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「行政(政策)×デザイン」の試みは、なぜ成功して失敗したのか (4/4)

2017年7月から2019年夏頃までオーガナイザーとして動いていた「Policy Lab. Shiga」という滋賀県職員若手有志の取組みと顛末を、あくまで個人的な動機や思いに基づいて言語化する試みの、その最終回。前回の記事はこちら。

最終回は提言の後に起きた「失敗」について記しながら、成功と失敗を経て自分なりに学んだことを書きまとめてみる。失敗の記載について決して誰かを非難する意図はないのだけど、Policy Lab. Shiga としてここまでプロセスを明らかにすることを重視していながら、提言後の顛末を何一つ明かさないのは良くないと思い、あえて個人のブログで書くことにした(本記事中のイラストは http://policylab.shiga.jp/ から)。

提言からフェードアウトまで

まずこの動きを見届け続け、また応援し続けてくださっていた県内外の人たちのために、Policy Lab. Shiga のサイトでも報告ができていない、2019年4月以降のことについて、可能な限り書く。

2018年11月に行われた知事への提言後、提言メンバーは様々な部署へ話をもちかけに行った。その結果、平成31年度(令和元年度)から「職員研修」や「調査事業」といった2つの話が具体的に庁内で進んだ。これは詳細を下記ページに記してある。

しかし、知事との座談会の内容を文脈的に紐づけてこれらの事業がつくられたわけではなく、組織的ではない、あくまで個人的な人間関係によって承知された話だった。当初、両事業の担当者や上長らとは、年度明けてから Policy Lab. Shiga の提言メンバーらと一緒にこれらの話を進めていく旨、確認をしあっていたのだけど、年度明けた2019年4月、突如両事業の担当者や上長が全員異動したことによって暗転、調整が難しくなった。

更に所属の業務時間管理・残業時間抑制も厳しくなっていったことで、提言メンバー側も事務分掌に書かれていない仕事に関わりにくくなり、気がつけば一部を除き提言に関わったメンバーの殆どが、これらの職員研修や調査事業の話に主体的にタッチできなくなっていた。新任担当者側も提言の趣旨に意識を向ける余裕がなかったようで、提案者と担当者との間のコミュニケーションに溝が生じるようになった。

聞くところによると、職員研修は実施したらしく、調査事業のほうはとりあえずペンディングになっているらしい。でも我々とそれらの状況をフィードバックしあえているわけでもなく、特にこれらのプロセスや内容がどこかに公表されたわけでもないため、そもそも「デザイン思考の活用」を正しく実践しているのかは、我々ですらよく分からない状態になっている。

そして、Policy Lab. Shiga 自体も「引き続き個人の活動を応援すべく定期的に集まる場はつくり、一緒に知見をためていこう」としていたものの、これらの事情等も重なってコミュニティとしての熱がフェードアウトしてしまった。この状態で引き続き自分が前に立って県組織との調整に立ち続けると「対立構造化」してしまうことになる--、そうなることは何より不本意なので、全て仕切り直しの意味もこめて、2019年夏をもって自分は Policy Lab. Shiga のオーガナイザーを退くことにした。

今は提言メンバーのうち残った若手に運営を託したものの、インフォーマルな集まりによって一年間かけて温めてきた「熱意」をフォーマルな集まりである県庁に渡したつもりが、気がつけばその熱意が行方不明になったような感じで、応援してくれていた県内外の人たちにとても申し訳なく思っている。

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Policy Lab. Shiga はそもそもインフォーマルだから成立していた

しかしこうして振り返ると、失敗も宜なるかなという感じがする。

そもそも業務外非公式という形でトレーニングからの積み重ねをしていたのは、「デザイン思考というものが文化的に馴染まない組織に対して、デザイン思考をすぐに浸透させることはできない」ということを予め理解していたからだ。知事に提言したからといっても組織的な後ろ盾がない以上は、フォーマルを前提とする組織や人たちと急に話を進めたところで、チームとして成立しないに決まっている。

そこに気付かなかった自分が悪いと思った。前回の記事で「評価者に振り回されないようにしようとした」と書いたが、提言が県庁内外でそれなりにバズった(評価された)ことで、浮かれていたのかもしれない。

また、提言書も知事や幹部らに秒で伝わるようにわかりやすく書きまとめたものの、そもそも本の一冊だけを読んでデザイン思考を理解することが不可能であるというのも、当初から分かっていたことだ

つまり提言の時点で詰んでいたのだと思う。

2019年2月に MindLab をつくったクリスチャン・ベイソン氏と Policy Lab. Shiga の試みを共有させてもらう機会があったのだけど、そこで彼が我々に言ったことが今になって強く刺さる。

「内部のインフォーマルで自発的な取組みとして進めたことはすばらしい。カナダ政府のGC Entrepreneurに似ていると感じた。
またそこからフォーマルな取組みへとつなげる流れも興味深いが、公式化する際に気を付けるべきことは、インフォーマルでやっていた時の熱意を失うおそれがあるということだ。インフォーマルな取組みではなかった横槍が入ることもあるので、そこには注意しないといけない」。

「Policy Lab. Shiga はインフォーマルだから成立していた」のなら、GC Entrepreneur のように終始「業務外非公式」の部隊として活動を続け、極端な話、公務員が副業・兼業できるインフォーマル組織を起業するようなアクションが正しかったのかもしれない。この辺はタラレバの話にもなるけど、なんとなくそんな反省をしている。

It’s Better to be a Pirate than to Join the Navy

2017年7月に Policy Lab. Shiga のプロジェクトを立ち上げたとき、自分はこの言葉をコンセプトにしていた。

It’s Better to be a Pirate than to Join the Navy.
- Steve Jobs

この言葉はスティーブ・ジョブズが Lisa プロジェクトに対抗する形で社内で Macintosh プロジェクトを立ちあげた際、Mac のチームを奮い立たせた言葉のひとつと言われている。

Policy Lab. Shiga は、みんなでいわば「海賊」のごとく1年かけて実験行政的な試みを行い、周囲からのフィードバックを得ながら前を向き続けていたからこそ成立したプロジェクトだった。その熱意は「海軍」たる官僚組織へ簡単に伝播できるものではなく、そもそも海軍と合流するなんてことは、海軍トップが海賊にでもならない限りは本末転倒だったのだろうと思う。

今後

海賊として組織の変化を促せないのなら、せめて自分自身のこととして、このプロジェクトで学んだことを決して無駄にせず、何かしら自分が必要とされるフィールドで「行政(政策)×デザイン」の領域でのキャリアを積んでいけるよう、仕事としての行動を続けたい。

ちなみに自分はこの4月に部署異動となったのだが、そこで現在携わっている某事業で、日々寄せられる県民からの電話応対記録のラップアップから当初想定していた顧客像の検証を行い、クリエイティブを見直すといった試みを係として行ったりしている。全然「発散」できる時間などないし、「伴走者」もいないのが現実だけど、それでも自分からの提案に対してすんなり「やってみよう」と今の係員らが言ってくれたのは、たまたま彼らのうち数名が(互いに面識ない時に)Policy Lab. Shiga の提言を読んでくれていたかららしい。それは自分がいま置かれた状況のなかで一つの大きな救いとなっている。

今はとにかく与えられた環境のなかで、自分なりに出来ることを(自分のために)やっている。ただ、今後しっかり「行政(政策)×デザイン」の領域でのキャリアを積むためには、一度デザインに対してきちんと向き合える場でやり直した方がいいのかなとも思っていて、滋賀という活動拠点を変えることも視野に入れて、自分が大切にしてきたことを大切にできるこれからのアクションを模索しているところだ。