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ハヤカワ文庫の初歩から始めるミステリ講座公開!(後篇)

ハヤカワ文庫のミステリフェアで店頭ブックレットでご紹介させていただいた「一緒に学ぼう! ハヤカワ文庫の 初歩から始めるミステリ講座」を大公開の後篇です。
前篇はコチラをクリック

ミステリを偏愛し編集してきた先生と、昨年からミステリの編集を始めた生徒、ふたりの掛け合いで、ざっくり基本の4ジャンルとその歴史、そして教科書となるような必読の名作ををご紹介していきます。
各作品については、noteのこちらもご参考ください。

「一緒に学ぼう! 初歩から始めるミステリ講座」フェア始まりました(前半)
「一緒に学ぼう! 初歩から始めるミステリ講座」フェア始まりました(後半)

ミステリ講座説明

キャラ立ちミステリ講座

*名探偵と相棒

生徒 キャラクターが立っていると話にも入りやすいじゃないですか。キャラ立ちが特徴的な作品のおすすめを教えてください。

先生 名探偵は非現実的とされましたが、逆にキャラ立ちを特徴とすることで復活して読まれています。ミステリ史上最強キャラであるホームズの人気は根強くて、いろんなパスティーシュが出ていますが、その最新形といえるのが『IQ』です。

生徒 ヒップホップやLA界隈の描写が魅力的なんですよね。

先生 ワトスンのような助手も出てきて、お兄さんの謎もあるし、正典を踏まえているのもわかる一方で、ホームズをまったく知らなくても楽しめます。

生徒 名探偵といえば、ツイスト博士が出てくる『第四の扉』はキャラ立ちもありつつ、本のつくりが入れ子構造になっています。ミステリのなかにさらにミステリがあるというのはよくあることでしょうか。

先生 人気のガジェットですね。クリスティーの『そして誰もいなくなった』にも手記が出てくるように、メタ的な展開が好きな人はたまらないです。

生徒 『IQ』にもあるようなバディものもよくある形式ですか?

先生 名探偵は全部わかってしまう人なので、読者の為にわかっていない人の視点を補う人物が必要ですよね。もちろん名探偵を物理的・心理的に助ける役目もあります。

生徒 ホームズとワトスン、ポアロとヘイスティングズみたいな。

先生 IQと元ギャングのドッドソンみたいなね。

生徒 二人の関係性も愛でていきたいです。

*ハードでタフな人情家

先生 『ママは何でも知っている』に出てくるブロンクスのママは、安楽椅子探偵ものでもあります。刑事の息子から事件の話を聞いただけで主婦のママが謎を解いてしまう小気味よい話です。

生徒 『ダラスの赤い髪』に登場するダラス市警麻薬捜査課の赤毛の刑事ベティも印象的です。

先生 アメリカ南部の麻薬カルテルとの対立を描いていますから、社会派でもありますね。

生徒 ベティはハードでタフでした。

先生 ハードでタフといえば、『ロング・グッドバイ』のフィリップ・マーロウが代表格です。こちらはハードボイルドの傑作ですが、ホームズに対抗しうる探偵像として、今も愛されています。

生徒 流行りすたりのあるなかで生き残っているのは、やはり魅力的なキャラクターですよね。マーロウは人間臭いところが素敵です。

非英語圏ミステリ講座

*北欧ミステリはなぜ暗い?

生徒 最近はいろいろな国の作品が邦訳されて読みやすくなってきています。北欧好きなのでそのあたりのミステリについても知りたいです。

先生 北欧出身の作家では、マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールーとヘニング・マンケル以外はなかなか広がらなかったんですが、世界的な大ベストセラーとなったスティーグ・ラーソンの『ミレニアム』刊行で潮目が変わります。日本では2008年のこと。北欧ミステリが新しい鉱脈だといわれ、北欧の優れたミステリに贈られる「ガラスの鍵」賞が注目されたりして。それまでは英語圏が翻訳の中心で、あってもフランスかドイツでしたから。

生徒 北欧ミステリはすごく暗いというか、心にドシンとくるようなイメージです。

先生 北欧の冬は極寒で家にこもるので、物語は長ければ長いほど、重ければ重いほど良い傾向があるそうです。『ミレニアム』に限らず、女性の権利をはじめとするさまざまな社会問題をはらみ、キャラクターも立っていて、スリルも謎解きもある、スケールの大きいミステリが多いですね。

*非英語圏ミステリはおいしいところ取り

生徒 私、カールとアサドのバディものとしても素敵な『特捜部Q』が大好きです。

先生 デンマークの警察事情や移民問題もわかるお得なシリーズ!

生徒 非英語圏のミステリは今回習ったものの全部載せのような印象を受けたんですが、それは最初にミステリの本流が出来たのが英米だからなのでしょうか。

先生 そこを基盤にしながら独自の文化と融合させたり、その国の社会問題を織り込んだりしているので、てんこもりのようになっていくのかも。1990年代に、『マーチ博士の四人の息子』が出たときは、フランス・ミステリ独特の奇妙で不穏な雰囲気を持つサスペンスに、ハリウッド的なケレン味とイギリス伝統の謎解きが加わって、同じようなてんこもり感で、日本でも注目されました。

生徒 まさにおいしいところ取りですね。これから新たにきそうな国はどこですか?

先生 くるくるといわれて、まだなのが中南米です。メキシコは麻薬抗争の激戦区で、移民問題もあって、アメリカではそのあたりを扱った作品がミステリのメインストリームといってもいいくらいなので。海外に行きやすくなって、インターネットが発達して、かつて海外ミステリの大きな楽しみのひとつだった異国文化を知る喜びが減少しました。でも、非英語圏のミステリはわからないことも多く、新鮮で刺激的です。近年、中国語圏や韓国の作品が訳されるようになってきたのも同じ流れの中にあります。

生徒 まだまだ面白いミステリが今後たくさん出てきそうですね!


「初歩から始めるミステリ講座」いかがでしたでしょうか。ほんとうに駆け足で、説明の足りないところも多々ありますが、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
先生と生徒も楽しいミステリをもっともっと知って、またみなさまに素敵なミステリをたくさんご紹介していきたいと思ってます。そのときまで、しばしのお別れです。ギムレットには早すぎるね、と言える日まで。Long Goodbye!



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