【祝!復活!】異形コレクション ダーク・ロマンス【刊行】

“われら”が伝説的アンソロジーシリーズ「異形コレクション」が再開された。あんまりにも嬉しいので、昔作った同人誌に書いた記事を採録してお祝いしようと思います。

以下に採録するのは、大体20歳前後の頃に作成して学祭で頒布したSF研会誌(無料、コピー誌、100部くらい配ったかな?)に載せた記事。手元には試し刷りしたものしか残っていないが、データを発掘出来た。

なんらかの誤解や情報のミスなど含んでいるかも知れないが、思い出深いので、そのまま載せることにした。間違いの指摘は歓迎(読み返して即悲鳴をあげるタイプのミスは直したつもり……)。noteの形式に合わせて若干の編集はしています。肩肘の張り方とか未熟な文章とか初々しいですね……(目を逸らす)。

記事の内容は、異形コレクションの公募からデビューした作家で、僕が大好きな多岐亡羊の総レビューです。


▼『多岐亡羊総レビュー』

『わたしのまちのかわいいねこすぽっと』
(「異形コレクション32‐魔地図」
2005年4月20日発行)
『バード・オブ・プレイ』
(「異形コレクション36‐進化論」
2006年8月20日発行)
『カサネカガミの人魚』
(「小説宝石」誌 2007年8月号)
『雪迷子』
(「異形コレクション39‐ひとにぎりの異形」2007年12月20日発行)
『証拠写真による呪いの掛け方と破り方』
(「異形コレクション42‐幻想探偵」
2009年2月20日発行)

▼作家・多岐亡羊について

「異形コレクションで一番好きな作家は?」と聞かれたら、僕は真っ先に多岐亡羊を挙げる(本当は「あと岡本賢一も!」と叫びたいが我慢)。いきなり作家名を挙げられても、とんと見当がつかないという方が大半なのも無理はない。上記に示した多岐亡羊の小説は(それも全て短編である)五編だが、これだけで商業流通の著作全てを網羅しているのだ。さらに言えば、上記の作品全てがアンソロジーと雑誌に掲載されたもので、単行本にはまとまっていない。超マイナー作家であるのもむべなるかな。しかしながら、寡作であるからといって良い作家、良い小説が読まれないのは「MOTTAINAI !」の一言である。そこで今回、出来るだけ多くの読書家に多岐亡羊を紹介するため、作者に関する情報と各作品のあらすじ、ネタバレしない範囲内での書評を加えてレビューする。

▼「わたしのまちのかわいいねこすぽっと」

異形コレクションの短編公募からデビューした短編作家の奇才、多岐亡羊の記念すべき処女作である。この作品に関しては、収録元アンソロジー「異形コレクションⅩⅩⅩⅡ 魔地図」の井上雅彦氏の “選考を終えて”においてネタバレ無しの範囲では語り尽くされていると思うが、井上氏が文句無しに最優秀賞を与えていることからも分かるように、敢えて僕自身の言葉でも語りたいと、そう思わせる作品である。
一目でほんわかしてしまうラヴリーでリリカルなタイトルと読者の良心を抉る真相、そして感動的な結末と、この短い中によくぞここまで二転三転するストーリィを詰め込んでくれたと思う。それも、全てが計算しつくされ、巧妙に張り巡らされた伏線を予想外且つ残酷過ぎる真相へ繋げる技量には特筆すべきものがある。
孤高の美少女妖魔ハンター累霄花(かさねそらか)を主人公に据え、舞台はミッション系の名門女子校とライトノベル的作品の典型とも言うべき設定のこの作品だが、遊びを排除し、それでいて叙情的な文章と現代の闇を浮き彫りにする題材によって小説として高い水準に達している。
自殺したロリ少女と愛する野良猫たちとの出会いの場を示した遺品の地図「わたしのまちのかわいいねこすぽっと」、暗躍する霄花の目的とは?
出来るだけ先入観を捨て、ストーリィに没入して読んで欲しい。読後には無類の感動とこの作品が短編連作であることに対する喜びが貴方の心に湧き上がることだろう。

▼「バード・オブ・プレイ」

異形コレクション―進化論―収録、表題は英語で猛禽を意味する。前作よりのパートナー柊木スミレとともに高所からの転落死を誘発する死霊たちを灼滅させていく累霄花。しかし、連続する高層ビルからの不審な転落死の原因は死霊たちではなかった。死体の上で円周を描きながら飛び、死者の脳髄を喰らう様子を目撃されていた鴉たちが原因だったのである。
そんな中、事件の謎を追うスミレの知人の来栖刑事が死亡する。死者を差別しない来栖刑事の信念から、事件の真相を見出した霄花たちは鴉の凶行を止めるため、来栖刑事の弔い合戦のため、鴉たちが本拠地とする森林公園の通信塔へ向かうのだった。
進化論の名に違わず高度な知性を獲得し、道具まで使って霄花たちを追い詰める鴉たちのアイデアが魅力的。そして表題に隠されたダブルミーニング。鴉たちは単なる知性だけではなく、文化までも発展させている。彼らの神へと人間を生贄に捧げる鴉たちに恐怖を覚えないはずはない。
表題 Bird of prey(猛禽) は Bird of pray(祈りの鳥) でもあったのだ。
もちろん、霄花とスミレの百合々々しい描写は健在、どころか強化されているので紳士諸君も正座の上、刮目してみて頂きたい。

▼「カサネカガミの人魚」

小説宝石2007年8月号ミステリー&ホラー特集で掲載された。前二作と世界観を共有する番外編で、霄花もスミレも登場しないが、二人の通う夜山城女子学院出身の女性が登場する。
ダイビング中に事故死した相棒、瀬能真帆の一周忌に、彼女が死んだ”黒淵“に再び潜水を試みる鈴村孝雄。海辺の町に伝わる因習と願掛けの儀式。目撃される不気味な予兆。そして暴露される事故に偽装された巧妙な犯罪と失敗。作品全体としてはオカルト成分は薄めで、ミステリ要素のある犯罪譚としてみても良く出来ている。人々の心の闇を発端として起こる怪奇と破局、その中でわずかに救いをみせる手法は相変わらず秀逸。悪意にも汚されない善意や愛情といったものが読者を感動に導いてくれる。

▼「雪迷子」

異形コレクション―ひとにぎりの異形―に収録されたショートショート。
雪の降るクリスマスイヴにさ迷う二人の少女の残滓が怪異を引き起こす。現在と過去、死者と生者の交錯を怪異と犯罪、スミレの成長に絡めて描く傑作。
ショッキング且つ残虐な犯罪と犠牲となる無垢な少女たちは多岐亡羊の持ち味。守りたくて守れなかったもの、変わらない想いという多岐亡羊作品に共通するテーマがほんの数ページの中で心にしみこんでくる。
この事件については(というより二人がクリスマスイヴ一緒にいたこと)珍しく次作の冒頭において言及されている。

▼「証拠写真による呪いの掛け方と破り方」

異形コレクション―幻想探偵―に収録された本作は僕の多岐亡羊との初めての出会いとなった思い出の作品であり、シリーズ中一番気に入っている作品でもある。幻想探偵という累霄花のためにあるかのようなテーマの下、ヒロインたちの犠牲の血に塗れた著者の筆が光る一作。
シリーズ一作目でも登場した瀬野さつきとの歓談から始まる本作、暴かれる犯罪の悲惨さはシリーズ中随一である。番犬と通称される生徒会連絡員であるスミレは、生徒会長である浅倉葉月から年齢も外見も様々な男たちと繁華街を歩く霄花の写真を突きつけられ、援助交際の調査を依頼される。まさか霄花が、と尾行を開始したスミレは、声を掛けてきた見ず知らずの男とホテルに入る霄花を目撃してしまう。
悩んだ末、霄花の目的を知るためにスミレは一人調査を続行するが、霄花とホテルに入っていった男たちが翌日事故死していることを知る。
シリーズ最長でもある本作では、少女売春組織が手を染めた残虐行為と凄惨とさえ言える霄花の断罪が描かれる。表題ともリンクする被害者の少女への救済と一見冷酷な霄花の人の痛みを引き受ける慈愛が感動的。
ちなみにこの作品を読むたび、僕の中でキマシタワー建設がはかどります。空の境界っぽい(これに限らないけど)、とか言ってはいけません。


以上が採録した記事。ありえないミスを発見して(ただし、最終稿は行方不明なので、印刷した時間によっては直っているかも。足りなくてミスを直しながら刷って製本を繰り返したので)、修正は一応しました。

異形コレクション総レビューやるやる詐欺師だけど、まだ諦めていないんだぜ!(死亡フラグ)(頑張ります……)(投げ銭したら捗る……かも知れない)

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