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12月4日(2)食品汚染と風評被害

放射能汚染は3月中旬に起こりましたから、その年の田植えまで1か月しか猶予がありませんでした。

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政府は、次の二つの地域では稲の作付制限をおこなうと4月8日に発表しました。
1)避難地域と屋内退避地域
2)食品衛生法上の暫定規制値500Bq/kgを超える可能性の高い地域

2)については、土から稲への移行係数を0.1とみて、5000Bq/kgの田んぼでは稲を作付けてはいけないとしました。しかし、田んぼの土が地表からどこまでの深さにあたるかを政府は明記しなかったので、5000Bq/kgの意味するところははっきりしませんでした。放射性セシウムは地表に降り積もったまま下に浸み込まずに地表から2センチまでに留まっていますから、土の深さを5センチとすれば、高濃度になります。15センチとすれば3分の1に薄まります。

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食品の汚染はBq/kgで表現しますが、土地の汚染はBq/m2で表現します。政府は、この二つの単位の換算方法をきちんと定義しなかったと言えます。少なくとも、4月8日文書には書いてありません。

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実験室での測定結果はBq/kgで報告されますが、田んぼの汚染を表現するためには、それをBq/m2に換算する必要があります。

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その後、政府は換算係数65を呈示しました。Bq/kgの数字に65を掛けるとBq/m2の数字になるというわけです。

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換算係数65は、土の深さ5センチを意味します。それはこういう計算です。100cm × 100cm × 5cm の水の重さは50キロです。土の場合は、密度が1.3g/cm3程度ですから、65キロになります。重さ65キロの土に含まれるセシウム量が、田んぼ1m2の上に降り積もったセシウムの量にあたります。1キロあたりに含まれるセシウムの量を示す測定結果を65倍して65キロあたりのセシウム量を言えば、それが田んぼの汚染を表現します。土を深さ5センチまで採取して測定試料とするのを政府が標準としたということです。

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深さ5センチが標準だとすると、5000Bq/kgは325kBq/m2にあたります。上は2012年9月12日に文部科学省が公表したセシウム137の沈着量を示す地図です。意図的にわかりにくく色分けされているようにも思えますが、300kBq/m2以上は避難地域にしかないようです。

ただし事故直後は、セシウム134もセシウム137と等量ありましたから、セシウム137だけを表現したこの図の数値は2倍するのが適当です。また、5キロあるいは10キロメッシュで(平均値を)表現していますから、セシウムが濃集した田んぼがあっても平均に埋没してしまっているでしょう。

ただし2011年は、多くの地域が田んぼのセシウム汚染を測ることなく、そのまま稲を作付けしました。測って基準を超える結果が出るのが怖かったのでしょう。政府の4月8日文書は、実質的には、効力を発揮しなかったのです。

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試料採取する土の深さを何センチにするかを考えずに土地の汚染を測るよい方法があります。採取した面積を測っておけば、どの深さまで試料採取してもかまいません。

測定所からのセシウム報告はBq/kgで来ます。それに試料の重さkgを掛ければ、セシウム量がわかります。それを面積で割れば、Bq/m2が直接的に求まります。深さやら密度やらが介入することがありません。こうすれば、簡便かつ正確に地表汚染を測ることができます。しかし、この方法が採用されたとはとんと聞きません。

セシウムはいまでも地表下2センチに留まっていますから、深さを気にすることなく、できるだけ広く試料採取したほうがよい測定結果が得られます。

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福島市の田んぼのセシウム汚染は、2013年10月になってようやく新聞記事になりました。5000Bq/kgを超えた地点が少なくありませんでした。なかには3万Bq/kgを超えた地点もあったそうです。

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2011年に福島で収穫されたコメのいくつかが、暫定規制値500Bq/kgを超えました。左図の赤風船9つがそれです。右図に示したように、コメの汚染は福島県外にも及びました。栃木県と茨城県では、暫定規制値以下ではありますが、50Bq/kgを超えるコメが収穫されました。

福島県は、2011年産のコメをいったんは流通させましたが、暫定規制値を超えるコメが出たことを受けて、2011年産すべてを市場から回収して倉庫にいれました。そのコメがその後どうなったかの報道はありません。家畜のえさにでもなったのでしょうか。

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福島県は、2012年からコメの全量全袋検査を始めました。すべてのコメを袋に詰めてベルトコンベア式検査器に通してスクリーニングして、(事故から1年たって変更された)基準値100Bq/kgを超える可能性がある袋を選び出して詳細検査する仕組みです。

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全量全袋検査2年目にあたる2013年の結果です。1年目2012年と比較できます。2013年に基準値100Bq/kgを超えたコメは10袋余でした。2012年は80袋程度でした。

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2013年11月の食品放射能測定結果の例です。この時期、基準値100Bq/kgを超えるのはキノコにほとんど限られるようになりました。セシウム134がセシウム137の4割程度に測られているのが、2011年の原発事故由来のセシウムであることをよく保証しています。

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このような食品汚染のなか、農家の生活を優先するか、子供の健康を優先するか、価値観の綱引きが各地で繰り広げられました。

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福島市が、2013年1月、それまで学校給食に出していた会津産のコメを、市内産のコメに変えるというニュースです。ただし、20Bq/kg未満に限って使うそうです。県外に対して福島県産のコメを消費するよう働きかけながら、自分のところでは学校給食に福島市産を使っていなかったのは驚きですし、使うようになっても、市場に流通させている100Bq/kg未満ではなく20Bq/kg未満に限るとしたのも驚きです。100Bq/kgと20Bq/kgの間のコメはいったい誰が食べるのでしょうか。収入のために市場に出すが孫には食べさせられないと吐露した農家と同じことを、福島市が公然とやりました。

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2016年2月の映画『大地を受け継ぐ』は、農地を放射能で汚染されてしまった農家の苦悩をよく描いています。買い控えする消費者を一方的に責めるのではなく、福島県の農作物が放射能汚染されているは風評にすぎないのではなく現実だと樽川さんは認めて、それではどうするか考えます。簡単な答えはありません。

風評とはうわさのことです。うわさの内容には真と偽があります。偽のうわさで被害を受けたらたまりません。さて、真のうわさで被害をうけたときはどうでしょうか。

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放射能汚染の場合、加害者がいて生産者を痛めつけました。それによる損失を、生産者は加害者に請求することなく、消費者に転化しようとしました。消費者が買い控えすることを風評被害と呼んで、なじりました。本来は、加害者に対して損害賠償を請求すべき事案でしたのに。

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農林水産省が「食べて応援」という標語をつくって消費を喚起しました。加害者である東電と国の賠償責任を軽減しようとするものです。わたしは賛成できません。

生産者は賠償金が得られれば転業できますが、流通業者はその業種が途絶えれば既得権を失ってしまいます。役所もそうです。業種を継続することを大前提として事後処理が進みました。

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岐阜県で、コバエが混入したパンが給食で児童の食膳に提供されたそうです。教諭が、コバエをちぎりとって食べるよう児童を指導したそうです。そういうものでしょうか。コバエが混入したパンは、おなかを壊すことがないとしても、食べるのはいやです。薄気味悪い。セシウムだってそうです。

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陸水の魚のセシウムは、海の魚と比べて、なかなか減りません。とくに湖の魚(ワカサギなど)には長くセシウムが残ります。赤城大沼でも、榛名湖でも、ワカサギが100Bq/kgを下回るまで5年くらいかかりました。淡水魚の汚染状況は私の放射能汚染地図とよく合います。これは、2012年9月に水産庁が私の放射能汚染地図を説明に利用した事例です。

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2013年10月のクリの放射能です。試料半数がセシウムの検出限界以下ですが、20Bq/kgを超えるクリも散見されました。

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スギ林は放射能にとくにひどく汚染されています。放射能雲が通過した3月に緑の葉がついていたのでセシウムをよく吸着したようです。スギ林の気温と湿度がちょうどよいらしく、その中でシイタケがよく栽培されています。シイタケはキノコですからセシウムを集めるのが得意です。東日本でとれた原木栽培のシイタケにはセシウムがたくさん含まれています。この状況は、まもなく10年になろうとするいま現在も続いているはずです。

200Bq/kgのキノコを毎日100グラム食べるとします。毎日20Bqを1年続けると、田崎さんの本で勉強したように、0.1mSv被ばくします。20万人が食べれば20Svに達します。これは致死量にあたりますから、誰か1人が死亡します。毎年20万人に1人が死亡するリスクです。みなさんはこれを容認しますか?

もし容認するなら、原木栽培でもシイタケは躊躇なくて食べてよいことになります。原木栽培したシイタケは菌床栽培よりおいしいですからね。

20Bq × 365日 × 20万人は15億Bqです。15億Bq食べると死ぬと考えて、だいたいよいです。ひとりで食べるには、なかなかたいへんそうな量です。

カリウムとセシウム

ひとの体内には放射性物質であるカリウム40が4000Bqあります。放射性セシウムを毎日30Bq取り続けると、余分なセシウムは尿として体外に排出されて、4000Bqで体内平衡に達します。セシウムの摂取許容量として毎日30Bqは目安になりそうです。(重要なことなので、田崎さんの本で勉強したことを復習しました。)

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質問

1)あなたは、福島県で今年2020年に取れたコメを買って食べますか?

2)あなたは、福島県で原木栽培されたシイタケを今冬の鍋に入れて食べますか?

回答を、Moodleのフィードバックに書き込みなさい。


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