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前書き、独り言多めの読書感想文(京極夏彦さん『書楼弔堂待宵』)


 何故自分がこうして書いているのか。
 最近偶然見かけた、マコなり社長が言っていた「付加価値をつける」
 根はペテン師だけど、もしかしたら本来販売対象でない人にも届くかもしれない。偶然ここを通りがかった人が興味を持ってくれたなら。いや、そんな高尚なものではない。

 根はただ「共感」がしたいだけ。

 自分のしていることの意味が少しだけ分かった気がする。


【書楼弔堂】破暁、炎昼に続くシリーズ3作目。
 誰もが聞いたことのある時代の偉人が、名を伏せた状態で本屋に訪れ、ふさわしい一冊を買い求めるテンプレ。短編集で、今回取り上げる『待宵』は13〜18までの6本を収録。
 文字の書かれているものなら何でも買うという店主とのやり取りから、その人の人柄、時代が見える。カテゴリとして、心に焦点を当てれば国語、時代背景に焦点を当てれば日本史に分類される、もはや教科書。歴史を語る上で切っても切れない戦争を根に置きつつ、一方で文化的繁栄を遂げてきた近代を描く。
 今回取り上げるのは「権威に噛みつき、笑い飛ばす者」「綺麗の正体を知りたい者」「己が正義に全てを奪われた者」の3本。

 本作の語り手は「江戸に生き、老いて明治に生き永らえる老人」。博識な店主と、のちに名を残す偉人のやり取りを眼前に、この男自身にも舌し難い過去があるようで。
 時代の波に本弄され、何が正しいのか信じられない世の中。それは何も過去に限った話ではなく、今尚通じる真理。



〈貴族よりも平民が、武備よりも生産が優先することは間違いないのです。腕力世界より平和世界の方が将来的だ。貴族は平民に克服され、武力は経済に克服される。ならば、最終的には平和がある〉(『史乗』より)



 理想論。違う。
「本当はそうあるべき」と「そのためにやっているのだ」と分かっているはずなのに、渦中で目の前のことに必死になると見えなくなってしまうことがある。懸命に対処していく中で、目的に違った行動をしてしまう可能性もある。そうしてその中に取り返しのつかないことが紛れ込んでいるかもしれない。普段とは違う、例えば心拍数、不眠、精神的な余裕のなさ、著しい体力の消耗など、原因は何だっていい。
 大事なのは「今自分は冷静ではない」と認識することであり、安易に目の前の快不快に流されないこと。
 時間差で知る真実もある。正しいと思っていたことが間違っていたことだってある。どうしようもない、仕方のないことだってある。それでも大事なのは「その時」「その瞬間」の決断に後悔しないこと。同じ瞬間に巡り会おうとて、同じ決断をすると胸を張って言えること。


 人は、死ぬ。何はなくとも死ぬ。
 戦争は無くならない。どれだけ史実を積み上げようと、今尚起きている。国の文化的発展の背後に聞こえるその足音。
 平和のエアポケットから見上げる。

 せめてこの本が少しでも多くの人に読まれますように。
 これは、烏滸がましくも己が言葉を持って、共感、その付加価値をつけんがため残した記録である。








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