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12月25日(2)放射能の健康リスク

放射能の健康リスクを考えましょう。LNT仮説が極低線量まで成り立つとして、「100ミリシーベルトでがん死が0.5%増える」を受け入れます。致死量は20シーベルトになります。

田崎さんの本の表5.3を見ると、次のことがわかります。50年間の年間平均被ばく線量を1とすると、1年目の被ばく線量は5倍、2年目の被ばく線量は4倍。そして、3年目は3倍、4年目は2.5倍と、ゆっくり低減していきます。

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私の地図で1uSv/hの場合を考えます。福島県中通り(福島市や郡山市など)81万人が該当します。田崎本の表5.3にあるように50年積算で114ミリシーベルト被ばくします。ただし、実際の被ばく量は、風雨で生活圏から放射性物質が移動することによって0.5倍になります。そして、建物の遮蔽効果で0.6倍になります。さらに、人体の大部分が水でできていることによる実効線量効果で0.7倍になります。合計0.21倍になりますから、被ばく線量は24ミリシーベルトです。

81万人が24ミリシーベルト被ばくしますから、集団被ばく線量は1万9400シーベルト・人になります。これを致死量20シーベルトで割ると、死者期待値972人が得られます。810人に1人が死亡することになります。ただし50年間です。

毎年4万人に1人が死亡する計算になります。これは、交通事故死リスクの3/4です。また、4万人の集団は毎年400人が死亡しますから、死者400人のうち1人が2011年3月の原発事故による放射能によるがん死だというわけです。

次に、私の地図で0.25uSv/hの場合を考えてみましょう。首都圏東部などの460万人が該当します。50年積算は24ミリシーベルトの1/4で6ミリシーベルトです。集団被ばく線量は2万8000シーベルト・人になります。致死量20シーベルトで割ると、死者期待値は1380人です。3300人に1人が死亡します。ただし50年間です。

毎年16万人に1人が死亡する計算になります。これは、交通事故死リスクの1/5です。また、16万人の集団は毎年1600人が死亡しますから、死者1600人のうち1人が2011年3月の原発事故による放射能によるがん死だというわけです。

同様に計算すると、0.06uSv/hの場合は死者期待値2250人になります。がん死する人の数は、原発近傍より縁辺部のほうが多くなります。その理由は、縁辺部の人口が多いからです。

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結局、福島第一原発事故によるがん死者数は、次になります。
▼外部被ばくによる死者 4700人
 ・福島県 1000人
 ・首都圏東部 1400人
 ・首都圏全域 2300人
▼内部被ばくによる死者 600人

合計5300人です。ただし50年間の数字です。これを多いと見るか、少ないと見るか、意見は人それぞれでしょう。

リスクを評価するときは、そのリスクだけを見るのではなく、ほかのリスクと比較することが肝要です。下の表は、さまざま年間死亡リスクを比較したものです。年齢が死亡リスクをもっとも大きく左右していることがわかります。20歳のみなさんの死亡リスクは1/1000ですが、90歳の老人の死亡リスクは1/5です。じいちゃんばあちゃんが先に死ぬことは暗黙の了解ですが、数値で比較するとこうなります。200倍違います。

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職業でくらべます。もっぱらデスクワークする公務員の死亡リスクは1/3万ですが、ヘリコプターパイロットは1/170です。ヘリコプターはたいへん危険な乗り物なのです。喫煙が1/200なのにも注目しましょう。

がんの死亡リスクは1/500です。病気と比べると事故死は少ない。全事故でも1/5000で、がんの1/10です。自動車事故の死亡リスクはいま1/3万です(上の図の1/2万はちょっと古い)。これが一番実感しやすいから、上で放射能リスクをそれと比べました。3/4とか1/5とかの結果になりました。

JR各駅の放射能リスクを交通事故死リスクと比較してみましょう。大野駅は、福島第一原発が立地する大熊町にある駅です。常磐線が3月に全線開通したので、今月(2020年12月)、降り立ってみました。駅前の通りは歩けますが、通りに面した住宅にはすべてフェンスが張られていて、立ち入ることができませんでした。

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2025年の放射能リスクを交通事故死リスクと比較すると、大野駅で4倍、福島駅で0.5倍、柏駅で0.12倍、東京駅で0.03倍になります。大野駅前の通りにフェンスを張り巡らしているのはしごく妥当な処置だと思われます。

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さまざまなリスクを相互に比較するときの指標に損失余命があります。交通事故死のリスクは、1年あたり寿命を半日短縮しています。それは、こうやって計算します。いま日本では、1年あたり、3万人に1人が交通事故で死亡します。死亡した人が失う余命を40年とすると1万4600日です。これを3万人で割ると、ひとりあたり半日になります。

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放射能による損失余命を計算してみましょう。致死量を20Svとすると、1mSvで寿命が1日短縮します。1Bqで寿命が1秒短縮します。交通事故のリスクで1年あたり半日短縮と比べて、みなさんはどう感じますか?

質問

福島第一原発事故からまもなく10年がたとうとしていますが、放射能に汚染された日本列島であなたはどのように暮らしていこうと考えますか。この授業を受けたいまの考えをMoodleのフィードバックに書き込みなさい。

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