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トランスフォーメーション基礎編 vol.2. フェーズド・アプローチ 1.戦略策定 1.ビッグピクチャデザイン

前稿でトランスフォーメーションに関するレディネスについて記しました。貴社では首尾よくレディネスが整いましたか?たかがレディネスと侮るなかれ、多くの中小企業ではレディネス整備に四苦八苦した挙句、トランスフォーメーションへの挑戦自体を諦めるケースもあるくらい難渋するものです。

そのほとんどは結局のところ第一歩である「マインドセットの切り替え」が上手くできなかったことが原因です。マインドは経営者自身の問題であり、ここを切り替えていただけない限り、わたしたちには支援のしようがないのです。そんな企業の多くは、スモールビジネスのまま or リビングデッド化 or 清算・廃業・倒産のいずれかの道を辿ります。

景気判断も悪化を認めざるを得ない状況に転じました。「今までのように細々とでも継続していければいい、家族が路頭に迷わない程度の利益が出せればいい」という企業が生き延びられるだけの余地は、市場にはもうなくなってきていると考えねばなりません。

レディネス整備さえ上手くいかない現実を突きつけられたうえに、更に難題だとわかっているトランスフォーメーションに挑戦しなければならないのですから、皆様のご心情は察するにあまりあります。しかし、泣き言を言っている間に競合の後塵を拝することがあってはいけませんから、意を決して挑戦しましょう。


さて、本稿からいよいよトランスフォーメーションにどう取り組むかという「戦略策定」フェーズに入ります。構成は以下の通りです。

Ⅰ.戦略策定

1.ビッグピクチャデザイン
(1)構成要素
(2)発想と検討プロセスの一新
(3)ビッグピクチャの決定

2.トランスフォーメーション推進計画の策定
(1)中長期計画
(2)短期計画
(3)ゴールセッティング

3.マネジメント体制
(1)PMO
(2)人員選抜
(3)ルール&評価・報酬

長くなるのでシリーズ展開とし、初回は「1.ビッグピクチャデザイン」について記します。それでは始めます。

1.ビッグピクチャデザイン

ビッグピクチャとは経営者が想い描く10年程度後に到達したい「ありたい姿」を意味します。よく使われる「ビジョン」よりもう少し遠い未来の、企業が目指す究極の目標と言い換えてもいいでしょう。

激変する経営環境の中、「変化への即応」を重視する経営者は短期的な成果創出にウェイトを置きがちであり、株主もまた短期的なリターンを求める傾向が強まっています。「そんな折りに10年後のことを考える意味と価値は本当にあるのか?」と懐疑的な方もいらっしゃることでしょう。

実は、デジタル・テクノロジーがゲームとルールとプレイヤーの顔ぶれを一変させている今だからこそ、「自らの進む道を照らし出す指針を持つことの重要性」が増しているのです。

例えどんな変化が起きようと、自らの信ずる道を辿ることに専念して大きな成功を遂げているGAFA等を見ると、彼等の中には明確なビッグピクチャがあることをご推察いただけるのではないでしょうか。

では、ビッグピクチャのデザインプロセスについて記します。

(1)構成要素

ビッグピクチャの表現のしかたは、読む、あるいは見る方が理解しやすいものならなんでも構いませんが、3つの要素を押さえておきましょう。

①目標

企業が目指す「こうありたい」と強く願う姿について、究極的に到達したいレベルで明確にします。日々の業務目標ではないので、定量化に拘る必要はまったくなく、むしろ定性的で抽象化し、関係者がシェアしやすい概念としての表現が望ましいでしょう。

平成時代までのビジョン事例では、業界内ポジション、売上額・利益額、株式公開等を目標に掲げたものが多かったですが、ビッグピクチャとして目指すべき目標やアスピレーション(願望)としては少々馴染みにくいですね。

10年以上先の世界において、自社の創造価値が世の中に与えるインパクトが、人の考え方、生き方、暮らし方をどのように変えるのか、イメージを膨らませてみましょう。その時点で自社が有しているであろうシェアド・バリュー、CX、ケイパビリティ、カルチャ等のあるべき姿・レベル・状態が、ビッグピクチャとして掲げるに相応しい目標やアスピレーションです。

留意点は、デジタル化とグローバリゼーションの進展に伴って、目標・アスピレーションに相応しいと顧客が認めてくれるレベルのハードルが著しく高くなったことです。

例えば、地方の小規模事業者がインターネットショップに参画した途端、グローバル企業のネットショップや巨大プラットフォーマーのネットショップモールとのガチンコになるわけです。顧客にとっては、地方の小規模事業者でもグローバル企業でも巨大プラットフォーマーでも、みな同じ「売り手」ではありますが、価格、品質、サービスレベルを比べる時は、顧客にとってメリットを感じるほう、つまり高いレベルが基準になります。

Amazon、楽天、Yahoo!でのご自身のCXを振り返っていただくとイメージしやすいと思いますが、そこでのCXやサービスクォリティを基準として小規模事業者独自のネットショップを評価すると、どう感じるでしょうか?果たしてグローバル規模で戦っているネットショップに対して勝ち目があるでしょうか?

ZOZO、LOCONDO等は、送料無料、一部地域の即日配送、複数サイズの無料試着・返送無料等で一時期話題になりました。これも巨大プラットフォーマーが当時行っていなかったサービスで彼等の牙城に斬り込んだ例です。

今後も熾烈な争いを展開してくれるでしょうから、顧客としては楽しみですが、当事者となると新しい付加価値創造に気が抜けない日々が続き、一瞬たりとも遅れを取るわけにはいかない厳しい戦いが続くことを意味します。

ビッグピクチャとして相応しい目標・アスピレーションを考えるにあたっては、たとえ自分たちにとって精一杯ストレッチした目標であったとしても、競合する巨大プラットフォーマー等の優れたサービスクォリティをも、遙かに凌駕する「特別な何か」を顧客に提供できるレベルの目標でなければ、ビッグピクチャとしては相応しくないという事実にお気付きでしょうか。

現状よりも遙か彼方の、眩暈がするような極めて高い水準とならなければ、トランスフォーメーションしてまで辿り着くべきビッグピクチャとして相応しいレベルではありません。何度もレベル設定を検証しなおすことが必須となりますこと、ご覚悟くださいませ。

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