度と説明してきて、自分なりに体系立てて整理してみたいなと思ったのと、もし今後聞かれたら「これ読んでみて」と言えるようなものがあれば良いなと思い、今回テーマにしてみた。人事への転職・就職に興味がある人はぜひ参考にしてほしいと思う。




まずはじめに

これを考えるためには、人事全体の組織図を理解した上で、各ファンクションごとに業務内容をいくつかに分けて考える必要がある。なぜならそれぞれが「専門職」であり強み弱みが異なるからだ。

※なお日系企業の多くは、「人事」の位置づけが外資系企業とは異なる。ここではあくまでグローバル企業でみられる「人事」で考えてみる。

※そもそも「人が好き」ってどういうことか定義が曖昧だが、ここではざっくり「他人に興味がある」「他人と話すのが楽しい」ということにする。


代表的な人事組織の一例

まずは今回想定している人事部の全体像をざっくり説明。これはあくまで、人事部の在り方の一例でしかないので、他にも様々なパターンがあることは申し添えておくが、広く受け入れられている形の一つだと思う。

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人事部とは主に「内向き=社内向け」の仕事であり、人事以外の部門を「社内顧客」と呼ぶ。

(※HR for HR と言って、人事部向けの人事も存在するが、それはマイナーなのでここでは割愛する。同じく、社顧客向けに、レクチャーを行ったり研修を行ったりするケースもあるが、それもマイナーなのでここでは割愛する。)

上の図で言うと、上半分が社内顧客、下半分が人事部(青い部分)になる。

人事内の組織構造はいくつかパターンがあるが、外資系でよく見られるのが上記のようにHRBPとCoEで大きく2つに分けるケース。金融では、投資銀行部門の組織構造(営業部隊と専門部隊に分かれる)に似ていることから、「投資銀行ストラクチャー」と呼ばれることもあるらしい。

◎ HRビジネスパートナー (HRBP): 各担当部門の人事全てに関する「相談役」であり「コンタクトパーソン」であり「執行者」でもある。必要に応じて各CoEと協同しソリューションを提供していく。「社内人事コンサル」のような人をイメージしてもらうと良い。シニアなHRBP (Sr. HRBP) は担当部門における人事責任者であったりもする。

◎ Center of Excellence (CoE):HRBPと協同で各部門を支援するほか、各専門分野の新規企画・運営などを担う。例えば新規企画の際は、各部門の現場の声をHRBPを通じて聞き取ったり、新制度発動の際には、HRBPを通じて各部門に説明したりする。

◎ Employee Relations (ER):上記とは一線を置いた部隊。例えばハラスメント対応や、解雇など、法的な要素が含まれる際に関わることが想定される。この部隊は会社によって、それ専門の人がいたり(弁護士資格を持っているケースもあれば持っていないケースもある)、HRBPが兼務したり、法務やコンプラと協同したり、と様々で、かつ特殊なため、このnoteでは割愛させて頂く。

そして最後に、当然、部門全体を統括する人事部長が存在する。

全体的な組織が見えたところで、各ポジションにおいて、はたして「人が好き」がどう働くのか考えてみよう。


人事部長

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人事をやるからには一度は意識したことがあるであろう「人事部長」から考えていきたいと思う。

人事部長という立場は、きわめて特殊だ。私から見て、もはや人事ではない。

私の中で理想的な人事部長とは、ビジネスの戦略家であり、人事の専門家である必要はない。逆にもし人事の専門家として稼働している人事部長がいたとしたら、それは大きく分けて、中小企業で人事部自体がまだ小さく、Playing Managerとして活躍する必要があるか、または「部の長」として機能していないか、のいずれかの可能性が高いと思う。

これまでグローバル社員数万人規模の会社をいくつか経験してきたが、私が感じた「優秀な人事部長」はいずれも人事出身ではなかった。ビジネス出身で、会社の収益モデルを深く理解し、ビジネスリーダー達と強固なリレーションを持ち、現場が何を求めているのかを可視化し、それを部下である人事の専門家に的確に伝え、あとは信じて任せるタイプだった。

このような人たちに至っては、「人が好きで人事やってます」などと聞いたことがない。人は好きかもしれないが、それと人事部長であることは、直接の因果関係ではない(人が好きだからビジネスで成功して結果的に人事部長に抜擢されたというケースはあるかもしれないが)。

彼らに期待されているのは、ビジネスの現場から遠くなりがちな人事部隊の担当者たちへ、ビジネスのニーズを明確に伝え、人事部としてどう動くべきかのビジョンを提示することである。そのビジョンやニーズを具体的な行動にどう落とし込むかは、部長より一つ下のレイヤーの「人事専門家」達が考えればよい。

このモデルがワークするのは、単に人事部が正しい方向に動けることだけでなく、人事に所属する者のモチベーションやキャリア構築への正の働きも大きいと私は思っている。

なぜなら、人事部には下記のようなリスクが常に存在しているが、ビジネス出身の人事部長がうまく機能すれば、そのリスクを大幅に軽減できるからだと考える。

一般的に人事内に存在するリスク

① 人事とは専門範囲が広く、すべての領域を満遍なく経験したことがある人はとても少ない。結果、人事部長が自分の限られた経験に基づいて、偏った知見やスタンスになるリスクがある。

② 人事には、人事畑が長く、ビジネスを経験していない人も多いので、頭でっかちになるリスクが存在する。

③ シニアな人事担当者になるとステークホルダーが増え、彼らが何を考えているか、求めているかを常に把握しておく必要があるが、全員と定期的にチェックインするには膨大な時間とコストがかかり、俯瞰的な視野も持ちにくい。

④ 人事とはビジネスと管理部門の狭間になるジレンマが常に存在し、社内での立場が難しくなるリスクが高い。

このようなときに、ビジネス出身の人事部長がいると、こうなる。

リスクが軽減される理由

①(良い意味でどの人事分野にもイコールに知見がないので)あくまでビジネスにとって何が最善なのか、中立的な立場で人事部としての判断ができる。

② ビジネス経験がないシニア人事メンバーは、人事部長との議論でビジネスへの理解を深めることができ、自分の成長にもつながるし、現場へのソリューション提供にも役立つ。

③ 人事部長が「代表」して、広い視点からのビジネス全体のニーズを吸い上げてくれるため、人事担当者は自分に何が求められているのか、足を踏み外すリスクが減る(※当然、担当者自身も現場とのリレーションを構築し自ら声を聞きにいく必要があることはいうまでもない)

④ ビジネスと管理部門、双方の立場を理解している部長によって、人事なりの難しさを双方に理解してもらいやすい。

以上はあくまで私がみてきた企業でワークしていた人事部長像である。もちろん、これ以外の形がワークするケースもあると思うので、それらを否定する意図は全くない。

ただ「人が好き」かどうかを人事部長のみでいえば、一切関係ない、いやむしろ人よりもビジネスが好きである必要があるのではと感じる。

人事部長は、今から人事に入る人にとっては遠い存在かもしれないが、人事部の本質を語る上で、人事部長の「位置づけ」を理解するのは大切なことだと思い、あえて紹介してみた。

(ちなみに、人事部出身以外の人が本部長に就任することには、人事部内の昇進を阻めることでもあるので、当然、賛否両論ある。これはまた別の機会に考えてみたいと思う。)


HR ビジネスパートナー (HRBP)

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これは1980年代後半に提唱され始めた人事ポジションで、今では外資系では当たり前のように存在するが、日系企業ではまだまだめずらしいと聞く。一部では HR Generalist と混同されることも多いが、本来期待される職務としては大きく異なる。

(※HRBPの業務内容は奥が深く一言では説明できないので、今日は割愛し、別の機会にじっくりと書きたいと思います。ご興味のある方は、こちらの記事(英語)をご参考にしてみてください。HRBPの歴史、目的、課題などが短くまとまっていると思います。)

HRBPには2通りあって、1つは人事部所属のまま、ある特定の部署の人事全般を担当するケース。もう1つは、ある特定の部署の所属となり、その部署の人間として人事的な業務をすべて引き受けるケース。

担当範囲は会社によってまちまちのようで、あくまで経営陣の戦略パートナーとして、トップダウン戦略の動きをするHRBPもいれば、社員1人1人に寄り添うような現場主義のHRBPもいる。

両方を掛け合わせたような立場のHRBPも多くいるだろう。

これは会社としてHRBPをどのような位置づけにするかでも変わってくるし、HRBP本人の思想(強み)でも変わってくる。

どちらが良い悪いではないが、一般的に前者はシニアなHRBP、後者はジュニアなHRBPという印象はある。

前者に至っては、「人が好き」などとは言ってられないだろう。相手は経営陣だし、各部門のリーダーたちと戦略的な議論をする中では、当然レイオフや降格、降給といった厳しい話もよく出てくる。ビジネスがうまくいっていなければ、人事としての責任も重い。

また昨今はData Driven ApproachとかPeople Analyticsが重要視され、いかにデータに基づいて戦略的に提案をできるか、動けるか、が人事にも問われているので、むしろ数字のセンスや統計などが日々求められている。

自分自身もシニアHRBPだった時、当然社員の気持ちに寄り添うことは必要になってくるが、そこに「人が好き」という感情が入ってくると自分がもたないことを痛感した。ましてやそれが自分と近しい社員で、ご飯をするような中だったらどうだろう。

好きとか嫌いとか、もうそんな気持ちは自分の首を苦しめるものでしかなくなってくる。

後者の「社員に寄り添うHRBP」になると、ようやく「人が好きな人」が向きそうな仕事に見える。しかしこれも大きな落とし穴で、結局人事への相談事というのは悩み、不安でしかないのだ。

「昇進しました、やったー!」と人事に相談しにくる人はいない。

「上司と合わない」
「昇進できない」
「給料が上がらない」
「この先のキャリアが見えない」
「同僚とうまくいかない」
「成長機会がない」
「異動したい(が受け入れてくれる先がない)」
「ハラスメントを受けている」

人事にくるのはたいていこのような相談だ。それに寄り添って解決法を一緒に見出す、またはハラスメントのようにあってはならないことであれば、すぐに対処することが求められるが、悩ましいのは、こういった相談には常に「反対側」が存在することだ。

そして人事の立場として、その「反対側」の主張も聞くことになる。その人もまた一社員なわけである。

どちらが正しい正しくないかは、ケースバイケースなのでここでは関係ない。

重要なのは、状況がどうであれ、一人事担当者としては、どちらかのサイドをとってはいけないし、淡々と中立的に対処しなくてはいけないということだ。

そして絶対にあってはいけないのは、これらの話を業務外に影響させることだ。たとえ、それがハラスメントをしている悪徳マネージャだったとしても、だ。会社として何かしらの判断(例えば解雇)がされるその瞬間まで、その人に対して一社員としてフェアに接しなければならない。

すれ違った時には、他の人にもするように「こんにちは」という。ほかの社員から個人的な「悪口(※)」を聞かされても、同意も否定もしない。ましてや業務上知りえたことを口外するなどもってのほかである。

※個人的な悪口なのか、人事へのエスカレーション(問題定義、内部通知)なのかは、的確に判断する必要がある。

ここまで聞くと分かるように、人事になると、ある意味「一個人として接しないようにする」必要が瞬間的に発生する。ただただ事実を掘り下げ、会社としてどのように対応すべきなのかを考え、アクションし、アドバイスする立場。それが人事としてできる「フェアネス」のように、感じる。

HRBPとして、どのように振る舞うのが社員そして会社にとってベストなのか、最終的な理想形は今後も検証していきたい。しかし少なくとも「人が好き」という感情が動機になるのは、危険なだけでなく人事本人も辛くなってしまうのではと思う。


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ここまで、人事組織全体、人事部長、HRBPをみてきた。

長くなるので今日はここまでにし、次回は、中途採用、新卒採用、Talent Development (研修)、労務、制度設計、人事に求められる要素、などをみていきたいと思う。

🌷ここまで読んでくださりありがとうございました!🌷


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