見出し画像

第3話「今日よりも明日が好き」

 通りに面した小さな垣根。誰にも気づかれない場所に植えられた紫陽花。排気ガスが揉みくちゃにしては汚すようだった。私がもしも、その立場だったら耐えれないだろう。葉っぱの上で、昼寝するみたいに眠っているカタツムリは平気なのか?

 あの日から数日間、私はニュース番組をハシゴして観ていた。だが、私の知りたいニュースが流れることはなかった。あの女は何も思わなかったのか?

 それとも警察に連絡はしたが、ニュースとして、世間に流れることはなかったかどちらかに違いない。

 だったらつまらない。私はそう思って、地面の蟻を踏み潰すように足元のモノを踏み潰した。すると、足元のモノが呻き声をあげて苦しんだ。けれど、そんなことはどうだっていい。私は苦しくないからだ。

 ホテルに置いて来た女がどうなったか、ホテルの人間に聞きたかったけど、それは色々と問題が起きそうだから諦めるとして、どうすれば良いのかを考えよう。

 今日よりも明日のことを考える方が好きだけど、今は今日の行動を考える方が正しい。臨機応変に行動することは、世渡り上手な人間にはうってつけだからだ。

 イチジクを取りに行った昔の私を思い浮かべながら、楽しかった思い出を繰り返す。リバイバル映画が流行っていた時代のように。

 まずは女の住んでる地区へ行ってみよう。会話をしてるとき、聞き出した住所を頼りにして女が目覚めたあと、枕元に置いた万年筆をどう思ったか?

 それをどうしたのか知りたい。果たして女は行動に移してくれたのか。それとも目覚めのシャワーを、すぐに浴びに浴室へ向かったのか。

 ここまでの行動は、あくまでも私の想像であって、女の行動が実際はどうだったのかわからない。そこに未知なるビジョンが存在しているのだ。もしも、女が私の望んだ行動をしていたら、万年筆を手にして思うことがあるだろう。

 あの人(私)の忘れ物かしら?とね。

 気持ちの高ぶりが滲んだ。その滲んだ気持ちを害するように、足元のモノが再び呻き声を上げた。

「五月蝿えなぁ」と私は足元のモノに向かって呟き、今度は息の根を止めるほどの勢いで踏みつけた。

 真っ暗な物置で、悲痛な声が聞こえたって無駄だった。足元のモノは、虫の息に変わり果てたから。そして私は証拠を残すように、足元のモノの手前へ万年筆を置いた。

 こいつは気付く前に命が終わったけど、あの女はまだ可能性のあるステージに居る。

 だったら確かめないとな。そして、私は女の住所を頼りに倉庫から出かけるのだった。

 第4話につづく