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読書メモpart1: グリーンジャイアント

第1章:カーボンニュートラル狂騒曲

エクソンというエネルギー界の世界王座の株価が2020年にネクステラ・エナジーというフロリダの地方企業よりも下回るなど、世界各国で老舗エネルギー企業が「グリーンジャイアント:再エネの巨人」に追い抜かれる現象が見られている。産業革命前と比較して、平均気温上昇を1.5度下げることを達成するため、2050年までにカーボンニュートラルを目指し、パリ協定をきっかけに、各国が法規制や新税制を打ち出している。

アメリカと中国の重要性

アメリカはバイデン大統領の指揮のもと、脱炭素を進めているが、トランプ政権時にパリ協定を脱退するなど政権が変わると政策が急転するというリスクがある。世界のCO2排出量を3割を占める中国も重要で、エネルギー供給のうち6割を石炭が占めており、増設が進んでいる。一方で、再エネも年々、2倍、3倍と増加しており、人口が増えているため両方のエネルギー供給が必要になっている。日本の再エネ比率が17%に対して、中国は29%と優に上回っている。

原発に対する認識の変化

福島の事故後、原発の危険性にフォーカスが行き、多くの国が原発依存から脱却してきた。しかし、原発は排出量も少なく、脱炭素の観点から見ると大きな役割を果たす。ドイツなどは火力に切り替えてしまった。旧来原発のリスクを減らした次世代原発が期待されている。

第2章:グリーンジャイアント

エネルやネクステラのようなグリーンジャイアントは、元々再エネに注力していたわけではなく、政府の規制の変化などに柔軟に対応して、高価なものだと考えられていた初期段階から補助金や買収を活用して、プレゼンスを高めていった。特に、ネクステラは原発や天然ガスなどCO2排出量は少ないが市場と技術が成熟している事業から利益を上げて、再エネに投資することで成長してきたため、ビジネスとしての基盤も手堅い。

現代の再エネ技術の出現

現代の再エネとして注目されている太陽光・風力。その中でも太陽光発電の技術は日本の三洋電機や京セラなどが強かった。しかし、日本での助成が終了したこと、中国企業の極端な値下げと量産に太刀打ちできず、シェアは落ちていった。中国企業の量産により、太陽光の値段は急激に下がり、一気に広まった。風力発電も同様に、欧州メーカーのリードを、中国メーカーが一気に追い抜いていった。しかし、自然条件によって発電量が変化するこれらの技術の間欠性の課題は解決されておらず、解決に重要な蓄電のイノベーションはまだ発展途上である。

日本市場関して

グリーン成長戦略では、2030年までに洋上風力発電を1000万キロワット、2040年までに3000−4000キロにまで引き上げるとしたことから、一気に洋上風力市場が盛り上がった。しかし、すでに多くの企業は洋上風力部門を売却・撤退しており、日本には実質プレイヤーがおらず、北欧など海外のプレイヤーが多く進出してきた。その中でも日本の再エネ企業「レノバ」は、実績を上げてきている。また、火力発電の半分を担っているJERAも最注力事業に洋上風力発電を上げており、海外プロジェクトや出資を通して、活動を活発化させている。

第3章:気候変動とマネー

総合商社もこぞって、石炭発電への新規案件投資は行わないことを発表し、2040年ごろまでに撤退することを発表している。
アクティビストによる、気候変動対策の提案や化石燃料関連の資産を売却するダイベストメントが世の中で進み始める。

年金積立金管理運用独立行政法人が国連責任投資原則に署名、つまり、ESGに沿って投資を行うことを決めた。900兆円を運用する最大手のブラックロックも、サスティナビリティに関する情報開示を怠った場合、反対票を投じる旨などを発表している。各国の中銀が加盟する金融安定理事会が創設したTCFDに基づいた積極的な情報開示も求められており、投資を得る1つの条件になっている。
このように長期的な資産運用会社がこれらのESG投資に舵を切るということは、この領域は長期的に儲かる領域であるということを暗に示す。

石油由来のエネルギーが使えなくなるということは、既存のインフラが使えなくなり、新しいものを作る必要がある。資源の再分配が起きるため、企業にとってはリスクでもあり、チャンスでもある。

第4章:テスラとトヨタ

イーロンマスクのようにカリスマが推進していく型とEUのように規制で包囲網を固めていく型がある。テスラは前者の象徴である。日本の企業は、EVで遅れをとっており、注力していたハブリッドカーなども将来的には規制されると予想される。この流れに乗った中国は、エンジン社では太刀打ちできないので、一気にEVに国を上げて注力し、できない理由ややらない理由を探さず、どうやったらできるかのマインドセットで、48万円のEVやニオなどを米国上場させてきた。EV化に伴い、車が電化製品のようにモジュール化されたことで、アップルなどの新参者も出てきた。その中で、日本がどう生き残るかは注目されており、EV市場にここから追従していくよりも、水素や全個体電池などの新技術が日本企業の戦えるフィールドではないか。

5章:気候変動とイノベーション

牛のゲップが含むメタンガスが、CO2の何十倍もの温暖化につながるリスクがあるため、プラントベースフードなどが増えている。
また、水素も注目されており、五大商社の石炭電力発電からの撤退はあるものの、製鉄に使う石炭はなお取引されている。製鉄においては、まだ技術的なブレークスルーがないからである。水素を還元材として使う技術が注目されてる。セメント産業も同様にレガシーな技術を活用している。そのため、出てしまうCO2を貯蔵回収する技術にも注目が集まっており、バイオマスをオイル状の物質に変換し、地中に閉じ込める技術などがある。
次が次世代原発技術である。小型化してリスクを最小限に抑えた原発やナトリウムを冷却に活用するビルゲイツが出資する次世代原発「ナトリウム」などがある。濃縮度を高めてウランの使用量を減らすや簡素化することでヒューマンエラーを防ぐなど色々な新技術が出ている。

6章:日本の勝ち筋

水素・アンモニアの中でも、輸入に頼る必要のないアンモニアで勝負することが日本の勝ち筋と筆者はいう。JERAの会長は、LNGと石炭と混ぜて、アンモニアを使用すること脱炭素を図ることができるといい、将来的には、アンモニアのみを専焼を目指している。もう1つは、原発技術である。原発議論から逃げてきているため、廃止も古い原発の改善も、新しい原発の開発も議論できていない。原発は危険なものではあるが、大規模な電源としての役割は大きく、具体的な原発に対する施策を明示するべきである。

感じたこと

欧米が法規制を通して、新しい市場とそれに伴う技術を開発し、中国が量産化・社会実装化するという流れの中で、日本は今後どのようなポジショニングをとっていくのか明確化していく必要がある。労働力減少などを考えると中国のように大量生産による低コスト化の役割を担うことは難しい。今回は、再エネや自動車、代替タンパク質などが紹介されていたが、リサイクル技術やブロックチェーンマイニング技術など環境負荷が問題視されている領域は他にもあり、中途半端なポジショニングを取らないことが大切である。

EUや米国のルールメイキングにできる限り積極的に参加し、時代に合った技術開発に投資をすることで国際社会に遅れを取らないようにすること。蓄電池やアンモニアなど欧米諸国が目指す社会に実現に必要な要素技術に張り、サプライチェーンにおいて必要不可欠な存在になっていく必要がある。
また、アジア市場においては、近隣諸国を巻き込み、日本がリーダーとなり、ルールメイキングを行っていくことで、フォロワーではなく市場を作る立場になっていく必要があると感じた。


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