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ドストエフスキーからラブライブ!まで――中国ミステリ作家、陸秋槎を生んだ34作

新刊『雪が白いとき、かつそのときに限り』が10月3日に発売される華文(中国)ミステリ作家・陸秋槎氏は、『元年春之祭』で本屋大賞翻訳部門の第2位ほか各種ランキングを席巻するなど実力派であり、その作風は日本のサブカルチャーも大きな原動力となっています。ということで新刊の刊行を記念して、ミステリマガジン2019年3月号に掲載されたエッセイ「陸秋槎を作った小説・映画・ゲーム・アニメ」を公開します。世代によっては実家のような安心感を得られそうなラインナップをお楽しみください。(編集部)

■小説


ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』
中井英夫『虚無への供物』

 前者は高校時代に読んだ一番印象深い小説で、後者は大学時代に読んだもっとも衝撃的な作品。この二冊の小説は似てると感じる。『虚無への供物』の最後に五〇年代日本の災害を列挙するのは、『カラマーゾフの兄弟』に書かれた児童虐待のエピソードと同じ意図ではないかと思う。哲学的な殺人動機も深くて、とても美しい。そしてこの二冊の名作の影響で、ポリフォニー小説を書きたくなった。

ヘルマン・ヘッセ『春の嵐』
 一番好きなビルドウンクス・ロマン。日本の青春小説も結構ビルドウンクス・ロマンの影響を受けたと思う。

カルヴィーノ『見えない都市』
ボルヘス『エル・アレフ』

 高校時代に中国語に翻訳されたカルヴィーノの作品を読破したが、ボルヘスはちょっと難しくて大学時代にいっぱい読んだ。『見えない都市』は何度も再読し、マルコ・ポーロとフビライ汗が対話するという形が気に入り、自分の短篇「1797年のザナドゥ」はかなり影響を受けた。『エル・アレフ』を読んだあと数学の本をいっぱい漁って、のち「連続体仮説」など短篇を執筆の参考になった。

テッド・チャン「あなたの人生の物語」
 タイトルがアニメ『トップをねらえ2』の最終話に引用されたから、気になって読んだ。天才としか言えない。「ゼロで割る」「商人と錬金術師の門」「息吹」などテッド・チャン氏の他の短篇も愛読だ。素晴らしすぎて、読んだらSFを書く勇気を失ってしまった。
(編集部注:その後ご執筆いただきました)

西尾維新『クビキリサイクル』
 高校の時、まだミステリファンではなかった僕がラノベとして読んだ作品。ミステリ名作よりこのような「セカイ系」と呼ばれてる作品を先に読んだ僕は、最初からやばい道を歩き始めたかな。しかし、これはアニメオタクにとって当たり前の運命ではないか。

米澤穂信『さよなら妖精』
 教養主義と「日常の謎」の伝統を受け継いで、「セカイ系」を意識して、そして最後の推理はまさかエラリイ・クイーン的な消去法を使って、独自の青春ミステリを確立した不思議な作品。

三津田信三『厭魅の如き憑くもの』
麻耶雄嵩『隻眼の少女』
 日本語版のあとがきにも書いたが、この二冊の傑作と出会わなければ、きっと『元年春之祭』を書けなかったと思う。

太宰治『女生徒』『葉桜と魔笛』
栗本薫『優しい密室』
北村薫『秋の花』
加納朋子『ガラスの麒麟』
辻村深月『オーダーメイド殺人クラブ』

 前日高原英理先生の『少女領域』を読んでいた時の考えだけど、自分の小説もいわゆる「少女型意識」があふれたかもしれない。もちろんアニメかゲームの影響もあるけど、やはり日本の小説を愛読することも原因でしょうか。

■映画

『第三の男』(一九四九)
 フィルム・ノワールが好きだ。特にフィルム・ノワールのセリフは、マネしたいほど格好良すぎる。もちろんセリフは一番すごいのはこの映画だと思う。ちなみに、初めてロス・マクドナルドの小説を読んだ時にも、「これはフィルム・ノワールだ!」と叫び出した。

『ピクニックatハンギング・ロック』(一九七五)
 とにかく美しい。これ以上美しい映画は存在すると思わない。女子校の舞台も、百合っぽい人間関係も、少女たちが消えたという謎も、ポーの引用も、星菫派と言われる可能性があるけど、全部私が求めてる美学だ。

『クー嶺街少年殺人事件』(一九九一)
 母語でこの名作を鑑賞できることは幸甚だ。

『汚れなき情事』(二〇〇九)
 イヤミスの極北。邦訳のタイトルは同じの『エイジ・オブ・イノセンス』も素晴らしい。

『エンジェル ウォーズ』(二〇一一)
 非常に過小評価された傑作。メタ構造の完成度が高いし、堂々と自分のオタク趣味を表すザック・スナイダー監督に脱帽した。

■ゲーム

『Memories Off』
 小学六年生の僕が始めてやったアドベンチャーゲーム。このシリーズはだいたい学園恋愛物だけど、ミステリっぽい内容が多い。特に第七作の『ゆびきりの記憶』、完全に恋愛ミステリになった。中国で結構有名なシリーズなので、八作で終わったけど中国マネーによって復活する可能性もあるかな。

『EVER17』
 中三の夏休みにクリアしたゲーム。完璧しか言えない。あの時まだミステリを読んだことがないから、仕掛けを見通せなかった。だからか、ものすごくびっくりした。今の自分なら絶対最初から分かるだろう。


『CROSS†CHANNEL』
『キラ☆キラ』
『White Album2』
 この三作は個人的な魂の名作。『CROSS†CHANNEL』は実存主義の視点から人間関係を論じた。『キラ☆キラ』は青春の全能感と無力感という米澤穂信的なテーマを見事に表現した。『White Album2』は恋愛ゲーム版の『エイジ・オブ・イノセンス』。

『DARK SOULS』シリーズ
 最近結構ハマってるシリーズ。もともと中世ヨーロッパ的なファンタジーが好きで、独自のゴシック的な美学にも惚れた。

■アニメ

『ノワール』
 自分の人生を狂わせた作品。それから百合の道に堕ちた。二人の女の子の冒険譚をめちゃくちゃ好む。海外ドラマ『ジーナ』シリーズ以降、このような作品が少ないと言えないが、『ノワール』の完成度は一番高いと思う。

『マリア様がみてる』
『ストロベリー・パニック』
 王道すぎる百合アニメ。群像劇としても最高。藤堂志摩子と涼水玉青は神推し。『ストロベリー・パニック』はいまでもBlu-ray化されないことに許せないと感じる。

『ココロ図書館』
 このアニメの影響で、図書館の司書として働きながら小説を執筆すればいいなぁと思って、のち大学院に進学した時に書誌学を専攻した。けっきょくならなかったけど。

『ぱにぽにだっしゅ!』
 高校時代一番好きな作品。僕の小説はよく読者に引用が多すぎると言われているが、それはこのネタだらけのアニメの影響かもしれない。

『氷菓』
 ずっと前から「日常の謎」を書きたかったが、中国のミステリファンも出版社も興味なさそうだった。しかし中国で圧倒的な人気を持ってる京都アニメーションが『氷菓』をアニメ化された以来、本来ミステリを全然読まなかった人も「日常の謎」というジャンルが好きになった。いつか「日常の謎」の連作集を書こうと思う。

『ラブライブ!』
 尊い。好きすぎて勝手に「僕たちはひとつの光」の中国語版の歌詞を書いた。絢瀬絵里の個人回「やりたいことは」を百回以上視聴した。そして二〇一六年四月一日に東京ドームでµ,sのメンバーと一緒に泣いた。アニメ一期を見て、このような「みんなで叶えた物語」を書きたくなった。中国の高校でアイドルをやるのはさすが無理だけど、女の子たちが一緒に校内の機関誌を編集する物語ならいいかもしれないと考えた(大学の時に学校新聞の編集者だった。その経験を活用)。そしてこの設定を基づいて「前奏曲」という短篇を書いて、雑誌の新人賞をもらってデビューした。完成した形は最初の構想から大変外れたが、『ラブライブ!』を見たことがなければ、デビュー作になった短篇を書けなかったでしょう。

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『元年春之祭』
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